鬼を飼う。

 その日、血の匂いと鬼の毒気が屋敷中に充満していた。

 鬼が影響なのか、いつもはかしましい下女達の声も今日は無い。まだ、七つの少女は、ひっそりとした屋敷の中で、一人、教わったばかりの文字の練習をしていた。今日は食事の用意すらままならないと言われて用意された干し芋や蜜柑に菓子。それを少しずつ摘んでは、日がな一日を過ごしていた。


 茜色の夕焼けが部屋に差し込み始めた頃。部屋の襖をどんどんと荒々しく叩く音がした。誰か様子を見にきたのだろうか。下女にしては荒っぽいと感じながらも、少女は何気なく襖を開いた。


 その瞬間。

 屋敷中に充満していた毒気が一層濃くなり、血の匂いが少女鼻を埋めた。

 

 黒。そう、ずんぐりと禍々しいほどの黒が、少女の部屋の前で山となって佇んで見下ろしていたのだ。少女は突然の事に驚きながらも、そろりと目線を上げる。頭には角、少女が見上げた先には赫赫と紅い目。黒の中をじいっと目を凝らせば、血に染まった口と牙の姿が。黒い身体を下へとなぞっていけば、両腕の先にある大きな手には血に塗れた手と鋭い爪が。まだ、新鮮な血肉でも喰らったかのように、ぽたり――ぽたり――と血が滴り落ちて廊下を汚していた。

 絵も言われぬ禍々しい姿を見て、少女はこれが不知火しらぬい家が飼っている鬼なのだと理解した。

 

 これが、を喰らう、鬼なのだと。

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