チャプター3:「火力にて、進行せよ」

 各所で激しい戦闘行動の様子が始まっている、ルーテェ王都の街中。

 銀年堂等の姿、動きはその一点一角にあった。


「――ッ、またバリケード!」


 銀年堂やシャンツェの乗る、G-LV汎用軽四輪駆動車。

 その車上でハンドルを預かるシャンツェから苦い声が上がり、同時にG-LVがやや急な動きで停車。

 敵の裏を取るべく回り込もうとしていた銀年堂等率いる隊が、しかし道を塞ぐバリケードに阻まれた所であった。


「下がりますッ?」

「いやッ、ラチがあかんッ。こっからは徒歩じゃッ」


 シャンツェの後退して別ルートを探すか尋ねる言葉に、しかし銀年堂は車輛での進行回り込みをここで断念する旨を返し。

 ここよりは徒歩での進行に移行する指示を張り上げる。


「はぁ……ッ、回り込みは無理かッ」

「ここより徒歩ぞッ、シャンツェ、JJ。皆も、降車せぃッ!」


 シャンツェはその指示決定に、苦い声色で零し。

 銀年堂は、G-LVに一緒に乗っているシャンツェや、荷台で重機関銃に着いて居るフュンジェク JJという名の長距離射撃手隊員に。

 そして後続の、G-LCV汎用中型輸送車に登場し続いていた指揮下の隊の各員へ、張り上げ告げる。


 その指示に各々は「やれやれ」といった様子ながらも手早く降車。


「行ぐどッ」


 そしてまた張り上げ、先行して駆けだした銀年堂に。各々は隊形を適当に再編しながら続く。


 銀年堂率いる隊は。

 第107機関銃連隊の第1機関銃中隊の内に編成される、〝中隊火力隊〟。

 抗機甲火器や誘導弾、中・重機関銃などを扱うその隊より、各火器チームをピックアップして再編成した即応隊だ。


 その再編火力隊は、今は大通りに抜けるべく。建造物内を通る連絡通路を、そこを利用して設けられ並ぶショーウィンドウ店並びを抜け進んでいる。


「通りに抜けッぞィ、一旦遮蔽して止まれィッ!」


 進み程なくして、連絡路の向こうに繋がり通じる大通りが開けて見える。

 そして大通り上には、味方――JE 地上隊、第47管区隊主力の進む姿が見える。

 それを見止めた銀年堂は伝え張り上げ、しかし同時に一旦の停止指示を命じた。


 大通り上では、苛烈な戦闘が繰り広げられていた。


 進行方向の向こうに存在する大きな十字路には、ナフレリアス軍側の堅牢なバリケードが築かれ。その向こう角に存在する大型商店建造物には、重火器類が配置されて強力な火点となり。

 機関銃掃射が注ぎ襲い。軽野砲の砲撃が撃ち放たれてこちらで炸裂するなど。

 無数の激しい攻撃が、JE側を襲っていた。


 今もまさに、次の遮蔽物を目指していた地上隊隊員の一名が機銃掃射に喰われ。身を打ち崩れ沈む姿を見せる。


「一名被弾ッ!」

「下げろッ、後送しろッ!こちらも火力を絶やすなァッ!」


 しかし、地上隊部隊は怯み臆することなく。反撃攻撃と押し上げを止める様子も無い。

 散会、遮蔽した各員が敵火点からの攻撃の合間を縫い、応戦行動を果敢に実施。

 大通りと十字路の間を、互いの無数の火力投射が飛び交う。

 そしてその間を、また地上隊隊員がダッシュで抜けて次の遮蔽物へと飛び込み。少しでも前へと進める姿が見える。


「我々で、叩きますかッ!?」


 その様子光景を、連絡路の出入り口で遮蔽し、見止め掌握した銀年堂。

 次にはその隣から、身を低くして同じくカバーするシャンツェから、進言の言葉が来る。

 銀年堂等、火力隊の役割は。扱う重火器火力による敵の重要脅威の無力化。シャンツェの進言は、自分等の行動によって向こうの敵火点の無力化を示すもの。


「いつでも」


 その言葉に合わせ、シャンツェのまた隣でカバーし立つ存在が。

 その身長200crw半ばはある、オークやトロルをも超える巨体に。灰色掛かった青色の肌を持つ、異質な存在――ミュータント系の隊員が。

 名はL ラーウォー Tという一等士の彼が、一声を寄越しながら。その腕っぷしに悠々と担ぐ、対舟艇対戦車誘導弾の発射機を示す動きを見せる。


「――いんや、おい等の出番では無か」


 しかし銀年堂は、それに何かつまらぬような物言いで返す。

 その直後、聞こえ届いたのは。空気を切り裂き叩くような連続的な異音。それは――ヘリコプターのローターブレードの回転音は、程なく轟音へと拡大変化し。


 大通りの向こう後方より、その低空真上に。

 ズオッ――と、効果音が聞こえそうなまでの様相で。戦闘攻撃ヘリコプター、Fra-29Jが現れた。


「っとぉッ」


 真上に現れたFra-29Jの堂々たる姿に、思わず声を零すシャンツェ。

 Fra-29Jは街路上の低空を低速で飛び抜け進んで行き、前方の大きな十字路との境目まで進入。


 十字路角の建造物に設けられる、ナフレリアス軍の火点の機関銃が、出現したそれに驚き慌てるように銃火を向け注ぐが。低空域での行動を想定し、装甲を備えるFra-29Jはその程度ではビクともしない。

 そして直後瞬間、Fra-29Jはその機首先端で唸りを上げる。機がその機首に備える、40mrw機関砲の咆哮だ。

 その残酷なまでに凶悪な機関砲投射が、お返しと言わんばかりに火点の建造物に注ぎ叩き込まれ。

 着弾炸裂と同時に、建造物の上階の一角は飛び散り崩壊。

 そこに向けられていた機関銃陣地ごと、その周りを消滅させる勢いで千切り飛ばした。


「ッぉ」


 その光景に、シャンツェがまた声を零す。

 しかしFra-29Jの苛烈な攻撃は、その一撃に留まらない。

 次には建造物の下階、また敵の軽野砲が掩体されているテナントに向けて。今度はスタブウィングに備える対戦車誘導弾を叩き込んだ。

 その軽野砲陣地が着弾炸裂から吹っ飛ぶ様子を、傍目で確認するや否やというように。次には機は旋回して向きを変え。

 十字路を挟んで反対向こうある建造物を捉え、今度はそこに向けて、ポッドに収め備えるロケット弾を、数発立て続けに叩き込んだ。

 それはそこに籠っていたナフレリアス軍の歩兵小隊を。建造物ごと巻き込み吹き飛ばして無力化。

 極めつけに、置き土産とでも言うように。機は十字路上を塞ぎ構築されるバリケード陣地に、再び40mrw機関砲を薙ぐように注ぎ叩き込み。そこに土煙と血飛沫のカーテンを作る。


 それから火力を鳴りやませ。数秒間、効果、状況を確認するためにホバリングしていたFra-29Jは。

 敵ナフレリアス側の攻撃がほぼ鳴りやんだ様子光景から、自分等のここでの役割は終了と判断したのだろう。

 また悠々とした動きで十字路を向こうへ進み抜けながら高度を上げ。上空からの哨戒・警戒行動へと復帰して行った。


「――ヒュゥ」


 Fra-29Jが見せた痺れるまでに苛烈な火力投射の光景に、口を鳴らしたのはミュータント系隊員のラーウォー。


 その一方で、大通り上では敵の強力な防御火点が無力化され、攻撃が鳴り止み。

 第47管区隊主力の部隊隊員等が進行行動を再開。


 管区隊 施設大隊の所属の戦闘工作車が押し上げ、戦車装甲車大隊の所属の主力中戦車が続き。残るバリケードの残骸や崩落した建造物の残骸を、押し退け乗り越え突破。

 機関銃中隊もそれに続き。大通り上に、十字路上に警戒しつつ進み展開し、周囲の制圧行動に掛かっていく。


「ここの手は足りてるかな」


 その管区隊主力の始めた各動きを見て。この場で自分等の隊の応援は不要と見たシャンツェが、そう言葉を零す。


「じゃ、ウチ等のネクストは?」


 それに続け、ラーウォーが軽く淡々とした色でそんな尋ねる声を寄越す。


「予定道理じゃッ。変わらず、大将首ん籠る城が目標ぞッ」


 それに発し上げ答えるは銀年堂。

 JEの定めた最重要制圧施設の一つに、ナフレリアス王国の。政の中枢であり、王族の住まう場所である王城――ティーリアン城がある。

 すでに管区隊主力の一個中隊が先行して向かっているが。

 銀年堂の火力隊は、道中の敵を無力化しつつ進行し。その主力に追いつき合流し、火力の提供を行うことが所定の作戦、命令であった。

 銀年堂の回答は、変更は無くそれを目指す旨を示すもの。


「了――だって。皆、気合い入れ直して」


 それを受け、シャンツェは了解の返答をし。それから隊員各員に、少し倦怠感の見える様子で、しかしそう促す。


「再開ぞッ」


 そして銀年堂が張り上げ発し。

 隊は遮蔽を解いて、進行行動を再開した。

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