夫婦

渋川伊香保

夫婦

「ご夫婦ですか?」

と尋ねられて、

「「いえ、ちがいます」」

と異口同音に答えた。

とはいえ、服装も年代も夫婦と言われても違和感はない。

だが二人はあくまで仕事上のパートナーだ。

「また間違えられましたね……」

「まあ、不都合ではないわね」

こるからパーティに侵入するには、夫婦と見られる方が都合がいい。

「気合入れてね」

二人が向かう先には豪奢な屋敷があった。高級車が次々と停まり、中から綺羅びやかな衣装の男女が降りてくる。二人もそれに続く。

「すごいな、ニュースやゴシップでよく見る顔ばかりだ……」

「そりゃそうでしょ。主催者が主催者なんだから。」

偽造した招待状を入口の守衛に見せ、中に入る。屋敷の中ではパーティが始まっていた。室内楽の生演奏に、オペラ歌手の歌唱、会場は優雅な雰囲気に包まれていた。

ざわめく会場が急に暗くなった。階段の上にスポットライトが辺り、男が登場した。

仕立てのいいスーツに包まれた恰幅のいい精悍な男だった。

「あれがジョゼフ・ハワードよ」

女が囁く。いくつもの事業を成功させている経営者である。

ハワードはよく通る声で来客に告げる。

「皆様、よくおいでくださいました。さてこれよりパーティを始めます。ご用意はいかがですか」

その声を合図に、会場の照明が再び点いた。たが、先ほどとは打って変わって紫の照明。室内楽も歌手もいつの間にかいなくなっていた。

そのかわり、会場を甘い煙が漂ってきた。

「阿片ですね……」男が囁く。

早くも会場のあちこちで客が蹲り、パイプを曇らせていた。

「これで決まりですね。早く出ましょう」

そう囁いた途端、二人の後ろに黒服の男が立つ。

「少しよろしいですか」


別室に連れられた二人は体格のいい男に取り囲まれていた。

「この招待状、ニセモノですよね。あなたたちは一体」

ち、と舌打ちをして、女はバックから小型の拳銃を取り出す。男も懐から銃を取り出す。

一触即発の中、窓が外から破られた。

「用意ができた。待たせたな!」

背の高い痩せた男が叫ぶ。

男たちの注意が削がれた瞬間、二人は窓の外を翻った。

ここは3階。だがそれをものともせず、地面に着地する。それを合図に、屋敷の中に捜査官の集団が雪崩込んだ。

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夫婦 渋川伊香保 @tanzakukaita

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