チャプター11:「衝撃の初弾」

「……ひィ!!?……ぁ゜……っ」


 解放された、サーティエの「気迫」。


 まず真っ先にそれに晒され悲鳴を上げたのは、ひれ伏せさせられていたオルデコフに領地兵達。

 サーティエの目の前近くに位置していた彼女たちは、その影響をもろに受けた。

 EMAの民達は、魔力をその身に宿し巡らせることから、その影響をその分濃厚に受ける。

 それが災いし。オルデコフたちは電撃の如き感覚に身を、脳髄に神経を焼き切られ。体をビクリと跳ねた後に地面に崩れた。

 それは無残にも、絶命の証であった。


「――ッォ!」


 次にその凶悪な魔力の危機に直面したのは、ゴブリン職儀。


「職儀ッ!」


 しかしその魔力の本波がゴブリン職儀を襲う直前。

 近接戦闘員の隊員が僅差で駆け寄り、そしてゴブリン職儀と自分を庇い遮蔽するように。

 繰り出し片手に持ち構えた、大型の防護盾――ライオットシールドを、床に突き刺す勢いで突き盾構えた。


 それは、また魔法魔力を無効化する抗生特性装備の一つ。特殊素材が内包、及びコーティングされた特殊防護盾。

 それが二名を庇い守り、間一髪の所で魔力に身が焼かれるのを防いだ。


「ッ!――下がれッ、下がれェッ!!」


 間一髪で救われた事に肝を冷やしつつ。ゴブリン職儀は直後には他の隊員に、退避避難を張り上げ指示。

 他の隊員は、また防護盾装備の隊員に庇われ後退支援を受けつつ。慌て駆け退いて、今に突入して来た大扉の向こうと退避カバーする。


「ッ――無駄な抵抗はよしなさいッ!こんな事をしても、一時凌ぎにしかならんぞォッ!」


 それを見届けた後。ゴブリン職儀は防護盾のカバー内から、向こうのサーティエに向けて訴え発する。

 事実、その通りであった。

 サーティエの魔力と精神力から発現する「気迫」は、確かに今この場にあっては脅威だ。

 しかし。JE各隊はそれすらも無効化する、巨大な威力と効果範囲を持つ戦略級の抗生特性装備をも保有する。

 それが到着して用いられれば、サーテェエの今の魔力の発現も。一時凌ぎの儚き抵抗と終わるだろう。


「ふふ――無論承知している、海洋の無粋な客人諸君。余はそこまで己の力に驕ってはおらぬ」


 しかし、その呼びかけ訴えにサーテェが返したのは。何が己と相手のどちらをも嘲るようなそんな言葉。


「諸君らの手にした魔法を無とする異なる力、聞き及んでいる。現にその力に押され、我が国はここまでの体たらくを晒してしまったのだがな」


 続け、また己を嘲るように話すサーティエ。


「だが、先代母君より国を引き継いだ身として。少なくともこの国を、みすみす貴様らにくれてやるつもりは無い」


 だが次には、サーティエは様相を変え。その可憐な顔にまた威圧するまでの、傲岸不遜な笑みを浮かべて紡ぐ。

 そして次に、膝の上に置き持っていた何かの小箱から。その片手指先で何かを取り出した。


「――!あれは……起点誘導器かッ!」


 サーティエが取り出したそれは、何か小ぶりな水晶体。

 しかしそれを向こうに見たゴブリン職儀は、すぐにその正体に当たりを付けた。


 ゴブリン職儀は、起点誘導器と呼称したが――正しくは誘導水晶。ナフレリアス側では、「業火の始にして終」と言う通称でも名称されるもの。

 その役割は、上述した通りに誘導装置。


 ナフレリアス側の魔導を源とする大量破壊兵器――魔導巨槍。

 言ってしまえば、魔法で動力し、魔法で破壊力を得る戦略弾道ミサイル。

それを起動させ、導く装置。


 現在現時点で、ナフレリアス王国海軍の保有する戦略魔導潜水艦の内。所在が知れぬものが数隻ある。

 そしてそれらが備え持つは、今に言った魔導巨槍。

 

 JEの海軍戦力たる海洋隊。

 その主力たる洋上艦艇隊群に、対潜哨戒機の飛行隊が。大洋に運河を越えてエフィルシフル近海まで展開し、今にも昼夜を徹した対潜掃討作戦を行っているが。

 それを潜り逃れ、どこかに潜んでいるのは確実。


 そう――サーティエはこの王都ルーテェを、敵の手に陥とさぬために。

 潜む戦略魔導潜水艦に魔導巨槍を撃たせ、この王都をその業火で焼き消し飛ばし。無に帰すつもりなのだ。


「ヨォオイ――マジデンジャー第一宇宙速度だぜッ!?」

「ッ――よしなさいッ!血迷ったかァッ!?」


 その事実を、サーティエの真意を理解し前に。

 近接戦闘員の隊員は険しい顔で発し上げ、ゴブリン職儀は怒号の域で張り上げ訴える。


「くすくす――この戦が始まった時から、余はとおに血迷い血に塗れておるわっ!」


 それにしかし。また恐ろしいまでに不敵に笑い紡いで見せるサーティエ。

 そして次には、それまで優雅に座していた玉座より。また優美なまでの動きで立ち上がり。

 その片手に持った誘導水晶を、静かに胸元に掲げる。


「マズイ――ッ!」


 いよいよそれを起動し。魔導巨槍――戦略兵器をこの王都に導き、叩き込ませるつもりだと。

 ゴブリン職儀は焦燥を口にするが、今も発現するサーティエの魔力に、それ以上の接近ができないでいる。


 今のサーティエの魔力を含む凶悪な「気迫」晒されれば。血としては魔物であるゴブリン職尉は、一歩出た瞬間にその身を一瞬で焼かれてしまうだろう。

 純粋なJE、海洋の産まれの物理基準者(ヒト)やミュータントは、その身に魔力を一切宿さぬため。その魔力脅威の影響こそ受ける事は無いのだが。


 そこは計算尽くか。

 サーティエは「ファイアボルト」や「サンダースストーム」、「ウィンドバリア」などの攻撃防御魔法を。しかし恐るべきことに詠唱も無しに発現させ。

 それを攻撃防御のカーテンとして、物理的な接近を阻み。後方から決死の火力、機銃掃射で対抗を試みる隊員各員のそれをも阻んでいる。


「ふふふ――効かぬなっ。貴様等の足掻きなど何一つとして成らぬっ!このルーテェの最期の時を煌びやかに飾るため、余の道連れとしてくれようぞォ――っ!!!」


 そして。

 サーテェエは己が最期の使命の成功を、一つの形の勝利を確信し。高らかに、傲岸不遜の最もたるそれで笑い上げ。

 ついには最期を導く水晶が、発動の輝きを見せる――



 ――――スタスタズカズカと。


 そのサーティエの真横より――〝銀年堂〟が現れたのは直後。



「――――一 撃 じ ゃ ァ ッ ッ ! !」



 グ ガ ゲ ャ シ ャ ッ ッ !!


「マ゛ ッ゛ !?」


 えげつない、肉を打撃し拉げる音が・轟く勢いで響く。

 銀年堂が横払いにぶん薙いだ拳骨が、サーティエの頭の横っ面に。その頭蓋骨を拉げ凹ません勢いで、ぶち込まれたがゆえに上がった衝撃音であった。


 白目を剥いてタコ唇を作り、全身で盛大に横側方に吹っ飛ぶサーティエ。

 顔面崩壊を伴う、悲壮や凄惨よりも「ドン引き」感が優先して来るその姿様相に。もはや血の女王としての威厳も威圧感も、圧倒的な女王としてのカリスマも吹っ飛んでいた。



 なお、今の一撃の敢行にあっては。

 相手がヤバそうだと見止めた際に、詳細は不明であれどもとりあえず一撃をぶち込んでおく銀年堂の必殺技である――



「あ゛ぶぇらびゃッッ!?」


 そして吹っ飛ばされたサーティエは、そのままその先の床面に顔面から落下。

 その衝撃でまた珍妙な悲鳴を上げて、そして尻を突き上げる無様な姿勢で、体を落とし沈めるハメになった。

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