第2話 おちゃめな美少女、雲原日和
「いや、それは良くないよ。流石に父親として止めるよ」
年頃の男子が美少女を誘う。邪な気持ちがあると取られても仕方ない。
実際、父親が俺のことをそういう人間だと思っているわけではないと思うけど、今回は体裁もあって、俺のことを諫めているのだ。
「修二さん、私も彰くんとお話ししたいことがあったので、二人っきりにしていただけると嬉しいです」
日和さんのほうも何か俺に用事があるのか、提案に乗り気だった。
「ど、どうします、は、春子さん」
「何も問題ないと思いますよ」
娘への絶対の信頼があるように感じた。春子さんは本当に俺の発言に対しても何とも思っていなさそうだからだ。
仮に俺が日和さんに詰め寄ったって、特段問題にすらならなそう。
「……あんまり遠くにいかないようにな」
「うん。父さんたちも楽しんで」
俺と日和さんは席を立ってレストランから立ち去る。
後に出てくると言われていたデザートが心残りだった。
☆ ☆ ☆
レストランが入っていた商業ビルから出てきた俺たち。
近くに立っていた街路樹は、まだ葉をつけ始めたばかり。
冬の面影を残す冷たい風が俺のそばを通り過ぎていく。それでも、地表に届く春の太陽がまぶしい。
「……一応聞きたいんだけど、日和さんって、俺と同じクラスの雲原日和さん?」
「そこに自信無いんですか……? 流石にクラスメイトの名前くらい覚えておいた方が良いと思いますよ。宮野口高校二年二組の鳥羽彰くん?」
呆れたような、不機嫌そうな顔つき。
普段、話したことがないとは言え、流石に確認するのは無礼だった。
「ごめん。まさか、紹介されるのがクラスメイトだなんて思ってもみなくて……」
「……それは私もです。小さい弟か妹ができると思っていたのに」
日和さんはちょっと拗ねたような表情を見せる。
同い年ですいません……。
「結構子ども好きなの?」
「いえ、人並みだと思います。ただ単にさっきの意趣返しです」
微笑みながら日和さんは言った。
俺がわざわざ、クラスメイトであるかどうかの確認を取った事への意地悪返し。
おちゃめだ。
「それで、わざわざ私を外に連れ出した理由は何ですか? 大方の察しはつきますけど……」
何だか笑うのを堪えているように見える日和さん。
確かに、あの親たちの情けない様子を思い出すと笑いたくもなってくる。
「日和さんも分かっていると思うけど、親たちのことだよ」
「ですよね。全く見ていられたものじゃないですよ……」
そう、俺たちのせいであんなにも緊張しているのは可哀想だ。だけど、日和さんからは申し訳なさそうに思っているようには見えない。気のせいかな?
「俺たちに恥ずかしいところを見せちゃいけないからって、緊張しすぎだったから、店を出ようって誘ったんだ」
「……へ? あはははは!」
日和さんは聞いたことのないような声で笑っていた。
よっぽど面白かったのか、顔がくしゃくしゃだ。
そして、ひとしきり笑った後に息も絶え絶えになりながら言った。
「ち、違うよ鳥羽くん。君のお父さんのことは推測でしかないけど、あの二人はただ単に奥手で恥ずかしがり屋なだけなんだと思いますよ」
「……そ、そうなの!?」
「少なくとも私のお母さんは『どうしよう!? 修二さんがかっこよすぎて何を話したらいいかわからない!』って言ってましたよ、ふふっ」
まさか中年の二人が恋愛下手なんて有り得ないだろ……と思っていたけど、それが本当だったとは。レストランで見ていた光景がただ単に恥ずかしいから話せなかっただけだなんて思ってもみなかった。
確かにそれは笑いたくもなる。
まるで小学生みたいな恋愛だ。中学生だってもっとまともに話せるよ。
「だから私は笑いを堪えているのが難しくて、てっきり鳥羽くんもそうなんだと思ってました」
それを察して俺が店を出ると提案した、と彼女は考えていたわけだ。
でも俺はもっとお堅い理由で考えてしまった。
「俺の父親もそうなのかなあ……」
「見ている限りではそういう印象でしたね。小学生の頃、私に告白しに来た男子みたいでしたよ、緊張してガチガチの。親の恋愛なのに可愛いと思っちゃいましたよ」
日和さんはにこやかな笑みで語った。小学生男子と同レベルだと。
つまり俺の親たちは小学生くらいの恋愛を楽しんでいる……?
でも、男女関係に苦労してきた親たちが初心な恋愛を楽しんでいるのは決して悪いことではないと思う。悪い事ではないと思うのだが……。
「日和さん」
「はっ、はい! 何でしょうか……?」
名前を呼んだらびっくりしたように表情を強張らせた。
二人っきりで名前呼びはまずかっただろうか。日和の母、春子さんと区別するためだったけど良くなかったか。
「ごめん、雲原さん……二人が可愛い恋愛するのは良いと思うんだけど、再婚したら? って言いだしたのは俺なんだよ」
「私もそうですよ。迷っていたようだったので勧めました」
日和さんもそうなのか。
だったら尚の事、彼女にも協力してもらいたいことがあった。
「あの親たちじゃ再婚までに何年かかるか分からないと思うんだよ。だから、俺たち二人で再婚の手助けをしない?」
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