◆万魔殿の姫君【彼女は月花の狂気を支配する】

なおみこ

01 ごあいさつ

ある晴れた日の昼下がりのこと。とある町外れの雑木林の木陰で、読書をしている白衣姿の幼い少女がいる。


「スピネル、見っけ!」


不意に語りかけてきたのは、黒装束の身なりをした帯刀の少女。その言葉に反応し、顔を上げる白衣の幼女。


「ねぇねぇ、アメシスト。これ見て……」


「ん? なに……」


帯刀の少女が前屈みになると、風斬り音とともに突如として銃弾が飛来し、側にある大木に穴を開けた。そして遥か遠くより銃声が鳴り響く。


「あっぶねぇ! とんだごあいさつだぜ。なぁ、スピ──あれ? いねぇ」


帯刀の少女が視線を外したスキに、白衣の幼女は姿を消していた。


「まったく、どいつもこいつも愛想がねぇってんだよ……なんだ、これ?」


そこには折りたたまれたメモ紙が置かれていた。


『これは ばくだん です』


「シット!」


一方、大木より遠方に離れたところで黒衣姿の少女が、うつ伏せになって大型の狙撃銃を構えている。


「……げっ、アメシストのやつ、なんで避けんだよ……ん、なんだ?」


覗き込んだスコープの先で、帯刀の少女が先程のメモ紙の裏をこちらに見せて立っていた。


『うしろ みる です』


「え?!」


あお向けに振り返った黒衣の少女の直上に、白衣の幼女がふんわりと落下した。


「見つけたよ、ルビー。やっぱり陽の方向だったね」


「ちぇー、逆光でわからないと思ったのに」


「方向と方角は、弾痕の穴に棒を刺せばわかったよ。距離は着弾してから音が聴こえるまでカウントしてたからね」


「カウント?」


「音が1秒間で進む距離は330メートルだから、2秒弱で600メートルくらいかなっ、て」


「へー、すげーな。それはそうと、アメシストと一緒にいたのか? こっちからはスピネルのこと見えなかったけど?」


「うん。あそこは窪地になってるからね。大木の根元に潜んでたよ」


「地形も、アメシストも利用したのか?」


「うん。『使えるものは使いなさい』ってアイリ──じゃなかった、アイオライトが言ってた」


「フゥー、恐ろしい娘」


「こらー! お前らー! よくも私をコケにしてくれたなー!」


「やっべ。これ殺されるやつだ……逃げるぞ、スピネル! アメシストのやつ、激オコぷんぷんまるだ!」


「待ってルビー、おいてかないでよー!」


【01 ごあいさつ】────




────【02 はじまるよ】(予告)


夕暮れのこと。とある街へ続く道を青年が荷馬車を進めていると、小岩の上で少女が脚をさすっていた。

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2024年11月28日 01:00
2024年12月9日 01:00
2024年12月13日 01:00

◆万魔殿の姫君【彼女は月花の狂気を支配する】 なおみこ @naomiko

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