チャプター7:「堂々進入せよ、苛烈に阻止せよ」

 残る敵防御陣地から飛び来る銃火火線を、しかし平然と跳ね除け退けながら。N83A3戦車は堂々と傲岸なまでの様相で橋上を押し進み、易々と対岸の城門前空間へと到着。


「撃ェァッ!」


 踏み込むと同時、シティゼトは指示命令を張り上げ。

 直後にはすでに旋回照準を終えていた砲塔主砲が唸り、残っていた敵監視塔を吹っ飛ばした。


「進めッ、踏み込めェッ!」

「行け行けェッ!」


 それに続き、オーデュエルやヴォルデックが張り上げる元。地上隊区隊に、強襲隊チームも。無論、銀年堂等の隊も橋上を押し進み。

 また容易に対岸へと到着、周囲の敵構築陣地の残りや残骸を利用して、散会展開。

 だがそこには、すでに禄に抵抗が可能な敵は残っていなかった。


「っとォ」

「ッ!」


 銀年堂等はその内で、また残された土嚢陣地に飛び込み遮蔽。


「――行って行って行ってッ!」

「おんッ?」


 そこへ次に。後方より別の張り上げる、しわがれながらも少し焦り急く声が届く。

 そして銀年堂の横傍に。一名のゴブリンの男性隊員を筆頭とし、長距離射撃手のフュンジェクを含む数名のチームが飛び込んで来た。


「ハァ……ッ!――初長ッ、機関銃班ですッ、来ましたッ!」


 半ば転倒の域で滑り込んで来たゴブリンの隊員は、息を上げ。何か焦り慣れぬ様子で銀年堂に報告の言葉を寄越す。

 合わせてゴブリンの彼は、まだ少し遮蔽の土嚢より遠かったその小柄を。フュンジェクの援護助けで引き摺られ押し込まれる姿を見せる。


「おぅ、トートゥか」


 銀年堂はそんなゴブリンの彼に返事を返す。

 同時進行で、同じく飛び込んで来た隊員チームはそこに中機関銃――7.62mrw機関銃 N74A2を据え配置する様子を見せる。

 合流したのは火力隊の機関銃班。今にトートゥと呼ばれたゴブリン隊員は、その長にて銀年堂の火力隊の次席者。

 さらに補足すると、〝四級資格曹士(初長に準ずる)〟と呼ばれる民間より志願呼応した技術者枠の隊員であり。争いごとにはまだ慣れぬきらいがあった。


 さらに背後後方の交差路広場には、各方向より味方増援の隊に車輛が、続々到着する様子が見える。


「今よりぶち破り踏み込むぞィ!気合込めぃッ!」


 そのトートゥに、促す声を掛ける銀年堂。


「門を破るぞォォッ!」

「身構えろォッ!」


 そこへ、場の指揮官のヴォルデックやオーデュエルの張り上げ知らせる声が届く。

 視線を移せばN83A3戦車が。その上で、身構え備えるよう腕を振るい促すシティゼトの姿を伴いながら、その砲塔を回して正面城門へと砲口を向ける姿様子が見える。


「備えろッ!」

「隠れろォ!」


 各所で連鎖的に伝える声が張り上がり、周辺の隊員各員は。無論、銀年堂等も砲撃の衝撃に備える。


 ――直後、轟音と衝撃が響き渡った。


 撃ち放たれた130mrw戦車砲は。固く強固に閉ざされていたティーリアン城の正面城門を、しかし真正面からぶち叩き。

 吹っ飛ばし、爆炎爆煙を巻き上げ伴い、抉じ開けて見せた。


「――進入ルート確保ォッ!当車で踏み込むッ、援護願うッ」


 煙が散り晴れ、阻むものを無くし大きく開かれた正面城門が露わになる。

 それを見止めると同時、N83A3上のシティゼトが張り上げる。


 そしてしかし返答を待たずに、N83A3はまた唸り前進。そして散らばる陣地に城門の瓦礫を踏み潰し、押し退け。

 城門を潜ってその向こうに。その内に、優美な庭園空間が広がる王城敷地へと一番乗りでの進入を果たした。


「内部を制圧するッ!行けェ、踏み込めェッ!」


 そしてそれに後れを取るな、続けというように。地上隊区隊に、強襲隊チームは、遮蔽を飛び出て隊形を組み直しながら。

 急く騒がしい動きで。また牽制の銃声をけたたましく上げながら、城門を潜り抜けて城門敷地へと踏み込んだ。


「ッぉ!」


 王城敷地内にそれぞれの隊、チームが踏み込んだ直後に。N83A3の砲撃がまた上がり響き、隊員の一名がそれを聞き声を零す。

 砲撃は、王城本城に伴う防御曲輪に、最早申し訳程度に設けられていたナフレリアス軍側の銃座火点を。しかし容赦なく施設ごと吹っ飛ばして無力化した。


「機関銃、左へ行け左にッ!」

「一班前にッ、前にッ」


 それを見つつ、敷地内の庭園をしかし冒涜する域で踏み、広く展開配置する各隊各員。

 次には軽装甲車輛や装輪装甲戦闘車輛等も城門を抜けて走り込んで来て。無遠慮に搭載火器による銃撃銃火を始め、各車からは搭乗班は降車展開を始める。


「――ッ!!あれ、見ろッッ!」


 しかしその最中、庭園の一点に飛び込み遮蔽したヴォルデックが。自身のバトルライフルを突き出し向けた先に〝それ〟を目撃。これまで以上の怒号を在り上げた。


 見えたのは王城本城の、煌びやかな正面玄関。

 そこに停車するは複数台の高級車、リムジンも見える。そしてそれはナフレリアス軍の近衛部隊兵や、王城警護官に厳重に護衛されている。

 直後に見えたのは。そこに品の良い身なりの、女子供を含む数名の人物が。慌て乗り込む様子だ。


「王族――ッ!王族の可能性ッ、逃走を図る気だッ!」


 張り上げ、周囲に伝えるヴォルデック。

 それを証明するかのように、次にはリムジンを含む高級車。王族専用車の車列は、悲鳴に近い急発進の音を響かせて、王城正面より発進した。


「マジかよッ!」

「止めろッ!逃がすなァ!!」


 別方でオーデュエルが悪態を発し、ヴォルデックは命じる怒号を張り上げる。


 言われずともと、各隊各員や各車は。その銃火砲火を王族専用車列へと向け殺到させた。

 無数の固有火器の銃撃に、車輛からの機関銃火線。極めつけにN83A3の主砲までもが火を吹き、王族専用車列を阻もうとする。

 しかし王族専用車列は、なりふり構わず。最早自棄を起こしているかにも見える荒々しい運転で、危なっかしくもJE各隊側の攻撃や妨害を縫って抜け。

 ついには正面城門へと辿り着いた。


「うォ゛ッ!」

「うっわッ!?」


 それはちょうどその近く周りで。各員展開に、重火力の配置を行っていた銀年堂等の火力隊の傍を抜け。

 そして正面城門を潜り抜けて、向こうへ走り去る。


「ごんヤロ゛ッッ!」


 銀年堂は怒号に近い悪態を上げながら、すぐさまそれを振り向き追い。堂々立ち構える姿勢でUa77を片手で突き出し構え、車列に向けて我武者羅に発砲。


 それに晒されつつも、王族専用車列はその向こうの大橋を越え。交差路広場を突っ切り向こうへの脱出を企む。

 しかしその悪運も、長くは続かなかった。


 先頭を務めていた護衛の高級車に、ほぼ側方真正面より一台の軽量装甲車輛が突っ込んで来たのは瞬間。

 ――グジャリッ、と。

 正面衝突で金属が拉げる音が響き。

 軽量装甲車輛の体当たりを受けた護衛の高級車は、その衝撃で微かに車体を浮かせながら、強制停止させられた。


 先頭車の強制停止。それによって二台目を務める護衛車は急減速から急ハンドルを切ることとなり、しかしそれが不幸となる。

 その一瞬を見逃さなかった地上隊の隊員が、携行対戦車火器をそこに向けて投射。その直撃を受け二台目の護衛車は爆発炎上。宙に浮かび引っくり返り、そしてグシャリと地面に落ちる末路を辿った。


 そして、三台目に位置していたのが、王族関係者と思われる者たちが乗り込んだリムジン。

 それは明らかに行動に怯む様子を見せ、しかしそれでも敵中に活路を探し逃走図ろうとする。

 だが、それすらも儚く潰えた。


 リムジンが怯みを見せた間に、その進路上に――グォッ、と巨体を割り入れて来たのはG521戦車駆逐車。

 そして反応が間に合わなかったのだろう、リムジンはそのG521の胴体側面に突っ込み衝突。

 ボンネットから白煙を上げ、強制停止させられた。


 そこからは、追いうちのような苛烈な攻撃投射が繰り広げられた。


 すかさず回り込み、残る脱出進路の封鎖から包囲を行った汎用軽量車輛が。次には備える重機関銃を向け、リムジンの側面に撃ち込み始めた。

 続け、G521上からもその車長が。車内より受け取り繰り出した、搭乗員用アサルトカービンを向け、フロントガラスに向けて撃ち込み始める。

 そして周囲近くにいた地上隊も駆け付け駆け寄り、各方から固有火器による銃撃を加える。


 リムジンは、王族専用であることから堅牢な装甲が施されている。

 しかしだからこそだと遠慮は無用、徹底的な無力化が必要と言う様に。執拗なまでの苛烈な銃撃が襲う。


 後続で急停止した四台目の護衛車より、勇敢にもリムジンの救出を行おうとしたのだろう。エルフ族に獣人族などからなる数名の警護官が武器を繰り出し飛び出てきたが。

 虚しいかな、それはすでに待ち構えていた地上隊、航空宇宙隊の各方からの銃撃に晒され。

 一矢報いる事すら叶わずに、撃ち屠られ崩れて行った。



「――ッ」

「ッっぁ!派手にやったッ!」


 その光景を、正面城門を一度潜り戻った銀年堂等も目撃。

 内のシャンツェは、王族専用車列の図った突破からの、しかしその過激で無残な末路を見てそんな声を上げる。


「重要対象だッ!厳重に包囲しろォッ!」

「開装梃子を用意ィ!」


 その傍を、また戻り来たヴォルデックに、続けオーデュエルが。それぞれ指示命令の声を張り上げながら、自身も火器を繰り出し控えつつ、急ぎ駆けて抜ける。


「――総大将じゃなか」


 しかし、その向こうの光景を注視していた銀年堂が。直後にはそんな一言を零した。


「え?」

「動きが、手柄首んならん童を逃すそれぞッ。大将首はあれにおらんッ」


 訝しむ声を上げたシャンツェに。銀年堂は続け紡ぎ答える。

 それは、向こうに見える王族専用車列に。しかし一番の「重要人物」が不在であるとの推察判断を下す言葉。


「――城ん内ぞ」


 そして銀年堂は振り向き、向こうに聳えるティーリアン城本城を見止めると。

 直後には、そちらへ身を翻してズカズカと歩み向かい始めた。


「え、ちょッ――瘤さんッ!?」


 その思わぬ動きに、シャンツェは戸惑いつつ呼びかけ張り上げる。


「だい(誰)ぞ残って、幹部等にこんこつ(この事)知らせィッ。他は再編せいッ、おい等は城ん踏み込むッ」


 そしてしかし、銀年堂は周囲の指揮下各員に伝え張り上げながらも。城の正面玄関を目指してズカズカと進んでいってしまう。


「ちょッ……ああまったくッ。一チーム、屋内戦闘に備えて再編してッ」


 その、銀年堂のいつものムーヴに。シャンツェは苦い感情から、悪態を零して額を押さえつつも。

 周りに促し、火力隊の再編成を指示し。

 そして先んじて踏み込んでいった銀年堂を追った――

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