ラストチャプター:「つづく限り」
「――入ったッッ」
サーティエへぶち込んだ会心の一撃を見止め。
雛壇上の玉座の前に、主に成り代わり立ち構える銀年堂から、張り上げ轟く一声が上がる。
「――ッ、マジッ?ジャストな所に通じてたよ……ッ」
その銀年堂の背後、玉座雛壇の側方。
そこに隠すように。いやその通り、隠匿して設けられていた小さな通用扉より。
零しながらシャンツェが、続けてフュンジェク等の火力隊の各員が続々踏み出て来て。そこから散り、場の展開掌握を始める。
銀年堂等が路を間違え入り込んだ得体の知れない裏手通路は。実を明かせば王族用の避難逃走用に設けられた裏通路。
それを逆に遡り、銀年堂等はこの謁見の間に辿り着き。
そしてまさにちょうど、サーティエの背後側方を取る形となり。銀年堂は迷わずその懐に踏み込み、今の一撃をぶち込んだのであった。
ちなみに、銀年堂は純粋なJE出身の物理基準者(ヒト)ため。魔力類を身に一切持たず、その影響も受けないため。サーティエ「気迫」の内でも精神心身に影響こそなかったが。
ファイアボルトやサンダーストーム等からの物理的影響は、全周に少なからずあったため。そしてしかしそれに一切合切構わずズカズカ踏み込んだため。
その顔の頬には少し煤けが尽き、行動作業服も所々が若干焦げていた。
「――首級、もらうどッ」
しかし、そんな事は無いも同然と言うように。そして銀年堂が直後に発したのは、そんな言葉。
サーティエを大将首と見止め確信し、その首級を打ち取ろうとする意志。
そしてその背に備えていた、ふざけた得物――鯨包丁を繰り出し下げ構え。雛壇をズカズカと降りて、尻を突き上げてへたばるサーテェエの背後に立ち構えると。
その鯨包丁を、片手で悠々と支え。そしてサーティエのその首を取るべく、おもいきり振るい上げた――
「――ちょッ、ちょッ!瘤さん、待った待ったァッ!」
しかしそこへ。側方、謁見の間の正面扉の方向より張り上る、焦りの声が聞こえた。
「おんッ?」
銀年堂が、邪魔をされ少し不愉快を見せる色で視線を向ければ。
向こうには丁度、謁見の間へ踏み込んで来た直後の。オーデュエルと率いる班に、ヴォルデックと率いるチームの姿が見え。
内のオーデュエルは、そのトロル系という種族の印象に反した凛々しい顔に。しかし焦りの色を浮かべて、制止を促すジェスチャーと合わせて駆け寄って来た。
「仕留めるのはタンマッ、絶対じゃないッ。国の頂点だ、生かして無力化できたなら確保しておくッ」
そして銀年堂に、促し説く言葉を急き紡ぐオーデュエル。
JE勢力は確かに、EMAの王族貴族などに対して、状況次第ではその処分排除も一切躊躇しない姿勢方向ではあったが。
今に在ってはJE側への幸運もあって、その脅威を生かしたまま無力化できた。
ならば憎き相手の筆頭とはいえ、国の王。生存状態での確保は、利用価値及び多岐に渡る都合に影響を及ぼすと考え。オーデュエルは銀年堂の行為を差し止めたのだ。
「――ハッ、政治の厄介ごとじゃかッ」
それを受け、銀年堂はまずそんな一言を皮肉気に発し。大変に不満そうな色をまるで隠すことなく見せたが。
「よかッ、おいは戦の本差しか持たん。他は任せっぞい」
そしてしかし、上官の指示には意義は返さんと。
振り上げていた鯨包丁を下げて、そんな任せ投げる言葉を返す。
「ぎゃぅんッ」
そして、足元では。その尻を突き上げ珍妙に痙攣しながらも、半ば無意識に満身創痍の動きで這いずり場を逃れとしていたサーティエがあったが。
直後には「逃がしはせん」と言うように。
銀年堂は自身の片脚を上げ踏み出して、サーティエの突き上がる尻腰を踏んで押さえ。
サーティエにまた鈍く珍妙な悲鳴を上げさせる。
「ムッ、
そして女王たるサーティエのその尻を、しかしまるでそのまま足置きにでも使う様にして。踏み置いた片脚を少しの柔軟で解す様子まで見せつつ。
そんな、女王に対して最早無礼の域すら越えているムーヴをみせながら。しかし銀年堂はとどめのようにそんなサーティエの尻腰に体を評する言葉を発する。
「…………」
それに。
相対するオーデュエルに、近く向こうでやり取りを見ていたヴォルデックや。
周りに展開したシャンツェ等銀年堂の隊の各員に。
態勢を立て直しつつも、やり取りをまた聞いていたゴブリン職儀等のチーム各員。
他、手空きの各員各々が。
一様に銀年堂のそのムーヴを。
後頭部に困り汗が見えそうな「おいおい」と言いたいような思いと様子で、しばらく注視していた。
――それが。いささかぶっ飛び、異なるものとなってしまったが、その光景が。
この王都ルーテェ。そしてナフレリアス王国攻略作戦の、一つの決着の形となったのであった。
――それから。
女王サーティエの身柄確保から、時間が経過。
王都ルーテェの空の向こうには日が昇り、時刻は朝の時を迎えようとしていた。
《――ナフレリアス王国軍の諸君。こちらは、東州合同です。戦闘は停止が締結されました。戦闘行動を停止し、次に伝える場所に投降しなさい――》
太陽の光が照らし始めたルーテェの街の上空を、地上隊 航空科の観測軽量ヘリコプターが飛行している。
その機が備える音響機器から王都中に響かせ下ろされるは、広報通知の音声。
数は大分に減ったが、未だに王都の各所で籠り潜み。戦闘を続けるナフレリアス軍の兵に向けての、戦闘停止と投降を促すものだ。
結局、ある種の満身創痍であるサーティエに変わり。身柄を確保されていた第二王妃クレリアから、降伏と戦闘停止の申し出要請があり。
歴史的遺恨憎悪こそ隠せずありはすれど。しかし間違っても殺戮を嬉々として行いたい訳でもないJE側もそれを受諾。
JEとナフレリアス王国の間で、正式に戦闘締結が取り決められた。
今も少なからず混乱は残るが、しかし王城の陥落制圧の。そして王族の身柄確保の知らせが広く伝わった事により、その影響は大きく。
王都ルーテェの混乱が全て沈静化するのに、そう時間はかからないと思われていた。
「――一つ、決着が着いたの」
そんな、観測軽量ヘリコプターが広報通知のために飛ぶ光景を。
銀年堂は高所、ティーリアン王城の上層バルコニーから。その端縁に片足を駆けて、堂々たる姿で眺めている。
「これで、戦争全体が終結に向かってくれるといいんですが」
それに、背後にゆらっと立つシャンツェが。少しの疲労の見える倦怠感交じりの声で答える。
混乱状況は収まりつつあるが。しかし先も言った通り、まだ全てが沈静化したわけでは無く。
おまけに戦闘締結からその後の処理事項は膨大に発生し。
今現在はティーリアン王城でも、王都ルーテェ中でも。JEの各隊部署は残存抵抗分子の戦闘の制圧から、投降したナフレリアス側の人員までにも動員を要請しての、文書処理に調整処理に至るまで。
対処に急かしく忙しなく、駆けずり回っている。
銀年堂等の隊も、手はいくらあっても足りずそれに引っ張りだこであったが。
今にあってはその最中での隙を見つけての、休息。サボリの時間であった。
「まだじゃ。残るEMAの主たる国は、いよいよ我武者羅になっぞ」
そんな内で。銀年堂は今のシャンツェの言葉をしかし否定。
それは当たっており、ナフレリアスの陥落降伏に伴い、残るEMAの主たる国々は。その尻に火が付き、より一層なりふり構わなくなるであろう事は明白であった。
「ハァ……ッ」
シャンツェも、その実本心では「そんなこったろう」と思っていたのだろう。
倦怠感交じりのため息を吐く。
「気張れィ、シャンツェ。首級、今度こそ討ってあげる機会ぞッ」
しかしシャンツェのうなだれをよそに。銀年堂が発したのは、その〝いかちい〟顔に
不気味で不敵な笑みを浮かべての。
そんな全くブレない言葉。
「まだ、これからじゃ――行くどッ――」
そして、空を。街の向こう遠くをその眼で見通し。
銀年堂は、轟くまでの声で発し上げる。
瞬間、それに呼応するように。
銀年堂等の、ティーリアン城の真上上空を。
航空宇宙隊のW-117戦闘機が、轟音を轟かせて向こうへと飛び抜けた――
――――――――――
これにて本編完!
後はおまけ話と設定集を上げて終了です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます