チャプター5:「進行せよ、撃ち退けよ」

 銀年堂の隊は王都の街の内を、止める事無く縫って進行。中枢へと確実に進め。

 現在は裏通りを警戒しつつも急ぎ駆け進み、間もなく目標たる王城へと辿り着こうとしていた。

 建物に区切られる夜空の光景の向こうに、聳える王城はすでに見えている。


「――うォッ!」


 その最中、直後。その見えていた王城の側面一角で巨大な爆炎が上がり、爆音がここまで届いた。

 見え聞こえたそれに、思わずの声を上げたのは。銀年堂指揮下のトロル系の隊員、分隊支援火器射手のジェボ FSW クロンストウ上等士。


 見えたのは、方面隊火力群のGg14E2 211mrw榴弾砲が撃ち放ち叩き込んだ砲撃だ。


「マぁジかよ、王城に直に叩き込みやがったッ」

「上(司令部)は、本気で容赦しないみたいねッ」


 その見えた砲撃着弾に、ジェボは呆れにも近い皮肉を混ぜた台詞を零し。

 それに答えるように、前を行くシャンツェが言葉を紡ぐ。


 さらに直後。

 一層戦場の苛烈さを伝えるように。また建物に区切られた裏通りの上空夜空を、航空機が飛び抜ける。


 エフィルシフル皇国海軍の、ウィキンス Mv.7短距離離発着戦闘爆撃機が。しかしその機体主翼より出火を見せながら飛び抜けた姿。

 さらに続けて、それを追撃する航空宇宙隊のW-117が。備える32mrwリヴォルバーカノンを唸らせ撃ちながら、轟音を響かせて真上を飛び抜けて行った。


「とんでもねェ」


 それを真上に一瞬見て、また皮肉気に零すジェボ。


「抜けっぞッ」


 しかしそこへ、先頭を行く銀年堂の張り上げる声が届く。

 裏通りは間もなく終わりを向かえ、合流する表通りに出ようとしていた。


「ッ」

「っと」


 裏通りを出る前に、一旦合流部で止まりカバーする銀年堂にシャンツェ等。そして表通りを覗き、敵の有無、安全を確認する。


「ッ、瘤さんッ」

「おうッ、見えとる」


 しかし次には、シャンツェが何かを見止めて伝える声を上げ。銀年堂も同じものを見ている旨を返す。


 合流して出た表通りの向こうより、エンジン音を唸らせ。隊形を作って向かってくる二種の装甲車輛の姿と、それに遮蔽しながら随伴する小隊隊形が見える。

 一輛の六輪偵察戦闘車と、続く一両の軽量装甲四輪駆動車を主体とするそれは。味方地上部隊のものであった。


「あぁ、ウチ(第1機関銃中隊)だッ。第1区隊ですッ」


 さらにその姿様子が明確になり、シャンツェは発する。

 随伴するその小隊隊形の所属正体は、銀年堂等と同じ第1機関銃中隊の第1区隊(小隊)であった。

 同時に向こうの区隊もこちら側の存在を視認。

 シャンツェがカバーから、味方である事を身振り手振りで送り。両者は互いを認識掌握する。


「丁度良かッ、合流じゃッ」


 銀年堂はそれが確認できると同時に、都合が良いと言うように発し上げ。

 そして促すと、次には自らが第一に表通りへと踏み出して駆けだした。


 区隊と車輛はちょうど銀年堂等の近く向こうまで来ており。銀年堂を筆頭に火力隊各員は表道理へ踏み出て駆け横断。

 区隊側の隊員等に援護され、迎え入れられながらそれぞれの装甲車輛の側面へと飛び込んだ。


「――目標に到着次第、所定の行動に掛かるッ。間もなくだ、備えておけッ」


 六輪偵察戦闘車――W-RFVの元では。その車輛の側面先頭で、第1区隊を率いる女トロルの術尉(中尉)が。その太い腕での手振りと合わせて、指揮下の各員へ指示の声を張り上げている。


「オーデュエル術尉ッ、こっちは中隊火力隊じゃッ」


 そのW-RFVの側面に身をぶつけるように飛び込み遮蔽した銀年堂は。そのトロルの術尉を見止めて、呼びかけと合わせて伝え張り上げる。


「ヨォ、瘤さん!あんたさんかッ!」


 オーデュエルと呼ばれた女トロルの術尉は、徐行速度で走行するW-RFVに合わせて足を進めながらも。

 陽気に張り上げた声で返事を返す。


「正面で火力をぶちかますよう任を預かっとるッ、そっちはの目指すは王城かッ?」

「ああそうさッ、アタシ等はこのまま王城正面に踏み込むッ。同行してくれッ」

「良かッ」


 両者両隊の目的行動を確認し合い、それが同一である事を確かとし。そのまま進行行動を一緒とする。


 その目的地たる、ティーリアン王城の正面への到着にはさほど掛からなかった。

 進む表通りは間もなく、複数の主要街路が集まる大きな交差路広場へと合流。

 そして集まり広がる道の内、もっとも大きな街路の短く伸びるすぐ向こうに。堀を越える大橋を越えた先に。ティーリアン城の荘厳な正面城門が、その向こうには王城が見えた。


「敵陣地確認ッ」


 直後、第1区隊の隊員が張り上げ知らせる。

 見えた王城城門周りは、土嚢銃座に監視塔に簡易トーチカなどなど、多数の陣地施設が構築されて堅牢な防護陣地を構築していた。


 そして銀年堂等の側が姿を見せるや否や、その各火点は待ち構えていたのだろう。容赦の無い銃火火力を発し寄越し始めた。


「散会展開しろッ、車輛前ェッ!」


 ほぼ同時に、オーデュエルは指揮下の区隊各員へ指示を張り上げ。

 また同時にW-RFVの側面装甲を叩いて配置指示を命ずる。


「行がッ、行がッ!」


 同じく張り上げるは銀年堂。それに呼応して火力隊各員も駆け散会開始。

 それぞれは駆けつつ、牽制の射撃行動をばら撒きながら散り。


 直後にはW-RFVが前に出ながら、その砲塔を旋回させて備える25mm機関砲向け。咆哮を上げ、苛烈な支援投射を開始。

 その支援を受けつつ隊員各員は、交差路広場にある花壇に噴水に、放置された露店に。遮蔽できる各所に飛び込みカバー。

 そして本格的な応戦戦闘を各個開始。


 交差路広場から大橋までを挟んで、苛烈な銃火火力の応酬が火蓋を切った。


「ッぉ!」


 その、銃火が容赦なく飛び交い始めた内で。

 銀年堂は迷うことなく前方正面に向けて駆け、その動きの中で自身の得物――火器を繰り出して構える。


 ――Ua77 10.9mm戦闘銃。


 本来はミュータントや亜人の隊員が運用する事を想定に開発された、.44口径のマグナム弾と同じ弾直径の専用ライフル弾を使用する。超大口径のバトルライフル。

 しかしその想定であっても大変に扱いに難があり、少数の配備運用に留まっている癖のある代物。


 しかしだ。銀年堂はそのミュータントや亜人も目を剥く、とんでもない腕力で。

 そのUa77を片手で持ち、まるで拳銃でも扱う様に突き出し構え。

 そして発砲。


 直後には向こうの土嚢にわずかに姿を晒した、熊型の獣人兵の首を撃ち抜き。屠り向こうに吹っ飛ばして見せた。


「ひとォつッ!」


 上がった最初の戦果に、銀年堂は張り上げながら。

 次には身を落としてスライディング。自信を狙い飛び来た機関銃火線を見事に回避しながら。

 その先にあった、横転して残されていた甘味屋台を遮蔽物に。滑り飛び込みカバーした。


「またヒヤヒヤする事をッ!」


 直後、背後後方からそんな苦言の張り上げ声が聞こえる。

 その主は。銀年堂に続き、今や酷く損壊した高級飲食店のその露店席の柱にカバーしたシャンツェ。

 装備火器である選抜射手用の半自動小銃――アブゾーヴァルF912を。装着の近接スコープでの照準もそこそこに、ばら撒き敵方に注ぐ姿を同時に見せている。


 しかし銀年堂はそれにニカっと〝いかちい〟笑みで返すのみ。


「もろうたッ!」


 直後には視線を前方に戻し。向こうの監視塔で射撃のために半身を晒した、女ダークエルフの敵狙撃手を見止め。

 しかしそれよりも速くUa77を突き出し発砲。

 一瞬後には凶悪な10.9mm弾をその頭部に叩き込み。残酷にも砕きながらもんどり打たせ、監視塔の向こう奥へと沈めさせた。


「ぬッ」


 その次に、銀年堂は近く側方にエンジン音を聞く。

 その正体は、今に同行していた車両の内の軽量装甲四輪駆動車――G-LAV。

 より積極的な、効果的な火力投射のため。そしてそこには少しの攻略を急ぐ焦れもあるのか。

 G-LAVはそのターレットに備える汎用機関銃を唸らせ向こうへ注ぎながら、前へと進み出て行く。

 そして交差路広場から向こうへ掛かる、大橋に差しかかろうとした所で――それは起きた。


 ヒュゥ――と何か空を切り裂く音が聞こえたかと思った瞬間――爆音衝撃が巻き起こった。


「ッォ」

「ぅあッ!?」


 それに銀年堂が少し零し、後ろではシャンツェが驚きながらも身を庇う。

 そしてしかし、すぐに視線を上げて爆音の聞こえた後ろ側方を見れば。

 そこには後方へ吹っ飛び転覆、大破して燃え上がるG-LAVの姿車体があった。


「ッぅ!」


 炎に巻かれながら、藻掻き舞い出てくる乗員隊員。それを救出すべく、銃火の中を数名の地上隊隊員が、火力援護の元飛び出して行く。

 その光景を見ながらの、シャンツェの苦く鳴らした口音が届く。


「――B56ieッ!!」


 直後、また別の誰かの隊員の声が張り上がる。

 そして、示された名称のその正体が見えたのは、掛かる大橋の向こう。

 過剰なまでに厚く構築されているように見えた、簡易トーチカの影。そこより――鈍重な動きでしかし、その巨体は姿を見せる。


 それこそ、ナフレリアス王国陸軍、重騎兵師団の運用する切り札――重戦車であった。

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