皇女殿下に祝福を!〜帝国最後の騎士は今世でも皇女様の騎士です〜

いつきくん

プロローグⅠ

皇女

――――その起源は帝国の誕生とともにある。

伝記ではまだ大陸が戦乱の時代、神から命を受けて初代皇女はこの地に降りてきた。


その命とは地上の平定。

それを完遂するため、初代皇女殿下は自身の部下であり騎士である12人の使徒とともに戦いに勝利し続け、一つの国家を建国した。

それが超大国、神聖帝国。

それから皇女は皇帝と名乗り数十年統治した後、自身の娘に帝位を譲った。

それ以降、帝国では女帝のみが君臨くんりんし続けている。


――――これからもそうなるはずだった


「ぐふッ」

身体中に刺さった魔剣を抜くとともに、血をいた。


「シウス!」

「‥‥大丈夫です皇女様、まだ――まだ戦えます」

予想以上に怪我をっていることを心配している皇女様に、俺は笑みを浮かべながら答えた。


「まだ戦えるって‥そんなわけないでしょう?!あなたはっ」

「‥‥」


全くの予想外だった。

最初はただ単に隣国の科学国家ゼノンが攻めてきただけだと思った。

それがいつしか、聖教国の支持を得た。

聖教とは皇女教を越える最も権威けんいのある宗教である。

そのため科学国家だけでなく西方連合や諸国連合などが次々、敵になって――――さらには‥


「っっ!!」

死の気配を一瞬で感じてすぐに俺は皇女様をかかえてける。


「あちゃー、避けられちゃったか」

先ほどまでは人がいなかった場所がえぐれて、そこに2人の剣士が現れた。


「まぁ、いくら瀕死とはいえさすが剣帝ですね」

「はっ、そりゃそうだろ」

「お前ら‥」

俺は体が悲鳴を上げるのを抑えてにらみつけた。

そう、こいつらだ‥‥皇女様の十二騎士なのに裏切った騎士たちの2人、聖魔スタン聖光ハッドである。


「ふーん、すごい殺気だけどやっぱり弱ってるねぇ――――こんなんじゃ聖女ヴィアフィリアも天国に行けないんじゃない?」

聖女ヴィアフィリア。

十二騎士が1人――――であり俺以外に裏切らなかった唯一の騎士だ。

だが、彼女はもうこの世にいない。


「まぁ聖教じゃない時点で地獄行きだけどな――地獄で一緒に罪人でも救えよ剣帝」

聖魔ルキサスが馬鹿にするように言葉を吐いた。


「黙りなさい!たとえ十二騎士であろうと侮辱ぶじょくするのは許されません!」

皇女様が立ち上がり聖魔に向かって言った。


「はっ?もう皇帝でもねぇ女が誰に向かって口を聞いてんだ?それに俺はもう十二騎士なんかじゃねぇ‥‥聖騎士が最高位第一使徒だぞ?」

ルキサスが自身の羽織はおっている、聖教国と科学国家の紋章もんしょうが入っているマントを指差した。


「お前――科学国家に忠誠をったのか」

「あ?そうだが‥もしかして今からでもこっちに着く気になったか?いいぜ、剣帝サマなら第二位も」

「騎士の誓いもまもれなかった騎士もどきが、誰かを守れるのか?」


俺はルキサスが話終わる前に、そうあおると場が一気に凍ったのを感じた。


「へぇ‥‥まぁお前は主君を選択し間違えたのと、守れずに死ぬんだけどな!!」

言い終わった瞬間に目の前に現れ、血が昇っているからか少し大振りで剣を振りかざしてきた。


「っっ!」

すぐに受け止め、そのまま剣をすべらせて逆方向に相手を誘導ゆうどうしようとしたが。ルキサスは耐え一振りで数多の斬撃ざんげきを与えてきた。


「はは、やっぱりよぇーよ――怪我のせいか?それとも元々か?やっぱりその女は見る目がねぇな、俺を剣帝にしないなんて」

「お前らみたいな古臭い血統主義が皇女様をけなすんじゃねぇ」

スキルーーではなくきたえ上げた移動速度で瞬時に背後に周り、首元を狙ったが振り返らずに止められてしまった。


「今ので十二騎士の4人がやられたと思うと笑っちまうな」

「もうすぐ5人になるぜ?‥お前も恋人のもとに行けていいんじゃないのか?」

「っ〜、ならお前は可愛い弟子のもといけるな!」

互いに全力で相手より速く剣を振るが、与えられるのは浅い傷だけ。

深く振りかざすとカウンターで自分が死ぬのを本能で感じているからだ。


とはいえ満身創痍の剣士と万全の剣士。

このままでは俺が負けてしまう――皇女様だけ逃しても聖光や元十二騎士に捕まってしまう。


こんな時に聖女がいれば――だけどあいつはもういない。

聖人に殺され――俺の元で死に、俺は聖人ラックを倒した。


「今、聖女のこと考えてたなお前」

「――それがどうした?」

「はっ、元はと言えばお前が皇女に味方しなければ‥皇女を説得していたらこんなことにはならなかったんだぞ?帝国騎士が壊滅することも、十二騎士の半数が死ぬことも」


「ないな、だがその後は?帝国を他国に売るような奴が幾千万もの民を守れるのか?」

「できねぇだろうな、だがな帝国民を思っている十二騎士なんてお前だけだぞ?全員、自分の出世のことしか考えてねぇよ」

そうなのかもしれない。


実際、十二騎士になってから他騎士と度々みんなとの齟齬を感じていた。

だけど、皇女様はそんな十二騎士を理解して民を救うように動いた。

だから俺は最後まで皇女様の味方でいる。

騎士でいる。彼女の味方でいる。





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