プロローグⅡ

「長くなったな、敵とはいえお前のことは英雄として語り継ぐ――――だからここで眠れ」

「何勝手に決めてんだ、負けるのはお前たちだ」


――戦闘中、自分が死に近付いていくほど感じた。

剣士としての頂に近づいていっていることを。


「――眠れ哀れな剣士よ聖なる主よどうか彼に救済と安寧を」

ルキサスの固有スキルである自身の剣を魔剣化させたと同時に視界から消えた。


「‥‥」

一振りだ。

もはや斬り合うような体力は残っていない、一振りで決着をつけなければ負ける。


精神を限界まで研ぎ澄ませて、聖魔の気配を探る。

帝国最高の剣士の1人であるルキサスは自身の気配と魔力を消すことに立ってはずば抜けている。

それを今越える。

俺は固有能力を持てない平民だが、それでも十二騎士最高位の剣帝になれた。


全神経を研ぎ澄ませて、剣士としての最高の一太刀に届くレベルの洗練された構えから、光速かと思うほどの一振りをした。


確かに手応えは感じたーーが、次の瞬間には糸が切れるかのように体が倒れた後に真新しい気配を感じた。


「命をかけた一戦に邪魔をしてすまない、剣帝」

いまだに立てずにいる体を無理矢理起こしながら、現れた剣士を見た。


「アルカディアっ‥‥」

神聖アルカディア。

透き通るような白髪と白目に共鳴するような無色透明の剣を持っている女騎士。

神聖帝国の神聖を二つ名として持っている通り、帝国最強の剣士である。


その理由は貴族のみが持てるスキルにある。

神聖のスキルは「相手の神経のみを切断する能力」

これが名前の通りバカみたいに強い。

なにせ敵を行動不能に出来るのだから。


「少女と死にかけの剣士のために4人もきたのかよ」

剣を杖にして立つと、アルカディアは意外そうな顔をした。


「もうこれ以上抵抗するな‥‥剣帝、お前は帝国の代表として降伏文書に署名してもらう必要がある」

「俺に抵抗させたくないのなら、皇女様を代表にすることだな」


幸い斬られた神経は聞き手と右足。

まだ、まだ戦える。


せめて聖魔と神聖だけでもーー


「ーー抵抗するのなら今度は真剣で行きますよ‥いくら私の剣技でも今のあなたなら防ぎきれないでしょう?」

「どうだか‥‥実際にやってみないと」

「も、もうやめてください!シウス‥」

剣を構え直し、踏み込もうとすると腕を掴まれながら皇女様に止められた。


「皇女様‥‥」

「もう‥もういいんです、あなただけでもーー生き延びてください」

見れば‥いや、とっくに皇女様の目はーー諦めていた。絶望していた。

涙目になりながら必死にとめてくる。


そうか、もはや皇位継承は絶望的。

そもそも神聖帝国さえ地図には残っていない状況。


皇女様からしたら生きる意味などーー生きる理由などないのだ。


「ーーではせめて俺も一緒に神の元へ行きます。断罪されるのなら一緒に罪を負います」

先ほど、俺だけでもいいから逃げろと言ったためこんなことをいうと、怒られると思いながら進言した。


だけど、それを聞いた皇女様は意外そうで嬉しそうで


「ーー私は最低ですね‥今の言葉を聞いて安心しました」


「「「!!!」」」

ーー剣帝と皇女が自害する。


そう思った三人はすぐさまシウスの確保のために距離を近づけて無力化しようとした。


「っ!シウス!!」

「ステラ!!」


俺は最終手段として蒔いた種を実行しようと思い、その名を叫び。


ルキサスの剣が振り下ろされる前に甲高い音が鳴る。


「っ〜魔術士女!てめぇっ」

「‘’私が望むのは氷結の世界‘’ーー{構築}」


その瞬間に氷があたり一面に広がりドーム状に皇女様と俺を囲った。


「ーー聖騎士が第五使徒ステラ・マーガレット。祖国からの命により元剣帝と元皇女の処刑を執行する」

「っ?!ふざけんな!剣帝は殺さないって言っただろ!!おい、アルカディア、てめぇも」

「‥‥無理ですね、氷が硬すぎます」


ステラ・マーガレット。

元十二騎士が魔帝を継承し、スキルは魔法帝。

古今東西全ての魔法を無条件で使える――そんな彼女に頼んだのは負けたと判断した際に遺体も残らず消してもらうこと。


皇女様が死後に吊るされることはあってはならない。


それを理解したのか皇女様の手は少し震えていて。


「――申し訳ありません、俺がもっと強ければ‥‥」

皇女様は少し呆れたような顔をして俺の腕に顔をうずくめた。


「ありがとうございますシウス‥‥最後まで私のそばにいてくれてーーあなたを騎士にしてよかったです」

「俺も皇女様の騎士になれて光栄です」

「ーーシウス、もし‥私が」

「?」


「いえ、なんでもありません」


何かを言おうとした皇女様だったが、顔を伏せてしまった。


「‥‥」

覚悟はもう決めた。


「ステラ、やってくれ」

「――‘’私が望むのは零度の世界‘’ーー{構築}」


詠唱の終わりと共に一瞬だけ氷点下の寒さを感じ、意識は途切れたーー

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