第4話 寝台上の告白(?)

荷物の準備を済ませた僕は今、ベッドの中にいる。しかも、女神様と向き合った状態で。女神様と僕は、薄暗い中で目を合わせていた。


「寝れないなら寝かしつけてあげようか、ジード君」

「いいよ。それより、僕は女神様にお礼がいいたい」

「…へぇ。何かは分かったけど、一応君の口からも聞かせてよ」

「…僕と出会って、冒険者になれるきっかけを作ってくれて、ありがとうございました」

「…ございましたなんて、畏まらなくてもいいんだよ。それに、人を助けたらそれが自分に返ってくるのは当たり前のことだしね。君は神様を助けたんだから、人生がひっくり返っても不思議じゃないと思うよ」

「そうか。僕が冒険者になるとして、まず言いたいことは何かあるか?」

「そうだね、とりあえず、戦いに慣れるまでは1日1日を生き抜くことを最優先しよう。死んじゃったら明日はもうないからね」


女神様はほんの少しだけ寂しそうな顔をした。世界で最も長く存在している神様の1柱だからこそ、当然、色んな人物の死を目の当たりにしてきたのだろう。


「他には?」

「腹が減ってはイクサはできぬ、っていう異世界の言葉があるように、冒険者として活動するからには食事はしっかり摂ろう。わずかなパンだけでもいいから、最低1日3回の食事はとろう。まあ、私がもっと美味しい人間の食べ物を発見したいのもあるけど」


はにかむ女神様。理由に恥ずかしさがある故であろうそれは、なんと言うべきか。言葉は見つからないけど、とにかくいい、可愛い。


「…あのさぁ、私に対して可愛いとか評価してくれるのは嬉しいんだけど、自重してくれないかな?」

「いや、それ女神様が僕の心を読んじゃってるだけじゃん!僕が思うのを自由にして、女神様が覗くのを自重したらどうなんだ?」

「いや…、やっぱりさ、眷属から何て思われてるかは神としては重要なことだし、第一、君にあそこまで可愛いだの何だのと言われてから、可愛くないとか気持ち悪いとか思われたくないし…」

「そんなことは思わないよ。それは約束する」


女神様は心の内を吐露してしまったことが恥ずかしいのか、少し頬が染まっているように見える。ただ薄着の所為で寒いだけかもしれないけど。


「話が逸れたけどさ、ジード君。君は確か冒険者適正がなくて冒険者の道を諦めたんだよね?」

「それはそうだけど…」

「だからさ、君には余計に覚悟してもらいたい。5つのダンジョンと7体の魔獣を攻略するなんてことは、生半可な覚悟じゃ務まらないからね?私の眷属になったからには本気でやってもらうよ」

「もちろん、僕のできる全力の範囲で精いっぱいやらせてもらうよ」


ほんの少しだけ沈黙が訪れ、女神様は僕を抱き寄せて胸に顔を埋めた。柔らかなものを押し付けられてドキッとしたけど、運よく女神様は目を閉じていて気付かれなかった。


「ごめんね、冒険者の適正もないのに。私を助けたばかりに学校を辞めてまで冒険者になる選択をさせちゃって」

「その選択は僕が自分で選んだから、女神様が気に病む必要はない」

「そう言ってもらえると助かるな。それにしても、君は怖くないの?」

「何が?」

「ダンジョンのボスや下層のモンスター、それに<美徳の魔獣>とか」

「うーん、正直怖いとは思わないな」

「まあ、実際目にすると腰が抜けちゃうかもだよ?」

「失礼だなぁ。これでもそれなりに覚悟決めてるつもりなんだけど」

「あーゆう凶悪で強力なモンスターは、実際それなりの実力をつけた冒険者でも震え上がるよ。昔の話だけど。でも、きっと今も変わらないと思うよ」

「それでも僕は、女神様の為に戦います」

「勇敢だね。もしもそれを有言実行できたら、惚れちゃうかもな」

「惚れられても困るな。僕は女神様と結婚するつもりはないから」


再び沈黙が訪れる。これはさっきとはまた違う種類の沈黙だ。


「…どういう、こと?」

「もし僕が女神様と結婚して、僕が死んだとするけど…。結婚生活の間に永久に僕しか愛さない、なんて言っても数百年後に僕に似た別の男、それか全く違う男と結婚するかもしれない。そうなったら、女神様は罪悪感と戦いながらの生活に苛まれるし、僕としてもそれは嫌、なんだ。女神様が僕を愛したければ愛してくれてもいいし、僕も女神様に本気で惚れれば尊敬じゃなく恋愛感情で女神様を愛する時が来るかもしれない。そうなっても、僕と女神様は眷属と主神の関係のままでいい。その方が、他に眷属が出来た時にも気まずくないし、その方がいいな、って僕は思う」

「…そっか。まあ、私に他の眷属ができたら、それこそジード君じゃなくて他の子を愛するかもしれないし、そうなってもだけど…。もし僕が誰かと結婚した場合は、その人の死に際に一緒に毒を飲んで死ぬんだ」


今度は僕が絶句する番だった。


「そしたら、女神様の目標が達成されずに終わるんじゃないのか?」

「それはそうだ。けど、今の私は殆ど人間だ。いいじゃないか、物語の中で男女が許されざる恋をして、その物語みたいにバッドなエンドを迎えたって。私がそれで幸せなら」

「なら、いつか僕が夫になればいいのか?それで、女神様に僕が死んでも死なないように説得して、説得し続ければいいのか?」

「それは私に生きていてほしくて結婚するってこと?そこまでしたい理由は?」

「それは…、生きていてほしい、から?」

「…」


女神様は何も言わない。僕も何も言わない。


「そ、そういえば何でこんな話してたんだろう。まだ僕ら出会って1日も経ってないし、眷属と主神の関係なのに。結婚って、お互いか好きかどうかも分からないのに」

「確かに、何でこんな話してたんだろう」


二人して笑った。泣き笑いした。けどきっと、この涙は笑った所為で出たんじゃない気がする。


「とにかく、君は優しい子だ。君を眷属にできてよかったよ。私は世界一幸せな神様だ」


そう言ってもらえるのは嬉しい。けどその一方で恥ずかしいような気もする。


「長話してごめんね。おやすみ、もう寝よう」

「おやすみ、女神様」

「あ、私が寝てるどさくさに紛れてお尻とかお股触ったらダメだからね、さすがの君でも」

「そんなことしないよ。てかそんなこと考えてすらなかったわ」

「え、イケないこと教えちゃった感じ?」

「そ、そうなるな」

「忘れて、忘れてぇ!」

「しない、しないから!」


言われてしまうと、薄着の少女と寝るなんてのはドキドキする。女神様にイケないことを教え込まれるとは思いもしなかった。


気づけば、女神様は静かな寝息を立てて眠りについていた。

本当に年の離れた妹ができたみたいで可愛い。

明日からの日々に不安も感じるけれど、その反面楽しみな気持ちも強い。

女神様との日々の先に、どんな出会いや別れ、冒険が待ち受けているのか。

正直、想像もつかない。


女神様の頭を撫でてみる。綺麗な髪は、髪とは思えないほど心地いい感触がした。


「ん……、じーどくん…」


寝言。夢の中でも俺に会っているらしい。

これから俺は、女神様に満足してもらえる眷属になる、期待に応える必要がある。

心配な気もするけど、この愛らしい女神様の為なら、頑張れるだろう。

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