チャプター6:「機甲には機甲を」
今のG-LAVを屠った攻撃の正体こそ、その重戦車――B56ieの備える、123mrw砲の砲撃に他ならなかった。
「きおったかァ!!」
「面倒なモノ出して来たッ」
それを向こうに見て、銀年堂はしかしいよいよ来たかとでも言うように張り上げ。
シャンツェは苦い声をまた発し上げる。
「下がれッ、偵察車は下がれェッ!――瘤さんッ、アレをなんとかできるかッ!?」
その背後、交差路広場では地上隊側が急き対応行動に移り当たっている。
オーデュエルは残るW-RFVを死角に下がらせながらも。次には銀年堂に、火力隊に向けて要請の言葉を寄越してくる。
「おい等で掻き取るッ!」
それに、銀年堂は無論という気迫で返す。
そしてそれに呼応するように、やることは決まっているように。
火力隊の内から、対舟艇対戦車誘導弾を扱うラーウォー等。対戦車戦闘を担当するチームの隊員等が前に出て来て、銀年堂の近くや周辺、反対向こうに配置展開する。
「ぬッ」
「うッわッ!?」
その間にも、敵重戦車のB56ie始め、ナフレリアス軍陣地側からは遠慮容赦の無い攻撃が襲う。
簡易トーチカや銃座からは機関銃掃射が寄越され襲い。対戦車兵器の投射がこちら側の一角で着弾炸裂。
おまけに、B56ieがまた備える副砲塔の30mrw機関砲などという凶悪な代物の砲火が、頭上を掠め。
極めつけに再び123mrw砲の砲撃が、今度はシャンツェの遮蔽する高級飲食店の建物上階に着弾。
煙を巻き上げ、瓦礫に散りをその元や周囲に撒き散らす。
「ッゥ……!冗談ッ!」
「大物首級じゃッ、掻き取れば誉ぞッ!」
それにシャンツェは悪態を吐くが。
銀年堂にあってはこんな状況だと言うのに。
Ua77を敵銃火の隙を縫っては応射、撃ちまくりながら。
怪しいまでに不敵な笑みを浮かべ、討ち取り甲斐のある敵を前に、ワクワクしているのではと思わせる色すら見せている。
そして無論、地上隊側も応戦において手加減容赦はしない。
こちらの各個射撃から分隊支援火器、軽・中・重機関銃。装甲射撃ライフル(対物対戦車ライフル)までもが容赦なく唸り、苛烈な応戦応射が向こうの敵陣へと注がれる。
「――ヨシッ、誘導弾行くぞォッ!」
そして間もなく、ラーウォーが扱うその誘導弾発射機の準備を完了させ。向こうより彼の張り上げる声が届く。
そして彼が遮蔽より半身を最低限出し、誘導弾発射機を突き出した。ロックオンが完了した瞬間に、発射機の発射口より、誘導弾が瞬間的な炸裂音を上げて射出。
撃ち出された誘導弾は一瞬で向こうまで跳び――敵重戦車、B56ieの図体に直撃した。
「――ッ」
重戦車を中心に、橋の向こうの陣地周りが大きな爆煙に巻かれ、向こうの銃火がわずかに鳴りを潜める。
その内を注視し。煙が晴れた所へ、攻撃投射が確かな成果となって現れるかを、固唾を飲んで見守る各員。
「――ぅオッ!?」
しかし直後には。煙の内より空を切り裂き何かが飛び来て、次には交差路背後向こうの建造物を叩いて爆炎を上げた。
「ッゥ、まだ生きてるッ!」
シャンツェが忌々し気に張り上げる。
それが敵重戦車の砲撃である事は明らか。そして次に、煙の散った橋の向こうの城門周りに現れたのは、未だに生きているB56ie重戦車の姿であった。
「損傷は確認ッ、しかし未だ戦闘可能の模様ッ!」
ラーウォーの援護兼観測を担っていた隊員が観測報告の声を張り上げ寄越す。
B56ieは、履帯を切られて転輪を脱輪し、自走不可能になるなどの浅くはない損傷は確かに見せていたが。
その砲塔は歪ながらも動き、戦闘行動は未だ可能な様子であった。
「――チッ、どんだけ硬ェんだよッ」
「マジ冗談ッ」
そこへ丁度、シャンツェの遮蔽する柱に、トロルのジェボが駆け込んできて合流。するや否や、彼は舌打ちと悪態を寄越し。
シャンツェはそれに同調するように零す。
「再投射に掛かりますッ!」
敵の銃火が勢いを吹き返し、頭上を飛び抜けて行く中。
反対向こうのラーウォーからは、もう一度の投射に掛かる旨が寄越される。
「――いんや、無用のようじゃッ」
しかし。
銀年堂が状況に反した落ちついた、そして何かつまらなそうなまでの色で。そんな言葉を発し返したのは直後。
「え?――ッ!?」
一瞬、それに訝しんだシャンツェ等各員だが。次にはすぐにその理由に嫌でも気づく。
直後――響いたのは爆音、衝撃音。
発生源を辿り見れば、大橋の向こうで鎮座するB56ieが。再び、そして一層強烈な様子で何かの直撃を喰らい、爆炎を上げているではないか。
「!」
そして一拍置いて聞こえ届いたのは、金属のぶつかり鳴る音と、微かな地響き。
それの発生源は、交差路広場の背後側方。振り向き、その向こうへ延び繋がる街路を見れば――そこに、鋼鉄の巨体は見えた。
「〝飛行場警備隊〟に、〝強襲隊〟かッ!」
そしてシャンツェは、その正体を確信して発し上げる。
向こうの街路より堂々たる様相で現れたのは――重戦車。それも、その施す迷彩塗装は友軍のもの。
そしてしかし、地上隊のものとは異なるそれ。
それは、航空宇宙隊に所属するものであった。
――JE 航空宇宙隊は、空軍組織であるが独自に地上戦力を保有する。
一つは、飛行場警備隊。
航空宇宙隊にとっての重要施設である飛行場を始め、各関係施設の警備防衛を担い。遠地展開の際には前線の野戦飛行場にも展開し、場合によっては前線地上戦闘にも参加支援を行う。
一つは、強襲隊。
航空宇宙隊が独自に保有運用する空挺・パラシュート降下部隊。諸外国の言葉で表現するならば、空軍空挺。
主として、敵飛行場施設へ降下。制圧回収確保し、友軍が円滑に再利用できるようにすることを任務とする。
これ等の航空宇宙隊部隊が、今回のルーテェ攻略戦にも参加投入されており。
それが今、この場に現れた。
そして今に敵のB56ieを襲った衝撃に爆炎は、その飛行場警備隊が保有する重戦車――N83A3戦車の。その備える凶悪な得物、大口径長砲身の130mrw戦車砲が成した一撃であった。
「ヨォ、さらに来たぜッ」
そこへ続けてジェボが、別方を促し声を上げる。
背後、交差路広場のまた別方向より。少し遅れるように、また別の戦車車輛が随伴部隊を伴い現れる。
それにあっては、地上隊所属の戦車駆逐車(駆逐戦車)。
第47管区隊 戦車装甲車大隊に編成される、戦車中隊の戦車駆逐小隊が保有する。オープントップの砲塔を持つ、G521と呼ばれる形式の車輛であった。
「ッぉ」
その戦車駆逐車は、今のN83A3に後れを取るなとでも言うように。次には備える107mrw戦車砲を砲撃投射。
砲撃は向こうのB56ieの砲塔装甲を、痛烈に叩いて炸裂。
さらに、一拍置いてN83A3が再び砲撃投射。
行動不能に陥っていたB56ieが晒していた横っ腹に、一撃を叩き込んだ。
新手の出現により、一転して引っくり返った場の状況からの、オーバーキルなまでのそれ。
そして撃ち込まれた三度にわたる戦車砲砲撃の煙が晴れ散った時。そこに在ったのは、大破炎上して無残な躯を晒す、B56ieの姿で在った。
「首級、持っていきおったッ」
脅威であった敵重戦車、B56ieを。しかしその威力と、数の力で現れるが否や撃破し。今に在っては堂々と交差路広場に踏み入り抜けて来る、内のN83A3を見ながら。
銀年堂は大変に不満そうな様子で、言葉を上げ零す。
「言ってる場合ですかッ、まったくッ」
「そのうちそのムーヴで、くたばるんじゃねェですか?」
それにツッコミを入れながら。シャンツェやジェボが銀年堂のカバーする横転屋台に合流。
そして自身のF912や、分隊支援小銃である7.62mrw自動小銃 Lc6を突き出し構え、銃撃をばらまく。
一番の大きな脅威は無力されたが、戦闘行動は今も変わらず続いているのだ。
次にはG521戦車駆逐車がまた107mrw砲の砲撃を寄越し。敵側の簡易トーチカを爆発破砕。
火点を失い、敵火力は弱まりを見せる。
「行くどッ、遅れは取れんッ」
それを見止めるや否や銀年堂は張り上げ、遮蔽していた横転屋台を飛び出す。
そしてシャンツェやジェボも、呆れは見せつつも行動は継続しなければと。それに続く。
「くっ、引けぇ――あ゛っ!」
「退避を――ぐぁ゛!?」
堀に掛かる大橋のこちら側端に設けられていた土嚢に銃座。そこにわずかに取り残されていたナフレリアス王国陸軍の兵達が、後退すべく飛び出し走る姿を見せる。
しかし、その彼等彼女等は次には銃火の餌食となった。
押し上げ駆けて来た銀年堂等。
さらに別方より掛けて来た、オーデュエル率いる1チームが。その隙を逃さずに銃撃を撃ち込み。
後退を企てたエルフの青年士官に、狼獣人の女軍曹を。容赦なく撃ち屠って沈めた。
「入ったァ!」
「行け行けッ!残る抵抗を封じろッ!」
上がる銀年堂の張り上げに、オーデュエルの指示の声。それぞれの隊・チームは、使用者の居なくなった土嚢陣地に遮蔽物へ飛び込み、主に成り代わって占拠。
それから間髪入れずに、まだわずかに抵抗を見せる、橋の向こうへ王射行動を始める。
そこへ、続けて背後より鉄の擦れる音に地響き、戦車の行動音が届く。
そして次には銀年堂等の背後側にN83A3戦車が進行してきて、橋前のほぼど真ん中に鎮座した。
「――進めッ、配置しろッ。二名程左に行けッ」
そのN83A3に随伴していた一個班程の隊があり、その隊員等は銀年堂等やオーデュエル等の元へ駆け込み合流。
その顔触れは、またヒトの男性に、女性スライムに、ゴブリンリーダー等と様々。
青を基調に大雑把な迷彩を描くその行動作業服(フィールドジャケット)は、航空宇宙隊隊員等が纏う物。今にあっては、それは航空宇宙隊 強襲隊の所属である事を示していた。
「強襲隊かッ?」
「第2強襲群集団、第7強襲群、第1大隊のヴォルデック臨時幹部ッ」
駆け込み合流した強襲隊の班に、オーデュエルがまず尋ねる声を向け。
それに所属と名前階級を返したのは、強襲隊側の指揮官である。尖りやや人相の悪い、物理基準者(ヒト)の男性隊員。
「第107機関銃連隊、第1機関銃中隊のオーデュエル術尉だッ。そっちはどう動く腹積もりだッ?」
オーデュエルはそれに自身も返し。次には航空宇宙隊側の作戦・行動指針を訪ねる。
「そちらとさして変わりは無い、戦車を王城敷地に踏み込ませるッ。これよりこちらの工作班に、橋に爆破工作が無いかを確認させるッ」
ヴォルデックと名乗った臨時幹部は、橋の向こうを指差し示しながら。これよりの行動を告げる。
それを証明するように、強襲隊はすでに援護のための射撃行動を開始し。その中を任務を果たすべく、強襲隊付随の工作班が橋に向かい、一部は堀へと降りて行く。
「――地上隊、悪いな。また邪魔をしてしまったようだッ」
そんな内での一方。銀年堂の方へ、背後頭上より掛かる声があった。
発生源は、今にあって銀年堂等の真後ろで鎮座する、N83A3戦車の巨体の上。
コマンドキューポラ上に半身を見せる、戦車長。尖る容姿のゴブリンリーダー系の職儀(少佐)がその主だ。
「えぇぇ、職儀には手を貸してもらってばかりにごッ」
そのゴブリンリーダー職儀はシティゼトという名で。銀年堂とは以前にも戦場で顔を合わせた間柄であった。
その職儀に、銀年堂は隠しもしない皮肉全開の声色で、そんな言葉を返す。
「爆破工作は無しッ、前進ヨシッ!」
そこへ、橋の方より響いた声が割り込む。工作隊からの、橋がクリアである事を示す言葉だ。
「悪いな、こちらも任務だッ――エドラノート、押し出すんだッ」
それを聞き。
シティゼトは銀年堂に淡々とした、しかし少しの揶揄う色を見せて言葉を寄越してまた返し。今も銃撃銃火が激しく飛び交う中での、しかしそんな皮肉気なやり取りを少し交わした後。
通信マイクで操縦手に前進を命じ。
N83A3戦車はまたエンジンを唸らせ進行を前進開始。
銀年堂等に腕を軽く掲げる挨拶を見せるシティゼトを載せて、N83A3は橋を渡って城門を破るべく押し上げて行った。
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