第25話 悪魔からの逃亡

異変をいち早く感じ取ったのは、第四区のコミュニティに在住するグレースだった。


あの「嫌な感じ」の正体が近づいてくる…


ブライアン隊が襲われる前にすでにグレースは何か「異常」と思われる生物が来ていることを明かしていた。


「んん?ゾアンじゃなくて?」


ミズナはついにゾアンと交流するチャンスが到来か、と胸を踊らせた。


「いいえ、絶対に違うと思います。ゾアンたちの波長は、もっとこう、人間的な、というか、そういう感情が入ってくるのですが、これはむしろ…ドロドロとした欲の塊というか、とても気持ち悪い感じがして…それと、ゾアン的な独特の感覚のようなものも感じません。上手く言えないんですけど…」


「ふむむ…で、コミュケーションは取れそうな感じなの?」


「それはどうか…敵意というか、殺意むき出しで、まさに破壊を求めてきた、みたいな感じで…」


「う〜ん、抽象的だなあ…とにかく、要注意ってわけね。」


ミズナとグレースのやり取りを聞いていたノアは、念のため護衛隊長のミカヅチらに防衛を固めておくように命じておいた。


その数刻後、第四区の、グレースたちとは反対側にあるコミュニティが、ディアボロに襲われる。


コミュニティを捨て、命からがらノアのコミュニティに逃げてきた者は、半狂乱の状態で錯乱していた。


「…ハァ、ハァ、あ、悪魔だ!逃げろ、みんな逃げろ、殺されるぞ!!」


「お、落ち着け、何があったんだ!?」


皆が不安そうに話を聞く中、コズモ船長のアナウンスが入り、緊迫した状況は決定的なものとなった。


一通りのアナウンスが終わると、コミュニティはざわついた。


「グレース、『嫌な感じ』の正体はこれか?」


ノアが確認する。


「間違いないわ。どうしよう…」


「これって、めちゃヤバくないっすか。手榴弾も効かないんだったら、打つ手ないっすよ。」


スタンプも珍しく緊迫した表情をしている。

しかし、皆の表情はそれ以上に思えた。


「あ!!」


グレースが大きな声を出す。


「ここが見つかったわ!逃げなきゃダメ!!」


その場にいた者たちの顔が引き攣る。


「しかし、逃げてどうする!?バラバラになって襲われ、追い詰められたら、それこそ終わりだぞ。」


マグワイアが銃器を用意しながら叫ぶ。


「…第六区に、とても強い武装集団があると聞いている。ここと連携してこのディアボロとやらと戦うのが最も可能性が高いかもしれん…」


「第六区!?遠すぎないですか?」


グラシリアが驚きの声を上げる。100kmはある。


「私がバイクで援軍を頼みに行くわ。あとどのぐらいの猶予があるのかしら?」


ミズナの判断は早い。


「……まだ、あちらのコミュニティが襲われている最中だわ。もうバレているのにこの余裕…恐らく、船の中にいる限り、逃げ場はないとでも思っていそうな感じです。」


「ある意味正解ね。ブライアン隊が襲われた地点から今襲われている地点までと考えると…あと3〜4時間ってところかしらね。ほら、ノアさんも一緒に行きますよ!」


「私が?避難させるなら、シャリアとグレースを乗せていってくれないか。」


「違うわよ、リーダーであるあなたの要請ならば、援軍も通りやすいかもしれないでしょ!みんなは自転車で逃げるといいわ。足りなければ、二人乗りで!」


さっさと決定していく。


「先にみんなに警告をしなくてはいけない。ウィンストン、鐘を鳴らせ!」


「はい、仰せの通りに!」


ウィンストンは至急に鐘を鳴らした。拡声器で近場の人間に避難を呼びかけ、手分けして全員第六区を目指して逃亡せよ、というメッセージを拡散させた。


その間に、ミズナは後ろにノアを乗せて第六区へと一足先にバイクを走らせる。


コミュニティは一瞬にして騒ぎ出す。ある者は怪我人を自分の体に括り付け自転車に乗り始める。ある者は手ぶらで走り出す。またある者は逃げずに良い隠れ場所がないかとそこら辺をウロウロし始める。


「グレース様!」


ミカヅチが数人の護衛を引き連れて自転車を持ってくる。


「人数分がちょうどありました。私の後ろにお乗りください。私が疲れてしまったら、ヴァレリーのやつが変わります。」


そのすぐ後に、執事のウィンストンが女中頭のドロシーをを引き連れてやってくる。


「すぐに出発だ。グループの者たちはみんな逃げているか!?」


「全員とはいきませんが、9割がたはすでに出発しています。尚、つい先ほど、ディアボロから逃げてきたという者たちが新たに合流した模様です。」


ミカヅチは武器と荷物を護衛たちに私、グレースを乗せて自転車で走り始めた。


通りへ出るとすぐに、十数人ほどの別グループの者たちが通りに座って息を切らしていた。

みな憔悴しきったような状態である。


ミカヅチたちは、驚いて止まる。


「走ってきたのか?!大丈夫か?まだ走れるか!?」


ミカヅチが声をかけると、憔悴しきっていたのもあるが、顔面蒼白で血の気のないどことなく不気味な顔をしていた。


(みんな、ひどく怯えている。)


グレースは感じ取った。


「ミカヅチ、この人たち用の自転車は、もうないの?」


ミカヅチは首を振る。


「私のを使って!」


マグワイアの恋人のマリーが自転車を降りる。


「そんな、マリーさん!」


グレースが悲鳴に似た声をあげる。


「大丈夫、こう見えてもマラソンやってたんだから!」


「俺もだ、心配するな。鍛えてはある。」


マグワイアも自転車を降りる。


「…私も降ります!ミカヅチ、この疲れた人たちを乗せてあげて!」


グレースも自転車を降りる。


「「な、お嬢様!それはダメです!」」


ミカヅチと執事のウィンストンが眉間にしわを寄せる。


「私はいいの!元気なんだから!」


母親のシャリアも自転車を降りた。


「弱き者に寄り添う。ブラストライト家の者ならば、当然のことだ…ノアならばきっと、そういうでしょうね。私たちは、そこらで転がっている自転車を拾っていくわ。この人たちには、そういう余裕はないでしょう。」


「奥様…それならば、護衛隊、全員が残りますので、この人たちに、自転車を譲りましょう。」


「ミカヅチ…」


シャリアは、どこか安堵したような表情を浮かべる。


「ただし!我々が降りる以上、奥様とグレース様は自転車に乗っていってください!これが絶対条件です。ここにいる全員に自転車を譲渡しても、二人乗りなら一台分余ります!そうでなければ、我々は自転車を譲渡しません!」


ミカヅチは強い口調で譲らなかった。


「ハァ、ハァ、お、俺と、この隣のバンスのやつは、元サイクリストだ。お二人を乗せていくぜ。」


「頼む、恩に切る。」


「…ハァ、ハァ、恩に切るのはうちらの方だ。荷物は全部よこしな。みんなで分けて持っていってやるぜ。」


「ああ、頼む。」


グレースとシャリアが乗った自転車が走り去るのをと同時に、ミカヅチたちは走り始めた。





第26話「第六区の不文律」へと続く。



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