第二話.本当の敵は②
メデ山脈。それはこのシリウス大陸西部にある大陸最大級の山脈である。ミタカ山、アルラム山、アルタク山の主に三つの山から連なる山脈で凶暴な魔物が多く生息している……
「よし!出発進行ー!」
僕は準備を整えて今からメデ山脈山頂付近から下にある街まで下山しようと旅立った。
見た目がモンスターだから人族に襲われないかと心配をしつつ一歩、また一歩と深く積もった雪の上を歩く。
僕の足は雪の冷たさのせいで足の感覚がほとんど無くなってきた。しかしあれだけ歩いていたのに周りには魔物が全くいない。これは異常な事だ。
僕がいるメデ山脈のミタカ山は魔物の数が多い事で有名らしい。なぜならゴブリン達が落としたバックの中にあった紙切れの情報では多くの魔物に注意と書いてあった。
だけど、あのバックはぼろぼろで古そうだったし紙切れに気づいたのは僕が下山する途中だったからもしかしたら昔の情報かもしれない。
僕は魔物の事を放置してそのまま下山していく。辺りは段々と暗くなっていき夜がやって来る。風もだんだんと強くなっていき風の音のせいで僕へ近づいて来る魔物に僕自身が全く気づかないまま前へ進んで行った。
「はぁ……」
あとどれくらいの道のりを歩けば良いのだろうか。僕が立ち止まったその一瞬、僕へ近づいて来る魔物が突然背後から襲いかかってきた。
───ガァアアア……!
何なんだ……こいつは。
下半身が蛇で上半身が女性の魔物がそこに現れた。
「我が名はナーガ。蛇神だ」
ナーガ……インド神話に出てくる蛇神。
これは絶対に死ぬ……
僕はこいつとは戦うべきではないと一瞬にして感じた。これは野生の勘に近いのだろうか。とりあえず何とかして怒りを鎮めさせようと考え込んでいるとナーガはこう言う。
「貴様、なぜ神聖な我が土地を通ったのだ?」
「私はこのメデ山脈から下山したいのですが道もわからず神聖な土地を通ってしまい申し訳ありませんでした」
全力で土下座をした。
僕は前世でもこんなに素晴らしい程の土下座をした事は無いだろう。僕は顔を少し上げてナーガの顔をチラッと見るとナーガは僕を見て驚いていた。
「貴様、今魔人語を話したのか?」
「えぇ、魔人語かはわかりませんがよくわからない言語は話せます」
ナーガはその言葉を聞くと嬉しそうな顔をしている。機嫌が良いのか下半身をゆらゆらと揺らしながらまるで踊っているかのような動きをしている。
「珍しい、二百年ぶりに特殊個体の狼族に出会ったよ。怖がらせて悪かった。下山したいだけなら通って良いよ」
絶対嘘だろ……さっきまでめちゃくちゃ怒ってたじゃん。と思いつつも僕はナーガと少しの間お話することになった。
どうやら魔物が全くいなかったのは蛇神であるナーガの聖域だったから魔物が近寄らなかったらしい。
ナーガは意外と接しやすい奴で話していて面白かった。ナーガは神様だがフレンドリーだったのでこの世界の神は意外と接しやすい神が多いのかもしれない。
時は一瞬にして過ぎていく。短い時間だったが久しぶりに人と話した気がする。まあナーガは人ではないけども。
ナーガは自分の元々いた聖域に戻る際に僕にこう言った。
「私は貴様を気に入った。蛇神の加護を与えよう」
ナーガ、いや彼女はそう言うと呪文のようなものを唱えた瞬間に体が溶けていくような感じで姿を消して去っていった。
蛇神の加護……一体どのような効果があるのかはわからない。しかしまだまだ目的地から遠い。気が緩めない旅になりそうだ……
第二話.本当の敵は②END
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