第41話衝突と不満:家族旅行の興奮と苦悩
会社のリフレッシュ休暇を使っての家族ドライブ。初日は伊那谷のふもとにある昼神温泉で疲れを落として、翌日は園原インターから中央道を通って岡谷インターで降りて、ビーナスラインを通って軽井沢を目指した。途中の駒ヶ根付近では駒ケ岳がくっきりと見えて、美しい山容を披露してくれた。この駒ケ岳、私はJR飯田線の駒ヶ根駅からバスに乗ってしらび平まで乗って、駒ケ岳ロープウェイに乗り換えて千畳式まで行ったことがあるが、駒ヶ根駅から乗ったバスはかなり険しい山道を通るので、乗り物酔いをされる方は酔い止めを用意して言ったほうがいいかもしれない。私が行ったときは日本カモシカが見られるというおまけまでついてた。千畳式駅は日本に存在する駅の中で、一番標高の高いところにある駅で、GWに行ったのであるが、まだ冬の装いであった。千畳式周辺を散策してみたが、氷河期に作られたカール状の地形が見られて、かつてここが厚い氷河に覆われていたことを物語っていた。
その駒ヶ根を過ぎて岡谷インターで中央道を降りて、ビーナスラインを走ると、やがて東洋のスイスとも称される諏訪湖湖畔に出まる。諏訪湖というと、冬のときに見られる御神渡が有名なところ。ここは日本3急流のひとつに数えられる天竜川の源流で、ここからはるか太平洋目指して流れ下っていくことになる。ちなみに天竜川流域の伊那谷地方には田切という地名が数多く存在する。大田切・小田切・白田切などがその代表例であるが、この田切という地名は、南北に細長くのびた伊那谷の両側は、東側に南アルプス・西側に中央アルプスの山がそびえており、その標高の高い山から天竜川に勢いよく、川の水がたぎり落ちるように流れるさまからついたということである。地名からもこの地方の地形の険しさが伝わってくる。
その諏訪湖畔を快調に走って、野麦峠を越えて急な下り坂を下っていくと、やがて軽井沢に到着。ここは高原の避暑地として有名で、この日は高原のコテージに宿泊して、浅間山のふもとに湧き出る温泉に浸かりながら夜空を見上げると、本当に降ってきそうなくらい綺麗な星空が広がっていた。夜空を見ながら温泉に浸かる。これこそ露天風呂の醍醐味である。そして風呂から上がって夜風に吹かれていると、高原の心地よい夏の風が吹き抜けていった。
しかし、この旅の楽しみを吹っ飛ばすようなことが、さと子の口から出ることになった。私はしばらくの間、家を留守にするので、大家さんには
「旅に出て5日ほど家を空ける」
という旨を伝えておいたのであるが、土産物屋さんに立ち寄って、大家さんには何がいいかって話をふると
「なんで、あんなクソババァにまで買って帰らんといけんのんよ。いちいち私らのことを監視してるじゃん。あんなのに買って帰らんでええ」
などと言うので、
「お前あほか。何がクソババァかっちゃ。何が監視されてるかっちゃ。ふざけんのも大概にせぇよ」
「何?また私が全部悪いって言いたいわけ?そうやってあんたは私の味方してくれんのんじゃね?」
「だから、常識的なことを考えてものを言えって言ってんの。そんなに隣近所と衝突したいのかよ。それに俺は、お前に金出せって言ってねぇじゃん。この旅行自体、全部俺が出してんじゃん。お前が土産物の金についてあれこれ言う筋合いはないんじゃ」
「だったら、あんたの好きにすればいいじゃん。なんであんなクソババァの分まで買って帰らんといけんのんか、納得いかん」
などと言い出して、それまで機嫌よく日程をこなしていた周りを、一斉に不機嫌にさせたのであった。
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