鉄と少年 第14話

「待たせたな」

「休憩はもう終わりか?逃げたのかと思ったぞ」

 挑発してくるアイゼンだったが、アルは冷静だった。静かにもらった刀を抜き、まっすぐに構えた。

「ふん。どうやったか知らないが、今更そんなものでどうにかなると思うなよ!」

「いいや、なるさ」

 アルは刀の刀身に触れないギリギリを指でなぞった。迸る魔力がスパークとなって刀身に宿った。その瞬間にアイゼンの猛攻が再開された。

 猛烈な勢いの突進からの右手の刀での切りおろし。先ほどまでなら躱していたアイゼンの攻撃をアルは刀で受け止めた。刀がぶつかり合う、金属の甲高い衝突音が廃倉庫に響いた。

「受け止めたな!その刀ももう終わりだ!」

 つばぜり合いの中、アイゼンの口角が獰猛に持ち上がった。いつぞやと同じように異能で刀を形成する鉄を操ろうと考えているのだ。だが、

「————それはどうかな」

「!?……なぜ操れない!」

「タネはわかってるんだ、対策くらいはしてるさ。お前の異能は魔力が通った金属を操る力だ。だから、魔力が通らないように俺の魔力を先に通した。それだけでお前はこの刀を操れない」

 異能の対策をされていた動揺からか、アイゼンの力が一瞬弱まり、つばぜり合いはアルが制した。

「武器ができたからって、なんだ!それでも俺の有利は揺るがないんだよ!!」

 つばぜり合いで押し負けたアイゼンは吹っ飛ばされるも、地面に着いた瞬間、反発するバネのような瞬発力でアルへと突っ込んでくる。

 アイゼンの怒りに呼応してか、先ほどまでよりも動きがよくなっている。槍に作っての突き、追い立てるような刀での連続切り。切り上げ、横なぎ、斧による振り下ろし、などの高速の連撃がアルに迫る。だが、どの攻撃も見切られており、刀によって逸らされて、アルをとらえることはなかった。

「クソッ!これでも食らいやがれ!」

(今だ!)

 アイゼンの刀による全力の一撃をアルは刀で受け流した。身体強化された一撃は地面に突き刺さり、一瞬アイゼンの動きがとまる。

 アルはその隙を突き、アイゼンを当身で地面に倒した。転がったアイゼンに向かって刀を振り下ろしたが、跳び起きの要領で繰り出された蹴りを喰らい、後ろに飛ばされる。

「はあッはあッ、くそっ」

 起き上がったアイゼンは肩で息をしていた。怒りと焦りのままに繰り出した攻撃は、速かったがその分無駄も多く、体力の消耗も大きかった。

「まだだ。まだ終わりじゃない。俺はエリーを守らなくっちゃいけないんだよ!」

 アルへ切りかかるアイゼンだったが、その動きに先ほどまでのキレはない。そんな破れかぶれの攻撃がアルに当たるはずもなかった。振り回す武器は空を切り、すでに少なくなっているアイゼンの体力はさらに削られるばかりだ。

「もう終わりにしないか。これ以上は無意味だよ」

「うるさい!黙れ黙れ黙れ!!」

 怒りのままに刀を振るうアイゼンを介錯するように、アルは一息に刀を振り下ろした。

 反射的に両腕に刀を作り上げて受け止めようとするアイゼンだったが、アルの一太刀を受け止めると同時に中ほどから砕け、鉄の鎧すら貫いてアイゼンの肩口から腹を切り裂いた。

「がふっ……」

「アイゼンッ!」

 アイゼンは両ひざから地面に崩れ落ち、血を吐いた。その様子を見たエリーゼの悲鳴が廃倉庫に響き渡る。

 加減したとはいえ、アルの一撃はアイゼンを戦闘不能にするには十分だった。すぐにでもエリーゼの治療を受けるべき状態だったが、彼の戦意はまだ潰えていなかった。

「くそっくそっくそっ」

「……俺にはお前が悪いやつだって思えない。すこしだけでいいんだ。話を聞いてくれないか」

「そんな言葉、信用できるか。……俺たちはいつもそういう言葉に騙されてきたんだ。お前たちにエリーは渡さないッ!」

 怒りの滾らせ、残された体力でふらふらとアイゼンは立ち上がった。その姿には悲しいほどの執念が宿っている。

「とっておきのつもりだったが、お前のために使ってやるよ。なんでガキどもを使ってこれだけの鉄を集めたと思う?作り上げるためだよ、この街どころか国すらも滅ぼせる鉄の巨人をなッ!!」

 宣言とともにアイゼンの足元から銀色の波が発生した。それはアイゼンの鉄の鎧を作り上げていた流体化した鉄だ。そのまま鉄の波はどんどん広がっていき、地面に刺さっていた鉄くずたちを巻き込んで溶かし、さらに勢いを増して広がっていく。

 ものの数秒で鉄の波は池となり、廃倉庫全てを飲み込まんとする湖へと変貌を遂げようとしていた。

「ヤバい!逃げるぞ」

 危険を感じたアルは投げ捨てていた鞘を拾い上げて刀をしまうと、入り口近くで立ち呆けていたエリーゼを抱えて全力のダッシュで倉庫の外へと飛び出した。

 逃げる途中、刀をくれた軍人を横目で見たが、すでにそこに姿はなかった。シリウスのことはまったく気にしていなかった。

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