第3話

 その夜、俺は「モトジロウ・カジイ」のせいで魘された。

 昔話を思い出しちまった──。


「これは、使節団が日本を行脚した時の映像だ」


 ──懐かしい記憶。十数年前のことが、歴史上の出来事の様に感じる。

 その日は上官命令で、兵士が一堂に呼び出された。


「あー、全然見えないな。完全に出遅れた」


 俺と奴は一緒に向かったが、その時には既に大量の人間が集まっていて、俺たちは後ろの方で見るしかなかった。奴は本当に残念そうだったな。


「なぁ、俺をおぶってくれないか?」

「おい、それじゃあ、俺が見えないだろ」


 やいのやいの言いながら、俺たちは必死に映像を見ようとした。まぁ結局、ほんの一部しか見えなかったが。

 だが、よく覚えているのは、日本兵が上げた一声だった。幼い見た目とは裏腹に、とても芯の通った響きだった。


「Hakenkreuzに栄光あれ!!」


 映像の中は沸き立った。そして、外側の俺たちも。心なしか、カメラも少しぶれていた気がする。

 今でこそ冷静に分析できるが、当時は俺だって舞い上がっていた。当てられていたんだ、戦争の風に。だからあの日本人も、あんなことを言えたのだ。


「なぁ、聞いたか? Japaneseも、誇りを持って戦ってるんだ!」


 だが中でも、奴は本当に無邪気だった。何の疑いもなく、心の底から喜んでいた……。


 ……身体がキツくなって、寝返りを打つ。右、左、右、左。

 次第に頭が痛くなってきた。


 分かってる。

 思い出すと、苦しくなるだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る