チャプター8:「確保から、さらに索敵」
視点場所は一度、交差路広場で包囲された王族専用車列へ。
執拗な火力投射を喰らった装甲リムジンは、弾痕だらけでそこかしこが凹み。防弾ガラス類は貫通こそ間逃れたが、ひび割れ真っ白だ。
運転席に助手席より身を出し、決死の抵抗攻撃を見せようとした警護官達は。すでに車の下に沈んでいる。
「要警戒、油断するなッ!」
地上隊に航空宇宙隊の各員が駆け集まり展開、厳重に包囲警戒する中を。オーデュエルやヴォルデックが割って抜け、指示を張り上げながらリムジンに歩み接近。
そこへ別方より、開装梃子――巨大な対装甲用バールを持った、ミュータント系地上隊隊員が合流。
「開けるんだッ。各員は確保に備えろッ!」
オーデュエルがすぐさま促し。それを受けたミュータント系隊員はリムジンに近寄り。その後部座席の扉の隙間に、開装梃子の切っ先を叩きつけるそれで突き立て捻じ込む。
そして、ミュータント系の特有の比類なき腕力によって。扉は嫌な金属音を伴い、しかし易々と抉じ開けられた。
「――ッ」
扉が捻じ開かれた瞬間。
ミュータント系隊員は引き退避。入れ替わりにヴォルデックが、背後に分隊支援火器射手の援護を伴いながら。バトルライフルを構えてその内を、後席を覗き込んだ。
「――……っ!」
「……くっ!」
「……ぁぅ……」
覗き見えた後席内部。
そこにあったのは、三名程の人物――女と子供の姿。
一人は、二十代程のエルフの美女。
一人は、十代半ば程の美少女とも見紛うエルフの少年。
そしてその少年に抱き庇われるは、十歳程のやはりエルフの美少女。
いずれも悪趣味にならない程度の品の良い衣服を纏い、その麗しい容姿を飾るが。
その端麗な顔は、どれも険しく憎しみを露わにするまでに作られ。しかしそこには同時に隠せぬ恐怖が見えた。
「――クレリア第二王妃。それにアイレ第一王子に、テューア第二王女かッ」
声を上げたのは、コマンドカービンを構え警戒しつつ、傍脇より車内を覗き見たオーデュエル。
発見した女子供はいずれもそれこそ、ナフレリアス王国の王族で間違いなかった。
メディアで目にする機会は多く、そしてそうでなくとも今攻略作戦に参加する部隊隊員には。その詳細の事前通達、掌握がなされていた。
「ッ、サーティエ女王が居ないッ。どこにいるッ!」
しかしヴォルデックはその内に「最重要人物」が居ない事を確認し、詰問に近い声を張り上げる。
先日に崩御した先代女王に代わり、第一王女より即位した若き女王。サーティエの姿がそこに無かったのだ。
「無礼なッ、それがナフレリアス王国が王子に王女を前にしての口の利き方かっ!そのような無礼者と口を交わすと思うかっ!」
しかしそれに、第二王妃クレリアが荒げ啖呵を切る。
だがそれは目に見えての虚勢。まだ子供に過ぎぬ若き夫、第一王子アイレと。義妹たる幼きテューアを庇わんとするそれであった。
「知った事では無い。此方からすれば其方は敵性存在でしかないッ」
しかし、それにヴォルデックが返すは。残酷なまでに冷淡な眼と声色での返す言葉。
「っ……!」
「くぅ……」
「……!」
それに、あからさまに気圧され臆する様子を見せる王妃に王子達。
「――ハァッ、嫌な感じだッ」
それを前に、苦い色で零したのはオーデュエル。
女子供の怯える前に、流石に気分が苦くなったのだ。
「貴方方を確保拘束します。拒否は認めません、従っていただく」
そしてオーデュエルはリムジンの後席に、そのトロルの巨体から少し苦労しつつ顔を突き込み。
最低限の礼節を、しかしそこに少しの冷淡な色を敢えて混ぜての。指示宣告の言葉を紡ぎ、王妃たちに伝える。
「確保しろッ、後送の準備もッ」
そして振り向き、周囲で警戒に着いて居た隊員に告げ。後は任せると言うようにリムジンを離れる。
ヴォルデックも「やれやれ」と面倒を隠さぬ様子で続き離れ。それと入れ替わりに隊員が、一応衛生員なども立ち合い、身柄の確保に掛かっていく。
「ったく」
「女王の行方が不明だ。王城の方を探す必要がある」
その騒がしくなる気配を背後に感じつつ、ヴォルデックはまた悪態を零し。その彼にオーデュエルは、まだ索敵捜索の継続が必要である旨を告げる。
「――オーデュエル区隊長ッ!」
「?」
しかしそこへ王城の城門の方向より。オーデュエルの区隊の隊員が、少し困った色を見せつつ駆けてくる姿が見えた。
少し訝しんだオーデュエルの元へ隊員は掛けて来て、次には相対して用件を発し。
「――何ッ?瘤さんがッ?――」
次には、その内容を――銀年堂とその隊の独自行動の件を聞いて。オーデュエルは驚き交じりの苦い声を上げた。
「――ぬンッ!」
銀年堂はその脚撃により、両扉を蹴っ飛ばし抉じ開ける。
そして踏み出たのは、城の中層階にある広いホール空間。
扉を破り、そのホール空間にズカズカと踏み込む銀年堂。
そのそれぞれの手に見えるは、Ua77戦闘銃ともう一つ。
――鯨包丁。
丈は1rw越え、幅も20mrwはある包丁を名乗るにはふざけた代物。銀年堂が近接白兵戦用に持ち込んでいる私物が、持って構えられ見えた。
「――クリアッ」
「ナシッ」
その銀年堂に続き、そしてその周りに。
ジャンツェやフュンジェクなどの隊の各員が駆け出て展開。そしてクリアを伝える声を上げる。
ホール空間には敵影はおろか、銀年堂等以外の人の姿は無かった。
「もぬけの殻かァ?」
そしてそれは、城に踏み込んでからここまでも同様であった。その事から、ジェボが分隊支援小銃を降ろしつつ、皮肉気にそんな声を零す。
「どこぞに潜んどる可能性は捨て切れん、用心せぃッ」
しかしそれに、銀年堂がそう声を飛ばす。
「えぇ……――ッ!」
それに返すシャンツェだが。彼女他各員の耳が、背後の今潜った扉の向こうより、複数の足音の接近を聞いたのはその時だ。
各々は振り向き、装備火器を構えて警戒する。
「――クリアッ」
しかし直後に踏み込んできて、ホール内にまた散会展開からクリアリングする姿を見せたのは。
オーデュエル率いる一個班。そしてヴォルデック率いる強襲隊の一チームであった。
「――ったくッ……瘤さんッ、あんまり自由にズカズカ行ってくれるな……ッ!」
そしてクリアが確認されると。
オーデュエルは銀年堂に近づきながら、少し苦く困った色を含む顔で。そんな忠告の言葉をまずは飛ばした。
「大将首級はまだ城んどこぞにおる。見つけ、取るは必須ぞ」
しかし銀年堂にあっては、その忠告にまるで構わぬ様子で。それよりも必須事項というように、そう言葉を返す。
「ハァ……手分けしよう。瘤さん等は真っ直ぐ上層を目指すんだろ?アタシ等は各階層をクリアしながら追いかける」
銀年堂のムーブに、問答他は時間の無駄と思ったのだろう。オーデュエルは小さく溜息だけを吐くと、王城の掌握制圧に向けての分担を提案。
「強襲隊の別チームが上階からも降下進入をする運びになってるから、それも勘定に入れてうまくやって。それでいいね?」
「良かッ、頼む」
合わせての補足と、それからの確認の言葉。それに銀年堂も端的に了承。
「ヴォルデック臨時、手分けしてクリアしよう」
「あぁ、了解」
「皆、行くよッ」
そんな、どっちが上官か分かったものでは無いやり取り調整に。
しかし地上隊 第107機関銃連隊の各位はいつものことと気にした様子も無く。
航空宇宙隊 強襲隊の各位も、銀年堂を「ぶっ飛んだ初長だな」とは思いつつもさして気にした様子は無く。
オーデュエルとヴォルデックは簡単な調整の言葉を交わし。そしてそれぞれの班、チームを率いて階層の制圧掌握に向かって行った。
「おい等は、上を目指すぞッ」
「了」
そして銀年堂が発し促し。銀年堂等の隊は上層階を目指しての進行を再開する。
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