第26話 第六区の不文律

時速100キロ以上でバイクを飛ばしたミズナは一時間もかけずに第六区へと辿り着いた。


(あの光…コミュニティはあそこね。それにしても、こっちの方が霧が少し濃いわね。)


バイクを飛ばし、コミュニティに近づくと、唐突に「止まれ!!」と号令がくる。


ミズナはバイクを止めて、ヘルメットを外す。気づくと銃を持った連中に囲まれていた。


(検問…?)


「緊急事態よ!このコミュニティのリーダーと話がしたい!」


「リーダーへの言伝なら、俺が聞く。一体なんだ。」


「あなた達も、コズモ船長の先刻のアナウンスを聞いていたでしょう?あの怪物が、こちらの方向へと迫ってきているわ。至急、防衛ラインを立てないと、大変なことになるわ。」


「……少し待て。」


そういうと、その銃を構えていた男はどこかへ消えてしまった。

まだ周囲には、多くのものが銃を構えている。


(おそらくこの感じだと、主要な場所のすべてで検問が行われているのね?この場所だけでもこの人数でこの装備…連携もあり、武器も充実していそう。ビンゴね、強い武装集団、っていうのはこの人たちのことだわ。)


先ほどの男が戻ってくる。


「お会いになるそうだ。まずボディチェックしてからだ。武器があれば、没収させてもらうぞ。」


「もともと何も持っていないわ。」


男は構わず念入りにミズナのボディチェックを行う。

いやらしい触り方は一切なく、あくまでも機械的だ。


「…この男は?」


「私たちの所属するコミュニティのリーダーだわ。」


「そうか…」


ノアも念入りにボディチェックされる。


(徹底しているわね。こういう無骨な連中って、大抵いやらしい触り方を平気でしてくるけど…)



⭐︎⭐︎⭐︎



ミズナとノアが来る数日前、この第六区のコミュニティにて一悶着あった。


元々はならず者が集まりやすい第七区が無くなって、ほぼ全員が第六区へ移住してきた。


ギャングもいれば、詐欺師もいる。

完全管理されていたオムニ・ジェネシスにおいて唯一司法の目を誤魔化せるエリア…それが第七区であった。


タックスヘイブン、という言葉があるが、それを文字ってクライムヘイブンと呼ばれてさえいた場所から来た連中が集まったグループが、行儀良いわけがない。


その夜は、特に霧の濃い日だった…


「…ぐえへっへ、お嬢ちゃん、どこ行くの〜?」


どこからか酒でも手に入れていた酔っ払いが、子供を追い回している。


ハァ、ハァ、と息を切らしながら少女は逃げ惑う。


「ダメだよ〜、オイタしちゃあ。お兄さんが作法を教えてあげないとね〜。くっふっふ〜。」


男は少女に噛まれた手の甲にキスをする。


少女は鼻から鼻血を垂らしながら、左目は殴られたせいで腫れてしまいよく見えていなかった。


走った先で、唐突に「止まれ!」と女性の声がして止まる。


「子供か…」


マニーシャは子供の表情を一瞥すると、さも興味なさそうに元いた場所に腰掛ける。


「ヒョォォォ、捕まえたあ。」


「ぅぅ〜、ぅぅ〜」


少女が唸りながら、暴れる。すると、男がマニーシャの存在に気づく。


「あ!!ふ、副リーダー!こ、こんばんは〜っす。って、あ、コラ!」


男が挨拶をして気を取られている隙に、少女は男の手から逃れて、マニーシャの場所へ駆け寄る。


マニーシャはさも面倒くさそうに舌打ちをする。


「あ、すみません。その子、私の連れで…ちょっとおいたしましてね。軽い罰を、へっへっへ。すぐ、連れ戻しますんで…」


少女がガタガタ震えている。男が近づいてくる。

マニーシャには、何がどうなっているのか、完璧に分かっていた。


「お前…」


「は、はい?」


「息が臭いぞ。」


「っへ?」


刹那、マニーシャは抜く手も霞むような超高速で抜刀すると、男の首を落とした。


少女は何が起きているのか分からず、呆けてしまう。

だが、次の瞬間、首から血が噴き出て、頭が目の前に落ちてきたので、びっくりして腰を抜かしてしまう。


マニーシャは刀の血を拭うと、また元の場所へと座り始めた。


少女は思わず漏らしてしまったが、何か意を決したのか、マニーシャのところへ行き、ふわりとしたスカートの裾を引っ張る。


暗器を隠したスカートを触られて、マニーシャは反射的に少女にビンタを喰らわせる。


「触るんじゃないよ!助かっただけでも儲かりもんだと思いな!」


少女は、霧の方を指さしてジェスチャーする。


「…何があるってんだい。もう今日は余計なトラブルはごめんだよ。どっかいきな。」


マニーシャは少女を無視しようとする。

少女は頑なにマニーシャに近づき、また裾に触れようとする。


「ッチ!頭に来る子だね!お前も首を落とされたいのかい!」


少女の目は、真っ直ぐにマニーシャを見つめる。


「クソ、鬱陶しい。仕方がないね。今回だけだからね!」


マニーシャは少女についていく。


声が聞こえてくる。


「おい、そっちを押さえつけろ!あ、この神父、まだ諦めてねえのか。」


ドカ、ボコ、ボス、と言った音が聞こえてくる。


「おい、この神父、もう死んじまうんじゃねえのか。」


「知るかよ!いちいち邪魔しやがって。バチなんか当たるかよ!こいつの宗教、新しい教皇だって死んだって言うじゃねえか。」


「…つ、罪を…かさ、ねるのは、や、止めにしなさい。」


「うるせえ!」


男は神父を足蹴にする。


「それにしてもこの女もよく暴れるなあ。活きがいいのは嫌いじゃないぜ。」


マニーシャが近づく。よく見ると、神父と呼ばれているのは、以前やってきた男だった。


「あぁぁ!誰だおめえ、って!ふ、副リーダー!」


興奮した男たちが、一瞬止まる。


「ちょ、ちょっと楽しみたかった、だけでさあ。流石に、こう何ヶ月もお楽しみがないと…わかりますよねえ、副リーダー。」


「………」


マニーシャは黙っている。


「…ところで、副リーダーは、今、お一人ですか。」


「……だったら、どうだって言うんだい?」


男たちは微かに目配せをする。


女一人、こちらは男五人。


いつもはゴツイやつとヤバそうなやつがへばりついているが、所詮は女…

犯して殺して口封じしちまえば、ここでの出来事はリーダーにもバレない…


「いや、ちょいとね…お一人ですか、そうですか…」


男は周囲を確認しているようだった。


襲われていた女も、どうやら前にこの神父と一緒に子供の食料をねだっていた女だ。

マニーシャと目が合うと、ローデスは逃げろという風に顎を突き出す。


「いや、実はね、あんたとも一発、やってみたかったんだよ!」


そういうや否や、男はマニーシャの元へ駆け出す。


その瞬間、マニーシャが抜刀し、男の首が刎ねられる。


男たちは、一瞬の出来事で呆気に取られる。マニーシャがゆっくりと近づいてくる。

何が起きているのか把握した男たちは、小便を漏らしながら一気に戦意が失われてしまう。


所詮、ギャングとは言え、人を殺したこともなければ小狡いことしかしてこなかった連中であり、第一線で殺し合いをしてきたマニーシャの敵ではない。


次々に男たちが斬られていく。


「ひ、ひぃぃぃ!ま、待って…」


最後にやっとのことで言葉を振り絞った男は頭から斜めに顔を切られ、頭半分がボトリと落ちて終わった。


「あ、あ、な、なんという、恐ろしいことを…」


ペンタクロンは起き上がりながら、眼前の光景に頭を振った。


「な、何も、殺すことは…懺悔をさせる機会を…」


マニーシャは心底うんざりした顔をする。


「今ついさっき殺されかけてた坊主が、一体何を言ってるんだい?そんなに死にたければ、私が手伝ってやろうか?」


「…い、祈りを、捧げてあげましょう。」


マニーシャの言葉が届いていないのか、ペンタクロンは死体に向かって祈りを捧げ始める。ローデスも、それに続いた。


「呆れたわ。気持ち悪いよ、あんたら。」


マニーシャが振り向くと、少し遠くから少女が彼女のことをじっと見ていた。


「気持ち悪い目で見るんじゃないよ。とっとと失せな。もういいだろ。」


そして次の日、五人、正確に言うと六人の死体を見たウールがマニーシャの仕業だと気づき、問い詰めることで真相が発覚した。


「いいか、俺たちのいるテリトリーで好き勝手なことをするやつは、こうなるということだ。」


コミュニティ全員がウールたちを心底恐れるきっかけとなった。


滅多なことをしてはいけないという、ある意味で固い規律が生まれた瞬間でもあった。





第27話「援軍要請」へと続く

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