Physics VS Fantasy War 物理と幻想の衝突

EPIC

チャプター1:「終結への鼓動」

 その世界は動乱、戦乱の最中にあった。


 ――惑星ジア。

 物理・科学と魔法幻想が同時に発展し、交錯する惑星世界。



 東州合同――Joint East(以降JE)。


 この惑星ジアの40パーセントを占める最大の海洋、中央海洋とその周辺を拠点とする。まだ歴史の新しい国家合同体。

 前身である機構、中央海洋合同体――Center Ocean Joint Organization(COJO)を母体として拡大発足し。

昨今に入り、拠点たる中央海洋を越えての著しい拡大進出を見せている。


 ―物理的超常―

 そう呼ばれる在り方を。

 科学を内包し、しかしその範疇を越え。魔法や妖力に非ずの〝新たな力〟を骨幹主義とする、新しい勢力の巨大拠点だ。



 エルフォレンシア魔法同盟――EMA。


 この惑星最大の巨大大陸、フーリグリード大陸の西端に栄える歴史古き国家同盟。

 魔法こそを世界を支配する唯一の力と唱える「魔法主義」を掲げる、魔法勢力のその本拠地。



 中央海洋での暦で、〝洋章暦947年〟と呼ばれるこの年。

 この両陣営間で起こっていた苛烈な戦争が。その一つの終焉を迎えようとしていた――




 エルフォレンシア諸国、EMAが。中央海洋の地にかつて持っていた旧植民地の再取得を企んだことを発端としたこの大戦。

 しかし。その植民地より独立した国家を複数迎えていた、JEの反抗によりそれは尽く挫かれ。


 JEは苛烈な戦い、防衛戦闘行動の果てに。EMAの遠征軍を跳ね除けて退け、押し返した。

 そして反転、進行攻勢を開始。

 大洋を越え、大陸を横断した果てに。現在ついにJEは、EMAの本拠地たるエルフォレンシアの地の、その中枢へと踏み込み雪崩れ込んだ。


 そのエルフォレンシアの地の中枢、「西欧」と呼ばれる地。EMA――エルフォレンシア魔法同盟の盟主各たる一国、「ナフレリアス王国」と呼ばれる国。

 そこが今回の舞台。


 その国の中枢は、すでに風前の灯であった。




「――ヌぉォッ」


 瘤抗寿こぶこうじゅ 童策どうさく 銀年堂ぎんねんどう


 JEの陸軍戦力に値する〝地上隊〟。

 その第47管区隊、第107機関銃連隊、第1中隊、中隊火力隊に所属する隊員。

 階級は〝初長〟。諸外国の伍長に値する位。

 人種種族は〝物理基準者〟――この世界での純粋なヒト系を示す。


 その彼は、日光に恵まれた程よい気候の中。朝としては少し遅く、昼が少なからず近づき始めた時刻に。

 上空を劈く轟音に。そして無数に響き始めた地面を鳴らす唸り声によって、目を覚ました。


 その大変に〝いかちい〟、インパクトのある顔を一層顰め。鈍く、ドスさえ利いた寝起きの声を零しつつ。

 銀年堂が身を起こしたのは、G-LV軽汎用四輪駆動車と呼ばれる。地上隊の保有運用するソフトスキン車輛のその後席シートの上。

 寝起きの倦怠感を払拭しつつ、シートを緩慢な動きで後にして車輛を降り。

 地面に立って、行動作業服(フィールドジャケット)を纏う身を解し慣らしつつ、上空を見上げれば。

 銀年堂を起こした轟音の正体はすぐに判明した。


 瞬間にも上空低めの高度を飛び抜けたのは――ジェット戦闘機。

 JEの空軍戦力たる〝航空宇宙隊〟にて、W-117の採用名称で運用される。尖ったシルエットが特徴的な超音速戦闘機。

 迎撃機として開発され。現在では次世代の最新鋭機に主役を譲りつつあるが、現在でも中央海洋航空宇宙隊の主力の一角を務める機体。


 そんなW-117の飛行隊が、二機ないし三機で編隊を組み。次から次へと轟音を轟かせて真上を通過、向こうの空へと飛び去って行く。

 それが終われば今度は、二重反転プロペラで推力を生む、ターボブロップ式の大型戦闘爆撃機。Ffq-132と呼ばれるまた航空宇宙隊の保有運用機が、今のW-117を追って続くように飛び抜けて行く。


 その騒がしい様子の上空を少しの間見上げ、それから銀年堂が視線を地上へと広く向ければ。

 地上でもまた騒がしく急かしい、そして物々しい光景が広がっていた。


 近くに通り伸びる道を。

 装甲戦闘車や偵察戦闘車などの戦闘装甲車輛を筆頭に。

 火砲車輛、中・軽量装甲車輛。ソフトスキンの汎用・輸送車から小型車両まで。あらゆる車輛が合流し、列を成し。堂々たる様相で進んでいく。

 重戦車や中戦車、戦車駆逐車などの大型装軌車輛類にあっては。道を気にせず平野草原を堂々と突っ切って行く。

 それらは全て、今現在に銀年堂も所属するJE 地上隊のもの。


 それに続けて側方の低空に視線を移せば。また地上隊の保有運用する、戦闘ヘリコプターに多目的ヘリコプターから、大型ヘリコプターなどなどが。

 悠然としたまでの姿で、仮設ヘリポートよりの離陸から、次に次にと飛び立っていく姿が見える。


 そんな騒々しい光景の数々。


 それらを一度一望した後に、近くの轍を行く車輛の列に視線をなんとなく戻せば。丁度通り抜けた中型汎用車の荷台から、こちらに向けて手を振る姿が見えた。

 姿を見せたそれは、〝ゴブリンリーダー〟系の地上隊隊員。合わせて説明すれば、銀年堂の知り合いの別部隊の隊員。

 腕を掲げるその動きと姿は、挨拶と合わせて「先に行ってるぞ」と伝えるそれだ。


「――」

「――瘤さんッ」


 そんな目まぐるしい周囲の色々な光景に。しかしまだ残る寝起きの倦怠感を抱きつつ、なんとなしに目を向けていた銀年堂。

 そんな銀年堂に、背後より彼を愛称で呼ぶ声が掛けられ聞こえた。


 振り向けば。地上隊の天幕が無数に並び、陣地施設などを併設する地上隊の仮設駐屯地が並ぶ光景が広がり。

 そしてそれを背景に、一人の人物が歩み近寄って来る姿が見えた。


「シャンツェ」


 その人物の名を、零すように返す銀年堂。


 QZ シャンツェ オルゼロク。

 長身の物理基準者系の女隊員、階級は士長上等士。

 白髪の髪と長身が麗しく見えるが。その顔はまるで骸骨に皮を張り付けたかのような、インパクトのある威圧的な顔。

 しかし近寄って来る彼女の顔には、少し疲れた色が見える。


 銀年堂の指揮下の隊員であり、ここまで長くを一緒に戦い抜いてきた間柄。銀年堂の右腕的存在であった。

 もっとも、それを伝えれば彼女自身は。ここまでの気苦労を思い浮かべ、渋い顔をするだろうが。


「〝おい等〟も、出発か?」


 その近づいてきたシャンツェに、次に銀年堂が発し尋ねたのはそんな言葉。


「えぇ、指示が降りて来ました。ウチ、107機連(第107機関銃連隊)も順次出発です」


 それに、シャンツェはまた少しの疲れを見せる顔で、肯定の答えを返した。



 これより――いや、すでに始まっているは。

 主たる敵国の一つナフレリアス王国の中枢、王都を目指しての進行進撃。今に仮設駐屯地を騒がせている物々しい各所各隊の動きは、すべてそれを目指しての大移動だ。

 そしてそれに臨むは、銀年堂やシャンツェの隊も同じであった。



「よかッ。皆で国取りじゃ」


 その伝え知らせを受け。銀年堂は指示と、合わせてそんな鼓舞のものである言葉を、しかし反して静かに淡々と紡ぐ。


「えぇ」


 それにシャンツェが返すは、渋い顔での同じく淡々とした声。


 海洋を越え、大陸を越えてここまで戦い抜き。主の一角たる敵の中枢が間もなく陥落し、この大きな戦いに一つの決着が着こうとしている。

 しかし、そのためにここまで数々の同胞の。時には咎無き命までもが犠牲となった。


 今に見せたそれは、それを抱え考え。近づく決着の時をしかし手放しには喜べず、複雑な心境を表すものであった。


「――行くぞ、準備じゃ。ウチの隊のモン等にも伝えい」

「すでに伝えてあります。各々準備を整えて、再編するだけです」

「よか」


 しかし、いつまでの考え抱えている暇は無いと。銀年堂はまた言葉を上げて、進行進撃の準備を促し。

 それに関わる所を訪ね。それにはシャンツェから抜かりない旨が返される。


「そういや、臨時幹部への昇任を断ったんですって?」

「幹部なんぞ、ややこしくてたまらん――」


 後は自分等の支度だけと、背後のG-LVに周り。二人は会話を交わしつつ、一つの決戦に向かうための準備を進めた――

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