チャプター9:「脅威の魔法幻想、超常物理にて撃滅せよ」

 視点はまた一度、ヴォルデックにオーデュエル等の方を追う。

 それぞれのチームに班は、王城の階層一つ一つを。念入りにしかし手早くクリアリングして行き、無力化を完了しながら上階へと進めていた。


「――接敵ッ」

「ダウンッ、ダウンッ!」


 時折、伏兵として潜んでいたのか、はたまたただ取り残されて隠れていたのかは不明だが。

 ナフレリアス近衛連隊の兵や、王宮警護官と遭遇して散発的な戦闘が発生したが。

 各班、チームの進行攻撃の前に。それらは脆くも容易く撃破されていった。



「――一名喰われたァッ!」

「下げろ、応急処置急げッ。正面火力絶やすなッ!」


 主要階層を数階層分クリアし、いよいよ中層階から上層階へ近づいたという所で。

 オーデュエル率いる班は厄介な敵に遭遇していた。


 場所は、王城内を通る上品な内装の廊下空間。

 今には、班の地上隊隊員が一名。「魔法攻撃」に食われて身を負傷。


「ヤロッ!」


 手当てのために後方に下げられながら、入れ替わりに分隊支援火器射手が前に出てカバー。オーデュエルに背中を掴まれ補佐されながら、廊下の向こうに向けて銃火火力を注いでいる。


「――ウィッチ・ブレイドシェイク!」

「――マインディア・スレイビル」


 その廊下の向こうに立つは、二人の女――十代後半程の少女達だ。

 一人は警護官のスーツを纏う警護官。一人はナフレリアス軍の制服を纏っている近衛兵。

 しかし、それにしてはその姿格好には特異な部分が見える。

 警護官はスーツに似合わぬ、巨大なトンガリ帽子にローブを纏い。

 近衛兵の格好も装飾が目立ち、兵のそれとしては派手。そしてその美麗な身には蝙蝠のような翼が見える。


 それぞれは、ナフレリアス軍に見られる特有の存在。

 高位の強力な魔法を扱う魔導警護官に、魔族兵。魔女である少女と、吸血鬼である少女であった。


 そんな少女達が、その可憐な見た目に似合わぬ凶悪な魔法魔導をもって。オーデュエル班の前に立ちはだかっていた。


「東の低俗な土人共っ!刃のもとに裂かれ、血肉の欠片と散れっ!」

「愚かなものたち。闇に身も心も支配され、隷属の僕と成り下がりなさい」


 透る声で高らかに発し上げる魔女少女に、冷たく加虐的な声で紡ぐ吸血鬼少女。

 寄越されるそれぞれの声に合わせて、廊下空間中に現在巻き起こるは。二人の魔法攻撃。

 魔女少女の生み出す、風の刃による乱舞――襲った相手の身を文字道理バラバラに切り裂く、魔法のかまいたち。

 そして吸血鬼少女が生み出す、廊下中を覆う闇の影。相手の心身を侵食し、操り狂わせ従僕と成す精神浸食魔法。


 廊下の向こうにはそれぞれが展開され、一歩でも踏み込めそれらの餌食となるであろう。

 実際彼女たちは、今までこの術で王宮に牙を剥く不埒な輩を退け、屠って来た。


「――ウッゼェァ……ッ!!」


 そんな、優美なまでに立ち、魔法を体現し。こちらの進行を阻害する少女達を向こうに。

 しかし分隊支援火器射手が火器を突き出し、引き金を引き続けながらも零すは。青筋を浮かべての不快そうな声。

 魔法と血統主義が微かに見聞きしただけでも滲み出る少女達の姿に。不快感を抱かずにはいられないそれであった。


「さぁっ、貴様らの断罪の時間だ!」

「愚かな行いを後悔なさいっ」


 そして少女達はそれまでの進路の妨害延滞行動から、反転攻勢の機会と見たのだろう。

 まるで獲物を狩る、狩りの時間だとでも言うように。発し上げながら、その脚をこちらへと踏み出す動きを見せる。


「ッ、延滞行動から押し上げるかッ。引けッ、後退ッ!」

「マジウゼェッ!」


 オーデュエルはそれを危険と見て、悪態を上げる分隊支援火器射手の身を掴み下がらせながら。

 周囲や背後に控えていた班員に後退を指示する。

 しかし――


「ぬぉッ!?」


 ――突然の衝撃音。

 各員はそれを向こうに聞き。

 廊下の向こう、反転攻勢を始めようとした少女達の真横。そこの廊下壁面が、横殴りの爆破でもするように内向こうから崩落したのは見るのは同時。


「くぁ!?――ぇ!」

「っぅ!?――!」


 そして煙に巻かれ、少女達が身を怯ませ身構えたのも一瞬。

 次には彼女達は上げた顔を硬直させ、眼を剥いた。


 廊下側面の崩落部より現れていたのは――体長200mrw半ばを超え、青色の肌を持つ亜人にも似た巨大な存在。

 ミュータント――薬学により自らを強化したヒト。物理化学の生み出してみせた最凶の現れ。


 正しくは、青色基調の迷彩作業服を纏う航空宇宙隊のミュータント系隊員が。

 壁を破り、少女達の前へと強襲したのだ。


「――っぅ!!」


 しかしやはり少女達も手練れ、彼女達の反応は素早かった。

 先んじて魔女少女が動き、その腕、指先を優美なまでの動きを振るう。

 それは風魔法の発言の動き。

 直後、発現した風魔法のかまいたちが、ミュータント隊員を強襲。

 近接戦闘用のショットガンを構えて居たその強靭な腕を――なんと切断。まるでブロック肉のように容赦なく切断分断してしまったのだ。


「ヨシ!――……ふぇ?」


 成功したそれから魔女少女は。次にはそのミュータント兵が驚愕恐怖に目を剥き、絶叫を上げる事を確信すらしていた。

 ――しかし。

一瞬後に己の目の前に映った何かの動きに、魔女少女からは呆けた声が上げる。


「ぎぅ゛ぇ゜ブッ――ッ?」


 そして、上がったのは。

 魔女少女からのえげつないまでの悲鳴。いや最早、音。


 見れば。

 ミュータント系隊員が、その切断された右腕も構わずに魔女少女の眼前に踏み込み。健在であった左腕を繰り出し、魔女少女の鳩尾に反則なまでの威力の拳骨をぶち込んでいた。


 腹部を、〝ブチ殴られ〟。

 その内の骨を、臓物を清々しいまでに破壊され。

 魔法少女は白目を向き、口から吐しゃ物を吐き漏らして、次には宙へと吹っ飛ぶ。


「――びゅブぅぇげッ!?」


 そして一瞬の後には、天井近くの廊下壁面に激突。

 おまけにそこにめり込むまでに叩き込まれ、そこから落ちて来る事は無く、無残な死に体をそこに晒した。


「!!――っっっ!」


 それを背後後方に見て、一瞬目を剥いたのは吸血鬼少女。

 しかし彼女の行動もまた早かった。


 次にはそのミュータント系隊員を睨み刺し、そして同時に彼女の紅玉の如き眼が光る。

 闇の精神支配魔法の発動。

 これにより憎き相手を闇に捕らえ、その心身を支配し従僕と成す。相棒を無残に屠った相手への反撃、抗う事など不可能な恐怖の術。


 が――


「――ぺぢぇァ゜っ!?」


 直後瞬間だ。

 吸血鬼少女の頭が――潰した果実のように爆ぜ飛び。

 眼球が、頭骨の破片が、脳症が。花火のように飛び散ったのは。


「――ぁぺっ!……ぁひっ……」


 次には、脳よりの指令を受けられなくなった吸血鬼少女の身体は。ガクリと両膝を着き、痙攣し、股間からは失禁。

 そしてまた次には、グシャリと崩れて床へと沈んだ。


「――ダウン。クリア」


 そんな、それぞれの凄惨な末路を辿った少女達の躯を見つつ。

 切り裂かれた右腕よりの、膨大な出血も気にせずに立ち構え。クリアを伝える声を上げたのはミュータント系隊員。

 その歪で恐怖を煽る顔立ちに反して、その声色は酷く冷静で冷淡なもの。


「――クリア了解ッ」


 そのミュータント系隊員の巨体の背後。崩壊により大穴の空いた壁面の向こう。

 そこより踏み出て来たのは、ミュータント系隊員のカバー援護のために続いていたヴォルデック。

 さらに汎用機関銃射手のトロル系隊員に。そして何らかの物々しい機械機器を肩から下げて運ぶ、女ゴブリンリーダー系の隊員。


 その女ゴブリンリーダー系隊員の装備する機器こそ、今に吸血鬼少女兵を無残な姿へと果てさせた物の元凶正体。

 それは、JEの十八番とする抗生特性現象装備の一つ。

 精神浸食系魔法の効果を阻み、跳ね返す。反射、及び一瞬のジャミングの特性を持つ装備。


 それが、吸血鬼少女がミュータント系隊員を狙い、発動を試みた精神浸食魔法を無効化、その上跳ね返し。

 行き場を狂わされた、おまけに暴走した魔法エネルギーが。主たる吸血鬼少女へと跳ね返り、砕き躯へとせしめたのであった。


「ヨシ、進めッ。行け、行けッ」


 そんな理由正体から、無残な末路を迎えた少女達の躯を傍目に。

 ヴォルデックを筆頭に、壊し開口した壁の大穴より続々突入して来た強襲隊チームは。

 当然の流れと言うように。ヴォルデックに促されながら、廊下上のクリアを確認しながら押し進んでいく。


「ヴルーラ二等士、よくやってくれた」


 そんな様子の傍で、ヴォルデックは今に脅威たる少女二人を見事無力化して見せたミュータント系隊員を。その名と階級と合わせて、労う言葉を掛ける。


「いえ」


 それにそのミュータント系隊員は、端的に返しつつも。

 何か簡易な注射機器のようなものを装備より取り出しており、次にはそれを失われた右腕の付け根におもむろに突き刺した。

 注射器の内の薬品らしきものが注入され――驚くべき現象が起こったのは直後。


 なんと、切り刻まれ失われたその腕が。肉が膨張増殖するように、まるで映像を逆再生でもするかのような光景を見せ。

 数秒後には元あった彼の右腕へと再生、その形を取り戻したのだ。


 明かせばそれ等こそ。

 その亜人にも引けを取らぬ強靭な肉体と合わせ、しかしそれ以上に驚異的なミュータントの特性。

 ヒトより薬学により進化したミュータントが手に入れた強さ。

 JE、物理科学陣営の技術の御業であった。


「戻りますから」


 ミュータント系の彼は、そんな姿を見せながらヴォルデックに一言を返す。

 それは自分の身が、再生復元可能な特性を持つことから。損傷を覚悟の肉薄行動も容易いと伝える、淡々とした言葉。

 しかし、かといってそれに臨むための痛み、恐怖が帳消しになるわけでは無い。

 今の強襲を成功させた真骨頂は。ミュータント系の彼のその内に宿した、肉体以上に強靭な精神があってこそであった。


「言ってくれる」


 それに、皮肉と称える色をまた混ぜて返すヴォルデック。


「――押し進めろッ――ヴォルデック臨時、君も。助かったッ」


 そこへ、廊下の向こうよりオーデュエル等の班も押し進んで来て合流。

 オーデュエルは指揮下の地上隊隊員に先行を指示して行かせつつ。ヴォルデックとミュータント系の彼に、状況を救われた礼を向ける。


「ウチのベヒモスに感謝してくれ――で、継続でいいな?」


 それにヴォルデックは、また端的に揶揄う言葉で返し。しかし次には切り替え、またこれよりの行動方針の確認の旨をオーデュエルに向ける。


「あぁ、さらに推し進めるッ」

「了解――再開だッ」


 そしてオーデュエルも肯定。

 両者はその場で手早く調整、再確認を終えた後。また指揮下の班・チームを率いて行動を再開した。

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