第38話幼稚園生活の始まり
さと子が妊娠して、次に生まれてくる子供の名前もこれと決まって、次に私たちの間でどうするか話し合いになったのが、当時私は勤続10周年の休暇を控えており、その休暇をいつとるかということであった。そして、産婦人科でおなかの中の子供がいつ安定期に入るのか妊産婦検診で尋ねたところ、7月に入ってからということだったので、その時に休暇をとることにした。
その一方で、賢の幼稚園の入園準備もあり、バタバタしていたが、これだけはきちんと済ませておこうと思っていたのが、幼稚園の園服を着せての記念撮影。写真スタジオの予約も取ってあったので、指定された時間に園服を持って撮影開始。このときは私の母も誘って一緒に写してもらった。賢には
「今から写真を写しに行くよ」
と手短に伝えて、
「お店の人がおしまいと言ったら終わるけえね。」
と分りやすく説明をしておいた。そして、撮影の間、賢は、カメラマンとアシスタントのかたの言うように、きちんとポーズをとって、かっこよく写してもらうことができた。そして最後は、私たちと母が揃った集合写真を写してもらって、写真スタジオを後にして、確かこのあとお昼を一緒に食べたんじゃなかったかと思う。
そして迎えた入園式の日。賢にとって、大勢の人の前に出るというのは初めてのことだったので、いつもと違う様子に緊張をしていた様子が、見ていてはっきりと伺えた。幼稚園の園長先生は、
「もし、息子さんが落ち着きをなくされるようなことがあったら、そのときは無理強いさせるのもかわいそうなので、教員のほうでお話をさせていただいた上で、対応を取ろうと思いますが、どうされますか?」
と入園式前の打ち合わせで尋ねてこられたので、私は
「先生方にお任せいたします」
と言って、賢のことについて先生方を信用して、お任せすることにした。ただ、私たちも
「これから幼稚園にいって、入園式に出るよ。先生が終わりといったらおしまいじゃけえね」
と賢に伝えて、式に臨んだんであるが、賢もいつしか緊張もほぐれたのか、落ち着いて最後まで入園式に臨むことができた。
そして入園式が終わって、各教室に移動して、子供を紹介する時間になり、私が賢のことについて紹介した。そして賢が抱えている可能性が高い、自閉症という障害についても、できるだけわかりやすく、私が知っている限りのことを保護者にも伝えた。さと子は賢の障害について、言いたくないという考えだったのであるが、「いずれみんなに分ること。卒園するまで隠し通せるものじゃない。それに幼稚園を卒園しても、そのあとの小学校・中学校とずっと付き合っていくことになる子供たちに、隠そうとすることじたい無理がある。だったら早いうちにみんなには知っておいてもらったほうがいい」
そう言って、担任の先生に少し時間を取ってもらって、息子のことを洗いざらい話した。保護者の中には、自閉症という言葉をはじめて聞く人もいたり、自閉症という感じから、心を閉ざした暗い感じのする障害というイメージを持った人まで様々であったが、とにかく、息子には障害がある可能性が高いということだけでも、みんなに知ってもらえただけでもよかったと思う。
私としては、賢の幼稚園での初めての集団生活が、楽しく、有意義なものになってくれたらいいなとそう願っていた。そしてただ願うだけではなく、幼稚園とどのようにかかわっていったら、賢がみんなとうまく過ごせていけるか、そう考えていた私である。
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