チャプター2:「苛烈、その始まり」

 ナフレリアス王国、王都ルーテェ。


 歴史深く、そして華やかに繁栄し。世界都市の一角として、その栄光を響かせた煌びやかな王都。

 しかし、その栄光の地は――硝煙と銃砲火の重音楽に包まれた。


 日付時刻は週末の夜。日が沈み、夜闇に星が瞬き主張を始める時間帯。

 本来ならば優雅で賑やかな夜が、美麗な王都を賑わす頃。

しかし。今の王都ルーティに響くは、劈く轟音に無数の鉄声だ。


 航空優勢確保のために進入したW-117戦闘機が、夜闇に轟音を轟かせて王都上空を切り裂くまでの様相で飛び抜け。

 その元を、JEの多種多数のヘリコプターが。王都の街並みを覆い煽るように飛び進んでいる。


 そして地上、王都の各所では。苛烈な戦闘が始まっていた。




「――降車展開ッ!」


 地上隊の保有運用するG412A4装甲戦闘車(歩兵戦闘車)。その後部乗降扉が叩く勢いで開かれ、搭乗していた地上隊隊員等が急き降車を始める。


 JEは、物理基準者(ヒト)を主とする文明圏だが。しかし力と成るならば、あらゆる人種種族を受け入れる貪欲さをもって拡大して来た歴史を持ち。

 その地上隊隊員の顔ぶれも様々。


 今に、G412A4装甲戦闘車から降車した一個分隊を見るだけでも。

 ゴブリンの分隊長から、物理基準者(ヒト)の機関銃手に、トロルの携行対戦車火器射手。オークの通信手に、ヒトから薬学により進化した〝ミュータント〟の選抜射手まで。

 ヒトも亜人も他も混在して、多岐に渡る。


「各車に散れッ、配置後は各判断で攻撃しろッ」


 その分隊長のゴブリン地上曹(軍曹クラス)が、その独特のしわがれた声で張り上げ促す中。

 各々が次に次にと降車して展開していくのは、王都ルーティを通り繋ぐ街路上。


 その向こうに見えるは、ナフレリアス王都ルーティの繁栄の象徴の一角を成す施設。

 「クレオンディ大魔法図書館」。

 ありとあらゆる魔導書、魔法関係書を蓄え保管する、魔法を拠り所とするナフレリアスにとっての重要施設。


 そしてJE側の、主要〝無力化〟対象の一つであった。


 今のG412A4装甲戦闘車もその一角を成す、地上隊の装甲中隊の車輛隊列が。そのクレオンディ大魔法図書館の正面に、乱雑に停車し包囲。

 地上隊各員が車列に沿って急いて駆け展開、車輛や他遮蔽物へのカバー配置から。

 大魔法図書館に布陣し籠る、ナフレリアス陸軍の王都騎兵連隊との激しい戦闘行動を開始していた。


 大魔法図書館の正面に設けられた、王都騎兵連隊の機関銃陣地からは我武者羅の掃射が寄越され襲い。

 それに混ざり飛び来るは、ロケット焼夷弾を上回る威力を持つ。魔導兵により生み出し放たれた火炎弾。魔法主義のEMAの各軍が得意とする、魔法戦術の体現。


 しかしその我武者羅の抵抗も。

 物量に勝り、そして〝種〟と〝在り方〟の数でも勝る地上隊部隊が相手となっては。軍配が傾く事は無かった。


 装甲戦闘車の機関砲砲火から、各車の重・中機関銃の射撃投射に。散会配置した地上隊各員の、固有火器による各個射撃。

 それ等が一切合切の容赦なく大魔法図書館へと叩き込まれ。

 籠り、抵抗を見せる敵を封じ崩していく。


 大魔法図書館自体は、強力な魔法結界に護られており。それを並みの力で破ることはできず、陥としせしめることは不可能とされてきた。

 しかし、それは今に破られる時を迎える。


「〝抗生弾〟、来たぞォッ!」


 車列の向こうより、隊員の誰かの張り上げる知らせる声。

 同時に車列沿いを駆け抜けて来たのは、一名の巨体のミュータント系隊員。その腕に構えられるのは、対舟艇対戦車誘導弾の発射機。

 主としては三脚に据えて運用するそれを、しかしミュータント系隊員はその腕力で易々と担ぎ、現れ。

 一度、近場の中型装甲輸送車の傍に取り付きカバー。


「解除ヨシッ、投射行くぞォッ!」

「行けェッ、行けェッ!」


 次には周囲に知らせる声を発し上げ。そして近くに居た場の指揮官の促しを受けながら。

 ミュータント系の隊員はカバーより飛び出し、構え上げた誘導弾発射機を短い間を要して照準。

 トリガーを引き、瞬間――誘導弾が撃ち出された。


 バックブラストを伴い撃ち出されたのは、正確には――〝抗生特性現象弾〟と呼ばれる特殊弾頭。

 それは、〝魔法魔力を消去無力化〟する特性を持つもの。

 JE勢力がここまで魔法を退けて来た、力。


 それが向こうの大魔法図書館に打ち込まれ飛び込み――そして炸裂。

 瞬間。鈍く、電子的なそれとも聞こえる大きな音が向こうで響き。そして〝衝撃派・電気電波を可視化〟したような爆発現象が上がった。


 そしてそれに伴い見えたのは、大魔法図書館を護っていた魔法防御結界が、不安定化により可視化。そして崩れ溶けるように消えて行く様。

 それが、魔法が〝無力化〟された証であった。


「防御膜、無力化視認ッ」

「次ィッ!」


 それを観測した隊員が張り上げ伝え。

 場の指揮官はしかし、間髪入れずに次の手を指示する声を張り上げる。


 今の抗生弾を撃ち放ったミュータント系隊員が引き遮蔽し。入れ替わる様に待機していた物理基準者(ヒト)系の隊員が、また別種の大口径対戦車火器を構えて前に出る。


 そして隊員は迷いなく、直後にはトリガーを引いて対戦車火器を撃ち放った。

 撃ち出されたのは多目的榴弾。それは魔法の加護を失い、その元で騎兵連隊が混乱を見せている大魔法図書館に叩き込まれ。


 炸裂――今度は物理的な爆発爆炎を、破壊エネルギーを生み出し。

 歴史ある大魔法図書館を、何の遠慮容赦もなく吹き飛ばし破壊。

 正面を大きく崩落させながら、濛々と上がる煙で巻き。

 その荘厳たる姿を、長き歴史を。蹂躙のそれで終わりを向かえさせた。


「踏み込むぞォ!行くぞォッ!」


 それを認めた直後に指揮官が発し上げ、この場の中隊部隊の各員は、突入行動を開始。

 歴史深き大魔法図書館が、物理の力の元に制圧されるのは。その後、間もなくであった――




 ルーテェの街並みの上空、少しの高度を取って哨戒警戒飛行中の一機のヘリコプターがある。


 Fra-29J 戦闘投射ヘリコプター。

 尖るように縦に細長い機体胴体が特徴の、肉食昆虫を思わせるような姿の、地上隊 航空科の主力ヘリコプターだ。


「――魔法図書館に叩き込まれた」


 そのタンデムコックピットの、前側に設けられるガンナー席。

 そこに収まるガンナーの、ゴブリンリーダー系の女隊員が。キャノピー越しに眼下地上を見ながら、端的な声色で発する。

 彼女の眼が見止めたものこそ、今まさに地上部隊の攻撃投射により、爆炎を上げて崩れ落ちる大魔法図書館だ。

 その様子は、上空からでも良く見えた。


「盛大にやってる」


 それに、後ろから淡々とした返答が寄越される。

 主は、機の機長兼操縦手の物理基準者(ヒト)の隊員。


 二人の見下ろす眼下、地上のルーテェの街並みでは。大魔法図書館に限らず、そこかしこで戦闘の煙が上がっていた。

 しかしそれを見ながら、二人の様子はしごく冷静で淡々としたものだ。


《コントロールよりドナー2-1。支援要請在り、味方がレオハナルト記念街路上で接敵交戦中。情報送る、向かってくれ》


 そこ通信に飛び込む音声。作戦指揮所からの、支援戦闘に向かうようにとの指示命令だ。

 直後にはコンソールに、位置情報が送られてきてマークされる。


「ドナー2-1了解、向かう――行こう」

「了」


 操縦手の彼は、作戦指揮所から寄越された命令に、また端的に了解返答。

 そして前席の相棒に促し、そのゴブリンリーダーの彼女も端的に了承。


 操縦手の操作でFra-29J機は機体を傾け、高度を下げながら指定の場所へと向かう――

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