第一話.再会①
───おはよう。怜
懐かしい声が聞こえた。
僕は何故生きているのか。
確か僕は地震に巻き込まれてその後に波が……
頭が痛い。
確か僕は地震の後に津波で死んだはず……
目を開けるのが怖い。何が起こっているのかわからない。どうして今生きているのかわからない。不安の気持ちが心の中にじわじわと襲ってくる。
「ねぇ、怜くん起きて!」
凛の声が聞こえた僕は恐る恐る目を開く。目を開くとそこは雪で覆われる山が一面に広がっている。僕はなぜ雪山にいるのだろうか。
「怜くんが起きた!なんでずっと寝てたの不安だったよ」
その声の先へ目を向けるとそこには青い目をした銀色の狼がいた。しかし不思議な事にその狼は凛に見えてしまう。
「凛なのか……?何で狼になってるんだ……」
「え?それを言うなら何で怜くんも狼になってるの?」
僕はその言葉を聞いて気づいた。なぜ僕は早く気が付かなかったのだろうか。
───自分も狼になっていたのに。
自分の足元を見ると犬のような足がそこにあった。僕は混乱しているこの状態を治すためにこれが夢かどうかを確かめようと頬をつねる。強くつねったせいで頬から血が出た。いや僕の鋭い爪が自身を自傷させたという表現が正しいのだろう。
怜は夢でなく現実の事だと気づくと大きなため息を吐いてもう一度寝る事にした。冷たい雪の下で僕は涙が流れそうになる。
───早く帰りたい……
どうする事も出来ないこの現状に僕は苛立ってしまう。そもそも死んだはずなのに何故生きているのか。そしてどうして人でなく狼の姿になっているのか。
僕は今冷静ではない。
この現状を深く考えても意味がない。
そう考えていると脳に響き渡る一つの声が聞こえた。
スキル:『自傷』を獲得しました。
何が起きているのだ。意味がわからない。スキルというまるでゲームの世界に居るかのようなこのワードに更に僕は混乱する。しかしそんな僕を更に混乱させるかのようにまるで誰かが僕の感情を高くさせるかのように脳に響く謎の声は続く。
プログラムが完全にインストールされました。特殊個体の狼族には以下のスキルが獲得されます。
スキル:『氷魔法』を獲得しました。
スキル:『充実』を獲得しました。スキル充実の獲得によりユニーク個体として『勇者』の称号を手に入れました。
脳に響いた言葉が終わると体の中で何かが動くような感覚に襲われた。まるで僕が成長したために体が頑張って追いつこうとするような気がした。
そして僕は気がついてしまった。この世界はゲームの世界に近いが決してゲームなんかではない。五感全てを感じ脳に響き渡るこれは異世界に生まれ変わったと自分を受け止めるしかないという事に。そうしなければ僕は正常な判断ができないはずだ。
「凛、なんで俺たちは狼になってるのかな?」
「多分、生まれ変わったのかもしれないね」
その言葉を聞いて僕は生まれ変わったのだと受け止める事にした。今受け止めきれないと正解がない問題を必死に解き続ける事になる。
僕は今できる事として寝る場所の確保を考えた。凛と僕は今大きな雪山で寝転がっているだけなのでこれでは人に襲われそうな気がする。
僕はせっかく異世界に生まれ変わったのだから異世界ライフを楽しもうと決意した。まず最初にさっき獲得した氷魔法を使おうと挑戦してみる。
集中して脳に氷のような冷たいものを想像し、そしてそれを飛ばすイメージをした。
───シャーン……
僕が氷魔法を使った場所が一面凍った。雪は氷になり辺りには雪も無くなり氷に覆われた世界が広がった。
雪がゆっくりとゆっくりと氷の床の下に落ちていく。
僕は何故かこの景色を美しいと感じてしまった。僕がこの景色に見惚れていると凛は大きな声で吠えていた。
「なんで返事してくれないの!さっきから呼んでたのに!鬼みたいなやつがいるから助けてよ!」
凛の必死な叫び声が聞こえた。今日の僕はいつもの僕と何か違う気がする。とにかく落ち着きがない。凛が叫ぶ方向を見た。
そこには緑色の体をして手には打製石器の斧を持つゴブリンが集団でいる。数はおよそ15人くらいだろうか。
ゴブリン達は僕の顔を見ると口を開けてこう言った。
「お前は何者だ?」
第一話.再会①END
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