第9話 昔の夢
それは、十年以上は前のことだった。
子どもたちばかりが招かれるティーパーティーが開かれた日のこと。エッタとファナは招待を受けたが、新しいドレスを着せてもらえたのはファナだけだった。
それが子供心に悔しくて、思わず義母に聞いてしまった。
「お義母さま。私には、どうして新しいドレスがないの?」
エッタの疑問に、イテナスは目を見開いて答えた。その時に、エッタはイテナスの逆鱗に触れてしまったと思った。しかし、時間は巻き戻らない。
「ファナが可愛いからよ。今回は位の高い貴族の子息も参加するのよ。そこでファナが見初められるかもしれないでしょう!」
子供ばかりのティーパーティーに、そんな事が起きるだろうかとエッタは首を傾げた。しかし、義母はすっかり自分の娘が殿方の心を射止めると信じている。
ファナは一人でお菓子を食べてばかりで、周囲の人間を気にしている様子はなかった。親の心子知らずとはよく言ったものだ。
ガツガツとお菓子を食べ続けるファナは、交流など持つ気はまったくないらしい。気さくな子が話しかけてきても相手にする様子はなかった。
「あなたは、妹なのよ。家には、不必要な存在。だから、本当ならばドレスも必要ないけれども仕方なく着せてあげているのよ」
このときは、まだエッタは魔法使いに弟子入りすることは決まっていなかった。けれども、義母は我が子が男爵家を継ぐものだと確信していた。
そもそもはエッタの生母が婿養子を取ってまで継いでいた家だというのに、イテナスは自分と娘のことしか考えていなかった。
だからこそ、エッタのドレスはおざなりになる。
去年のドレスは、エッタには寸足らずになっていた。ドレスにこだわる方ではなかったが、さすがのエッタもこれは少し恥ずかしい。
「私も新しいドレスが欲しい……」
ぼそり、とエッタが言うとイテナスは恐ろしい形相でエッタの頰を打った。
「何を言っているの!あの子は、あなたとは違うのよ。あなたなんかは、大人しく壁の花になっていればいいのよ!!」
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