第13話 おめかし3
「エッタお嬢様、負けてはいられません!こちらもメイクと香水をつけないと」
ファナが去った後になって、トーチは燃えていた。化粧に香水と言ったものは淑女なら誰でも持っているものだが、エッタのドレッサーのなかにはなかった。それを確認したトーチの顔色は、真っ青になった。
いくら美しいドレスや宝石を身に付けても、化粧をしていないだなんて絶対にありえないことだ。場所によっては嘲笑の的にされかねない。
「化粧品と香水なら、自分で作ったものがありますから」
エッタがカバンから取り出したのは、数々の化粧品たちであった。化粧品は顔料などを使っているが、それがロアの家には山のようにあったのだ。
一時期だが、ロアは火の魔法に絵の具を混ぜたら美しいカラフルな炎が出来るのではないかと思い立って実験をしていたことがあった。
試行錯誤しているうちに絵の具まで手作りするようになったロアだが、カラフルな炎など生まれるわけもなかった。そのうちにロアは実験に飽きて、大量の顔料だけが残されたのだ。
エッタは残された顔料を使って化粧品を作って、商人に売っていた。在庫がなくなることは良いことだし、小遣い稼ぎも出来る。
香水については、商人に頼まれて作ったものだ。
魔法使いが作った香水と触れ込みをいれて売ってみたら思いのほか好評だったので、継続的に製作をするようになった。
中身は至って普通の香水だが、買う側は魔法使いが作った特別な香水だと思って愛用してくれているらしい。魔法使いの不思議なイメージが良い方向に向かった例である。
「これさえあれば、しっかりお化粧ができます。後はお任せください」
トーチは、ドレッサーの前にエッタを座らせた。そして、素早く化粧を施していく。
新人だと言っていたので手間取るかと思っていたが、トーチの手には迷いがなかった。手早くファンデーションを塗って、流行りのナチュラルなメイクを仕上げていく。
髪は編み上げると夜会を想起させるということで、下ろして銀の髪飾りを一つだけ着けた。銀もそれなりに高級品だが、幸いにしてもエッタの髪も銀色なので楚々とした印象に仕上げてくれる。
鏡のなかのエッタの顔は華やかだが、清楚さを感じさせる理想的な化粧を施されている。新人のトーチだが、化粧は上手いらしい。
「さてと次は香水ですね。基本はローズですけど……白百合もステキですね」
トーチは迷っていたが、エッタはミントの香りを選んだ。香水としてはかなり珍しい香りだが、ファナの香水はきついのでミントの香りは清涼感があって良いと思ったのだ。
つまり、ミントの香りはファナの香水に対しての防御策であった。
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