チャプター4:「打撃、轟く」

 視点は一度また、地上隊の別の部隊へと移る。


「――」


 ルーテェの街の中にある、一つのビル建造物の上層階内部。

 そこをそれぞれの銃火器を構えて進むは、地上隊隊員の一個班。顔ぶれはやはり班長のヒト系を筆頭に、ゴブリン系に亜人にミュータントと様々。


 彼等の所属は、王都ルーテェの攻略の主力を担う第47管区隊とはまた別。

 さらに上級部隊である第21方面隊所属の、方面隊直轄火力群。重火砲の扱いを担当するその部隊の、前進観測――斥候・弾着誘導観測を担当する一個班だ。


 その前進観測班は隊形を組み、警戒を保ちながら現在の階層の裏手、従業員空間を抜けて行く。

 通路を抜け、階段を上がり。間もなく班はビル建造物の屋上に踏み出た。

 星が瞬く夜空を、しかし敵味方の防空、迎撃火力投射の火線が物々しく上がり割り込む光景が見えるが。

 班の各員は構わぬ様子で、屋上に散会して。構造物を縫い、飛び越え進みクリアリングしていく。


「――クリア」


 程なく安全化が確認され。

 促す言葉をと同時に、班指揮官のヒト系の地上曹が拳銃を降ろす姿を見せる。

 そして指揮官は次には腕を掲げて促す仕草を見せ。班各員はすぐ様というように次の行動を始めた。


 各員が始めたのは、分担してこの場に持ち込んだ、何か物々しいいくつかの器材の展開配置。

 内にはまるで望遠鏡のような器材まで見える。

 各員は手早くその準備を終え。

 その今の望遠鏡のような器材には、ゴブリン系の隊員が着き。そのゴブリン特有の獰猛そうな眼に、しかい極めて冷静な色を見せつつ覗く。


「――視認です」


 そして、ゴブリン系隊員は班指揮官に静かにそんな一言を告げる。

 その覗く望遠器材の向こうにゴブリン系隊員が見るは。王都ルーテェ、ナフレリアス王国の中心中枢である、ティーリアン城のその聳える姿光景。


「よし――ドーン・ヘッドへ。シェリング・リポートは位置に着いた、これより位置情報送る――」


 それに班指揮官は答え。

 そして隣に位置していた長身だが猫背で尖る、怪物のような容姿種族の――クラウ系ミュータントと呼ばれるまた一種のミュータント系の隊員から。

 その担ぐ大型通信機の送受信用受話器を受け取り。


 それに通信のための言葉を紡ぎ始めた。




 場所は、王都ルーテェの中心部を離れて郊外へ。

 その一点にあるは、魔法文化の繁栄を記念して作られた、アリヴェリア記念公園。

 しかし今に在ってはそこも、JF 地上隊によって制圧占拠され。物々しい光景が広がっていた。


 公園の各所を利用して配置展開するは、管区隊直轄火力群。その保有運用する各野戦火力装備。

 主力装備たる155mrw榴弾砲から、同口径の砲を備える自走砲。多連装ロケットや、この周辺エリアの防空を担う中距離防空誘導弾まで。

 数々の間接火力装備の展開した様子が見える。


 そして、記念公園の運動場エリア。そのほぼど真ん中に鎮座する、各火砲装備の中でも一際目立つ、巨大で武骨な火砲があった。


 Gg14E2 211mrw榴弾砲。

 巡洋艦クラスの艦船の艦砲に匹敵する口径・サイズの、一種の重砲。


 機動戦に主眼が置かれるようになった昨今では、時代遅れの兆候が隠せなくなった装備であるが。

 総力戦の域に踏み込んだ此度の戦争にあって。古き城塞都市であるティーリアン城の攻略に有用との判断がされた事も合わせて。

 引っ張り出され、今回の作戦に投入された。


 そのGg14E2 211mrw榴弾砲の周りでは。

 ミュータントや亜人系を主とする、重量物の扱いに長ける隊員等が。急かしく動き回り、間もなくの砲撃投射に向けて準備を進めている。


「ッ、デカブツだなッ」

「慎重にッ」


 ミュータント系の隊員が零し、女オークの隊員が注意を促しながら。搬送器材にて二人掛かりで運ばれるは、砲用の211mm弾頭。

 慎重にしかし手早く運ばれた弾頭は、次には砲に備わる半自動装填装置の架台に降ろし載せられ。

 待機していたまた別の装填要員隊員の操作で揚弾され、砲尾の閉鎖機から砲身内へと押し込まれた。


「装薬ッ」

「ヨシッ――閉鎖ッ」


 立て続けに、同じ手順で撃発用の装薬が隊員等の手によって装填され。それが完了次第、閉鎖機が跳ね上げるように閉鎖される。


「装填完了ッ!」

「了解――座標は?」


 作業班の班長が完了を知らせる声を張り上げ。

 それに答えたのは、後ろ側方で立ち構える小柄なシルエット。女ゴブリンの地上隊修尉(大尉相当)。

 しわがれながらも男性ゴブリンより高めの女性ゴブリンの声色で、知らせを受けて答え。次には側に待機していた指揮下の隊員に訪ねる。


「ちょうど来ました、5_1_7で調整の要請。すでに開始してます」

「了解」


 王都の前進観測班より、合わせ狙うべき座標が丁度届いた所であり。隊員はそれにすでに掛かっている旨を答え、女ゴブリンの修尉はそれをまた端的に了解。


 その視線の先では、Gg14E2がすでに動きを見せ。

 微かに唸るまでの鉄の響きを上げて、地面に固定したターンテーブルを利用して向きを変え。次には砲身砲口を持ち上げて仰角を取り。

 間もなく目標座標を狙うための、射角調整を完了させた。


「要員以外は退避――完了次第、射撃を行う。備えてッ」


 それを見て、女ゴブリン修尉はまた淡々と次の指示を告げる。

 指示に答えて、射撃時に必要な要員以外は。離れた場所に設けられた土嚢陣地の向こうへと退避。

 女ゴブリン修尉始め、砲に残る数名の要因は。イヤープロテクタの装着を念入りに行う。


「――退避、配置ヨシ――射撃ヨシッ」


 最終確認を終えた地上曹隊員からの、号令の声。

 砲の真後ろではトロル系の砲手隊員が、撃発ロープを握りいつでも呼応できる姿を確かに見せる。


「カウントッ、備えろ!――3、2、1――」


 そして女ゴブリン修尉は、知らせ命ずる声の次に、カウントを始め。


「――撃ェァッ!!」


 しわがれた声色で、しかし確かに響く命令の号声を張り上げ。

 呼応し、砲手の撃発ロープが引いた瞬間――轟音が周囲に轟いた。


 装薬の撃発からの、砲の唸り声。


 そして少なからずの衝撃派を広げ伴い。

 弾頭たる211mm榴弾が、標的たるティーリアン城に向けて撃ち放たれた――




 ティーリアン城の王城の側面一角が、巨大な爆炎に包まれ崩落の姿を見せた。

 それこそ、今にGg14E2 211mrw榴弾砲の叩き込んだ砲撃の着弾が成したもの。


「――!」


 その惨劇を、王都ルーテェの上空から見た者が居た。

 上空夜闇を飛ぶ、一機のジェット戦闘機。

 ジェット戦闘機としては小柄で少し変わった機体形状を持つそれは、JE 航空宇宙隊機でもナフレリアス王国空軍機でも無かった。

 その所属は、ナフレリアス王国より海峡を挟んだ向こうにある盟友国家にして、EMAの主たる国の一つであるエフィルシフルという名の皇国。その皇国海軍の所属機。

 ナフレリアス王国の窮地に、エフィルシフル皇国がせめてと応援に寄越した、海軍航空隊の艦上戦闘機だ。

 ウェイリンスンビュア級短距離機母艦(軽空母)から出撃した、ウィキンス Mv.7短距離離発着戦闘爆撃機という形式のその機の。コックピットに収まるは、見目麗しい女エルフのパイロット。

 侯爵領を持つ女侯爵でもあり。此度は自ら貴族の義務と志願して、ナフレリアスへの応援に駆け付けた身。


 しかしその彼女の顔は、今まさに眼下に見えてしまった。歴史あるティーリアン城が砲撃に巻かれ崩落する様に、歪み険しさを作っていた。


「歴史深きティーリアン城を……!おのれっ、東の土人が!武人としての矜持も持たぬかっ!!」


 そして女エルフは激怒する。

 エフィルシフル皇国とナフレリアス王国は長年の犬猿の仲であったが。それでもその歴史文化には互いに理解を示す所があった。

 しかし、今に敵方が見せたのは。それすらも無く、踏み躙るかのような王城に向けての暴虐のまでの砲撃攻撃。


 実際、JE側は。ここまでの歴史で植民地にて傲慢の数々を見せて来たEMA諸国を、対話可能な相手としては遠の昔に見ておらず。

〝処分〟の対象の域で見ていた。


「許さぬ……!天に、主に変わって我が罰を……――ぐぁっ!?」


 そして激昂に任せ。仇敵を討ちに向かうべく操縦桿を操ろうとした彼女。

 しかしそれは、直後に気を襲った強烈な衝撃に阻まれた。


「し……ま……っ!」


 気づけば女エルフの操るMv.7の後方に在ったのは、JE 航空宇宙隊のW-117戦闘機。

 それが後ろを取り、備える32mrwリヴォルバーカノンの投射によってMv.7を撃ち貫いたのだ。


 Mv.7の主翼は損壊し、出火。そして何より女エルフ自身も、コックピット内に飛び込んだ破片によって重傷を負っていた。


「ルーテェが、陥ちるか……っ、EMAの……歩む、未来も……っ」


 朦朧とし始めた意識の中で。女エルフは王都ルーテェにナフレリアス王国の陥落を。果てはEMAの未来が断たれつつある、残酷な現実と未来を悟らされながら。

 彼女の乗るMv.7は、操る手を失い降下、墜落を始めた――

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