居候させていただくことに
第3話 これからどうする?
アリサは口を開き___、
「あのっ、お家に行かせていただけないでしょうか?私、気がついたらここに居てっ。」
いく当てがなく、このままでは野垂れ死ぬ。
なら、せめて恩を売りつけているのでとりあえず家に泊まらせてもらうのが最適解だろう。アリサはそう考え、準剣聖だがお構いなしに提案する。
流石に無理だったか…?と思いつつ、ラレムを見つめると、その茜色の瞳には驚きを浮かべている。そして、微かに目を開き、平静を取り繕って、
「別に構いませんが、あなたはどのような状況で?」
そう言われ、ほっとする。しかし、先ほど彼はどうして驚いていたのだろうか。そんな質問は、触れていないけないことだろうと悟った。
「ええと、その、神様にっ、目が覚めると異世界に行くと言われて___。」
「____神?」
「はいっ、真っ白な髪の毛の神様に出会って、目が覚めたらここなんですっ。」
信じれてもらないかもしれないと言いつつ、今までのことを説明する。
すると、ラレムは驚きに満ちた表情をし、その瞳が先ほどよりも大きく揺れる。
「っ、レーガイ様ですか?」
ラレムは知っているらしく、アリサに問うが、レーガイなんて聞いたことはなく頭を傾げる。
「誰ですか?それ。」
「レーガイ様は、
そう丁寧に説明してもらい、ようやく理解が追いつく。
しかし、頭は無茶苦茶だ。
(ええええっ??私が出会ったのが神様で、特別な能力と引き換えに世界を壊した邪神、
一人混乱していると、ラレムは緊張を含んだ声色で、
「
そして先ほど、僕の家に住まわせて欲しいとおっしゃいましたよね?よろしいでしょうか?」
「はいっ。ありがとうございます!」
どうして緊張を含んでいたかはわからないが、とりあえず住ませてくれるらしく、ぺこりと丁寧にお辞儀をする。
しかし、何がおかしいのかラレムはアリサを不思議そうに見つめ、目を瞑るとついてきてください、と言って歩き出した。
歩いていると、視線が刺さる。
(どうして、レフェストさんを見たら、みんなさっと視線をそらすんだろうっ…?)
それは、みんなラレムを見るとさっと視線を外すが、気になるようでチラチラと見つめている。
人気者なのかと思ったが、視線の意図は違うらしく、忌々しいものを見つめる、憎悪に満ちた瞳。そして、刺すように鋭い視線。
明らかに、好意的な瞳ではない。
しかし、聞いては行けないだろう。
いくらアリサが何も知らないからと言って、触れていいようなことではないと思ったからだ。アリサが、家に行ってもいいですか、と聞いた後の様な。
彼はラレムは隠しているわけではないだろうが、触れてほしくないのだろう。きっと、知っていて当たり前のことだ。今だに、その傷は疼いているのだろう。
アリサと、同じように。昔の記憶が自らを縛りつけて_____。
(っ。だめ、今それを考えては…。)
嫌な記憶が頭をよぎったが、それを振り払う。今はあんな記憶を掘り返す場面ではない……。
「もう少しで着きます。」
「はいっ。」
急に話しかけられ、肩を少し跳ねさせながら応じる。
もう少しで家に着くそうだ。
歩いているだけでいろんな人にじろじろ見つめられ、緊張している。それからもう少しで解放されるのだと、こっそりとため息を吐いて喜ぶ。
+++
「ここです。」
「え、家、なんですか!?」
目に飛び込んでくるのは、神々しさを放っている家、というか豪邸である。しかし、家の中に人気はなくぼんやりと薄明かりの中に佇んでいるよう。
しかし、手入れはされているようで四角く切り取られた窓からは家の中が見え、ピカピカだ。
高校と同じくらいかそれよりも大きそうな豪邸。
ここに住むのか…。そう考え、縮こまっていそう。ここで住まわせてもらうだなんて、申し訳なさすぎる。何より、絶対に権力者だ。今まで数々の無礼を犯してしまったことを今になって反省する。
異世界にきて、早速牢獄に入れられるのだろうか。そんな考えが頭をよぎり顔から血の気が引いていくのを感じる。
そんなアリサなど、気にする気もなく____。ラレムは「どうぞ。」と、ご親切に門を開いて手招きをする。
「あ、はい。失礼しますっ。」
門の内側に入ると、綺麗な庭園が広がっている。
思わず。ほうっと見入ってしまうくらい、丁寧に掃除が行き届いており、綺麗に剪定されている。命を燃やし、ひたすらに咲き誇っている花々。
名前はわからないが、ただそこに在るだけ美しい____。
すると、ラレムが屋敷の中へと足を踏み出したので、アリサもついて行く。
一分ほど歩いた後、たくさんある内の一つの扉の前で足を止め、
「ここをお使いください。」
「ありがとうございますっ。」
そう礼をして、ラレムが重く分厚そうな薄い茶色の扉の金色の照明を反射している取手を手にかけ、扉が開かれる。
そこに広がるのは、質素なベッド、グローゼット、そして棚と机。
客室だろうか。__だとしたら、豪華すぎるのでは?
今まで住んでいたのは、これよりも数倍狭い部屋。あの部屋ですら広いのに、この豪華すぎる部屋はなんというのだろうか。
丁寧に掃除が行き届いており、ホコリひとつない客室。
とりあえず、部屋の大きさは置いておき、住まわせてもらうところができたことを純粋に喜ぶ。
ありがとうございます、ともう一度一礼をすると、ラレムはぺこっと軽く会釈をし、
「では、今日からその部屋はアリサ様のものです。よろしくお願いいたします。今日はお疲れだと思うので、その部屋で待機しておいてください。夜食はメイドに用意していただきますので。」
「ええっ、住まわせてもらっているのに、申し訳ないですよっ。」
「いえいえ、大丈夫です。ウルフを事前に教えてくださった恩だと思ってください。部屋などの案内は、夜食が終わってからにしましょうか。」
「は、はい。」
思っていたよりも、ウルフを追い払ったことはすごいらしい。
とりあえず、甘えさせていただこうと思い、靴を脱いでとてつもなく大きい布団にゆっくりと静まる。
ふかふかで、純白の布団。ものすごくいい匂いがする。この世界にも、洗剤はあるのだろうか。
ぼーっとしていると、眠気がアリサを襲う。疲れたもんなぁ、と思いながら意識を沈めた。
+++
「____。」
+++
体が、重い。
疲れたのだろうか。
体が、意識が、薄れて________。
+++
「ふわぁ。」
眠気が冷め、体を起こす。
すると、想像もしない景色が広がっていた。
「はっっ?」
思わず、そんな声が口からこぼれ落ちる。
ふかふかのベッドで寝ていたのかと思っていたら_____。
ここは、ふかふかの草の上。
また____、再び、
「リスタートしたぁぁっ!?
な、んでっ…。う。」
そう、また別のパラレルワールドにきてしまった。ということは____、先ほどの世界でアリサは死亡したと言える。
その恐怖に、死亡原因がわからず、そして再びふわふわの草の上で寝る、つまりは死んでしまったという事実にのどがむせかえる。思わず口を塞ぎ、なんとか吐かないように堪えた。
しかし、はっきりと予知夢ではなく、「死んだ」ことが理解できた状態での、この状況はしんどい。____というか、耐えられるわけがない。
アリサは、訓練された兵隊でもなければ、ただの日本という国に住んでいた、ただの高校生だったというのに、気がつけば異世界にいた。
しかし___、こんなところでうずくまっていても何も状況は変わらない。
死という人生で普通は一度しか体験できない終わりを、最期を振り切り、とりあえずは前を向かなければならない。モタモタしていると、どのみち死んでしまう。なんとか頭を切り替え、思考する。
死なないように、しなければ。そのためには、まず。
死亡した理由がわからなければ、到底対処はできない。
とりあえず、当時の状況を整理しようと、冷静に考え直し、目を瞑って、
(布団に寝っ転がったら意識が沈んでいってっ___、その後、その後。体がすっごく重たくなって。
なんでだろう。わかんないよっ!
どうすれば____。)
お手上げ状態とは、まさにことのこと。
どうして死んだのか____、あるいは、ただ単に別のパラレルワールドに飛ばされたのか。手がかりがなく、アリサはガクッと項垂れる。
しかし、その間にも刻々と魔物が迫ってきている。とりあえず、再び同じルートを辿らなければいけないと思う。が、
しかし____。再びラレムと会うのは、まずいのではないか。アリサを殺した原因が、もしもラレムだったら____。そんな恐怖がアリサを襲い、再び胃の中がひっくり返りそうになる。
もし、ラレムがアリサを殺害したとしてもこのままだとウルフにこの街は滅ぼされる。
(何か、行動しなければ何も変わらない。)
とりあえず、行動を起こさねば。
仕方がない______。衛兵の詰所に行こうか。
頼れるのは、そこだけ。再びラレムが来てしまったら_____。その時は、路銀をもらうなりすればいい。自分を殺したかもしれない殺人犯とこれから出会うかもしれない。そんな薄らとした絶望に溺れながらも、足を向かわせる。
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