親の再婚のためにクラスの美少女と色々と企んでたけど、俺たちの方が早く結婚しそうな件

綿紙チル

第1話 初対面ではない連れ子たち

 俺、鳥羽彰とばあきらは父親に呼ばれ、高級そうなレストランに来ていた。

 普段着で来て欲しいと言われたから敢えてただの私服で来た。けど、どう考えても浮いているような気がする。

 

 何のためにこのレストランに呼ばれたかは分かっている。

 父親がお付き合いしている女性と会うためだ。


 五年ほど前に俺の母親は、父親と自分を捨てて消えた。


 年月が経過し、立ち直った父親は再婚するための相手を探している。その候補というのが、今日紹介される女性だ。

 

 ただ、再婚することが決定したわけではない。

 父親は真面目なので、付き合うことを決めた女性には僕のことを早い段階で紹介すると決めていたらしい。さすが、「真面目過ぎ、つまらない」と妻に捨てられた男の真面目さには磨きがかかっている。


 そんな彼が一年以上かけて出会った女性。

 毎回「女性と会うのは緊張する……」と言っていた父親だからこそ、付き合うまでに時間がかかったのだろう。


 四十過ぎて奥手。隣から見ても緊張でガチガチ。


 一回、トイレでも行かせてくるか……。

 そう思っていたが、父親が立ち上がった。


「こ、こっちです!」


 レストランの入り口付近にいた二人の女性を手招きした。

 二人……? と一瞬考えたが、そう言えば相手の女性にも連れ子がいると聞いていた。でも、まさか見たことのある顔だとは思ってもみなかった。


 親の外見はかなり若く見える。

 一緒にいる子どもが妹に見えてしまいそうだ。

 ただ、着ているコートは使い込まれていて、庶民的な雰囲気を感じる。


 一方で子どもの方。

 周りにいる者を惹きつけるような魅力を放つ圧倒的にいい顔。

 派手な格好などせず、素体だけの美しさを十二分に強調する服装。この高級レストランという場において、あれだけカジュアルな格好なのに浮いてしまわないのは彼女ただ一人だろうと思わせるくらいだ。

 案内している店員に向ける笑顔はあまりにも破壊力が強すぎたのか、店員はまともに彼女の顔を見れていない。


 でも決して自らの美貌に驕ったりすることのない美少女であることを、俺は知っていた。そんな彼女と目が合う。


 向こうも目を丸くして明らかに驚いている顔つき。

 そんな彼女らが近づいて来て、俺たちの対面で立ち止まった。


「初めましてあきらくん。私は君のお父さんとお付き合いしてる雲原春子くもはらはるこです。こっちは娘の日和ひよりです」

 

 綺麗なお辞儀が美しい母娘だった。

 さっきまでビックリしていたとは思えないほど、その所作は様になっていた。


 それに返すように父親が挨拶する。


「初めまして日和さん。僕は鳥羽修二とばしゅうじです。隣のは息子のあきら。よろしくね」


 俺たちも二人でお辞儀する。

 そんな形式的な挨拶を経て、椅子に座った。


 俺の目線と雲原さん……日和さんとの視線が交差した。

 にこやかに微笑みかけてくる彼女に、僕も笑顔を見せようとする。


 雲原日和くもはらひより

 端的に説明すれば俺のクラスをまとめている美少女だ。

 男女問わずに堕としてしまいそうなルックス。

 クラスで困っている人には必ず手を差し伸べる人の良さ。


 ほぼ接点がない俺でもそれくらいは知っていた。


 つまり、俺と彼女は顔見知りだった。

 だが、互いに驚いてしまい、状況に流されて知り合いだと言うタイミングを失ってしまった。


 まあ、それはそれで悪くないかもしれない。

 今日の主役はそもそも俺たちの両親。


 ここで俺と彼女が顔見知りで普通に話し出したら、ただの親トークになってしまいかねない。だから、俺と日和さんは相槌を打つくらいの状態でいた方が良い。


 そんな風に考えていた。


「は、春子さんは、先週の、土日、ど、何をしてました?」

「そ、そう、ですね……えっと……娘と一緒にアニメの映画を、見に行きました」

「「…………」」


 会話のキャッチボールが一往復しただけで終わってしまった。

 な、なんなんだろう。

 親たちは見つめ合っているが、互いにそれ以上に言葉を発しない。

 ほんのりと耳が赤くなっているようにも見えるけど、流石に気のせいだ。


 決して険悪な雰囲気ではない。

 それなのに、どうして会話が続かないのか。


 黙りこくっている空間に、料理が届いた。

 高そうな国産牛のステーキだ。

 普段は半額の鮮度の悪い状態でしか食べられないステーキ。油で輝く表面と、鮮やかな肉の赤み。肉の香りが食欲をそそる。


 がっついていると思われない程度のペースで食べながら親のほうを観察する。


「お、おいしいですね……こんなに高いお肉を食べたのは……久しぶりです……」

「そ、そうですね。は、春子さんに、喜んでもらえて、光栄です」


 料理の感想を言い合う二人。

 どこか言葉がつっかえつっかえなのは気になるが、話せるようになって良かった。


 一方で両者の握るフォークが小刻みに震えていた。

 まさか……緊張している?


 さっきからのしどろもどろな会話もそういうことなんじゃないか。

 四十を超えるような大人が二人して何をやっているのだろう。


 だけど将来の子どもたちを前にしてしまうと、そんなものなのだろうか。

 流石に二人が恋愛下手で、どうしたらいいのか分からないってことはないはずだしなあ……。


 であれば、子である俺がすべきことは一つしかない。

 

「父さん。春子さん。俺、日和さんと仲良くなっておきたいので、ちょっと二人で遊んで来ても良いでしょうか?」


 負担になっている子どもたちが自ら消え去れれば、両親はストレスフリーに過ごせるはずだ。というか、そうなってもらわないと困る。

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