第2話 予知夢…じゃ、ない?
やばいやばいやばい!逃げないと!焦りを感じ、足を動かす有紗。いくら、予知夢を見れたとしてもピンチなのに、変わりはない。
後ろではグルルっと下品な声を垂れ流しながら有紗を必死に追いかけている魔物。
(というか、そもそもどうして私を狙うのっ…!?)
執着に濁り切った瞳を向けながら、鋭い牙と爪を少しずつ有紗に迫らせている。
図体は大きく、素早く走れなさそうなのだが、それは勘違いで思ったよりも早い。
今度こそ、死ぬ…!そう思い、後ろから迫りくる「死」から必死に逃れようと逃げまとう。そんな有紗を翻弄するかのように、しつこくまとわりついてくる。
「はあっ、はぁっ。早、く。」
肩を激しく上下させながら、息を吸っては吐いてを繰り返してなんとか命を散らさぬように前へ進む。しかし、必死にこちらは抵抗しているというのにどんどんと距離が縮まっていく。やがて、すぐ後ろから気配を感じる。そして、自分の影にピッタリとくっついている魔物の影。やばい、死ぬ_____。
そう感じ取ったことにはもう、その大きな口を開き有紗を飲み込んで__。
しかし、痛みは全く感じなかった。そして、目の前が真っ赤に染まった。
染まった。
そして、小さな命はあっけなく散った。
+++
「っ!!」
そう、飛び起きたのだが____。
どうやら、死んだわけではないらしい。体に痛みはなく、綺麗だ。
そして、地面にはふわふわの草が___。
「え…っ…。ここは?死んだはずっ!なん、で_____?予知夢…じゃ、ない?」
何が、起こっているというのか?予知夢?いやしかし、二度も同じことが起こるだろうか。わけがわからない。そして、やっとの思いでたどり着く先は___、
「特殊、能力?」
異世界に行く時の、お馴染みワード。それしか、ありえないが。そもそも、発動条件さえわからない。完全に、お手上げ状態だ。肩をくすめ、まだ平和な街を見やる。
今から、起こるということも知らずに呑気にほのぼのと喋ったり、商売をしている。
魔物がくる時間は、わからない。
全く同じ状況になるとは限らない_____。
なら?この状況は?
異世界に来た時の状況を考え直す。
(夢の中で突然異世界に行く。そう言われて、気づいたら、ここに。そして、死んだら状況が少し違う場所に飛ばされたっ___。)
ただ、時間を逆行しているわけでは、ない。
つまり、世界が違うということだろうか。
それなら。ようやく、答えが見つかりはっとし、ほっと安心する。
顎に手を当て、つまり___、と呟き、
「別世界、パラレルワールド…?」
行き着いた答え、それがパラレルワールド。
別の世界、並行世界へ飛ばされる。
なら、未来はおおよそわかっている。そしたらやるべきことは一つだ。
「未来を、変える。」
そのためには____。そう考え、またもや唸る。取り敢えず、衛兵的な人を呼ぶか?しかし、必ずしも魔獣が来るわけではなく。
でも、万が一のことがあったら危ない。ここは呼んでおいた方がいい。そう結論を出し、それらしきものを探し始める。
+++
「なるほど___、ウルフが現れると?」
「はいっ、そうなんです。なので___、衛兵様をお呼びしたく…。」
「ふむ、証拠がないのにか?それは無理だ。」
「えっ___!?」
なんとか衛兵の詰所を見つけ、事態を話すが受付の男性は首を横に振り、あっさりと却下する。
その男の言う通り、証拠が何もない。だから、そう言われようと当たり前なのだが。
どうすればいいのか、はぁっとため息をつきガックリと項垂れる。
逃げてきたからいいものの、タイムリミットは近いはず。どうすればいいだろうか?あのまま見捨てるわけにはいかず__。そう嘆いていると、あ、と受付員が声を上げ、口を開く。
「そうだ、準剣聖ならいいぞ。」
「っ。本当ですか?ありがとうございますっ。」
準剣聖という、よくわからないが助けてくれる人がいることに驚き、喜ぶ。
しかし、有紗の様子を見て受付員は怪訝そうに眉を顰め、わずかな沈黙の後に、
「_____。今呼んでくるから、待っていろ。」
「はい!」
有紗はほっと息をつき、待つ。
受付員が周りの衛兵に声を掛け、準剣聖を呼んでこい、と言うや否、バタバタと忙しなく動き出し、後ろへ引っ込む者がいれば、裏口らしい場所から出ていく者も。どうしたのだろうと首を傾げながら待っていると____。
「ここ、でしょうか?僕を呼んでいる方がいるというのは。」
「そうです、邪剣聖、いえ、準剣聖様。」
「っ____。」
邪剣聖を言われ、その青年は薄らに顔を顰めるも、すぐに無表情になる。
「この者が、あなたをお呼びに。それでは。」
そういい、有紗を方を指差して受付員はぺこりと一例をし、ささっとその場からさった。
ふぅ、と準剣聖と言われていた青年は息をつき、有紗へ歩み寄る。
「初めまして。準剣聖、リフェスト・ラレムと申します。あなたが、私をお呼びになったことでよろしいでしょうか。」
「は、初めまして。そうです、私が受付員さんに頼みました。」
「そうですか。ところで、あなた方のお名前は?」
挨拶をされ、青年の名前を知る。リフェスト・ラレム。すっきりと整った顔立ちで茜色の瞳と髪を揺るがし、一礼される。
そして有紗もぺこりと一礼し、どう名乗ろうと迷いつつ、とりあえず挨拶をすると彼が疑問を提示する。
(どうしよう、この世界って日本じゃなくて英語の方か。とりあえず、家名も入れてた方がいいかなっ?)
頭の中で考え、やがて
「タナカ・アリサです。」
と、家名も添えて名乗る。アリサさんですか、と軽く呟いた。
そして、彼が要件を切り出す。
「僕を呼んだそうですが、何があったんでしょう?」
「そのっ、隣の街にもうすぐウルフが出るんです!」
「どうしてです?」
「うっ、しょ、証拠はないですが…。」
「とりあえず、行きましょうか。」
「はいっ。」
証拠はないが、知っているのだ。二回もがぶっと食べられてしまったのだから。それはさておき、とりあえずついてきてもらえるらしい。ほっとし、ついて来てください、と先導しながら街へと向かう。
まだ時間が経っていなければいいが、と少し焦りを感じながらも足を進める。
幾らか歩き、足を止める。
そして、間に合ってよかったと安堵する。
____と、タイミングが良いのか。ちょうど魔獣が姿を現す。
「どうやら、本当だったようですね。僕に任せてください。」
「わかりましたっ。」
腰にかけてある剣を引き抜き、太陽の光を反射している、銀色の剣。神々しさを放ちながら、しかしややくすんで見えるのは何故だろうか。
そんなことなど、アリサは気を止めずに、逃げてください!と声を上げながら十人を避難させる。
その間、ラレムは剣を閃かせ、鋭い刃先をどんどんボスらしき魔物に刺す。しかし、相手も図体が大きいためすぐには倒れず、何度も斬りかける。
魔物もやり返そうとするものの、それよりもラレムが一枚上手だ。
やり返すすべなく、斬られて行く。
そして、ボスらしき魔物がふらつきを見せると、剣を高く振り上げながら飛び、頭を刺した。すると、血があたりに飛び散り、バタン、と言う音を響かせながら砂埃をあげて倒れた。
しかし、まだウルフの討伐は終わっていない。
ラレムは一度後ろへ下がり、剣を構え直す。そして、茜色の瞳を揺らし、切り掛かった。
「すごい…。」
そんな彼の様子を見て、呆気に取られる。
二回も死にながら、必死に逃げ纏っていた魔物をざくざくと斬っていくなんて_____。
剣技に見惚れていると、あっという間に討伐が終わる。
そして、アリサの方向にラレムが近寄ってきながら、髪を静かに揺らして剣を鞘にしまう。
彼女に目線を向け、綺麗に一例をし、
「先ほどは疑ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「いえいえっ、証拠がないですしっ。」
お礼をされ、アリサは手を振る。
そして、顔を上げラレムは、
「どうしてウルフが出現することがわかったのかは問いませんが…、先ほどの魔物は、神出鬼没のウルフでして。
その中でもさらに高位で強い種族である為、こうして僕が出向いていなければこの街は無くなっていたことでしょう。あたらめて、礼を言います。____助かりました。」
そう言って、ぺこりと頭を下げる。
アリサはあわあわし準剣聖さんに申し訳ないなぁと思いつつも、まさかのウルフがそんな強い種族だたっと思わずびっくりする。
そして、ラレムはアリサに問う。
「何か、僕にお礼できることはないでしょうか。」
「え?お礼?いや、別に私何もしていないしっ。」
「いえ、ウルフを教えていただけました。おかげで悲劇を未然に防げましたから。」
突然褒美を求められ、ええっと驚く。伝えただけでご褒美をもらえるだなんて…、と驚きでいっぱいだ…しかし、悲劇を未然に防げた、と言われると確かにそうかも…と思うが、褒美だなんて…。
うーん、と顎に手を当ててたっぷりと時間を使って熟考し、口を開く。
「なら_____、」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます