第19話 お、俺は認めないぞ!?

「…んん?パパ、だ、大丈夫?」


グレースが心配そうに見つめる。

親に紹介する初めてのボーイフレンドだから、多少は驚かれると思ったが、まさかここまで動揺されるとは思わなかった。


「ッグ…ま、まあ、このノア・ブラストライト、並大抵のことでは…」


「お、お父さん、大丈夫ですか?気分が悪いならば僕が…」


「お父さん、ではない!」


「ヒッ!」


サンティティは軽く悲鳴を上げる。

グレースはムッとする。


「パパ、サンティティはすごい良い人だよ。そんなに意地悪しないで!」


グホッ!

ダメージはなかなか大きい。


「ン、ンンン……」


みんながハラハラしてノアを見ている。

そして、しばしの沈黙が場を包む。


「え、ええっと、さ、三人とも、グレースがここまで来るのに、よ、よくぞ手を貸していただきました。か、感謝します。だ、ダニーさん、マリアンヌさん…」


ここで少し言葉に詰まらせたノアに、「パパ!」とグレースが睨みを効かせ始める。

シャリアも、「あなた!」とノアに一言かける。


「そ、それと、さ、さ、サンティティ、さん…も。」


ここで、ダニーが笑いを堪えきれなくなってきたらしい。

つい、ぷっと吹いてしまった。


「あ、ああ、いや、すまない。こんな箱入り娘の親だったら、当然心配だわな。まあ、一つ俺が保証してやれるのは、このサンティティってやつは、グレースがどんな目にあっていたとしても、彼女の側で、彼女の味方をしていたやつだ。こんな良い男は滅多にいないよ。折り紙つきだぜ、ノア・ブラストライトさん。」


ダニーの評価にサンティティは感動し、グレースも「ダニーさん…」と感謝した。


「私からも、一ついいデスか?」


マリアンヌも口を挟む。


「サンティティさんは……」


「も、もういい。分かりました。こ、これだけ皆さんに信頼されているんだ。確かに好青年ではあるのでしょうが…」


マリアンヌの言葉を途中で遮り、ノアはここでサンティティの事を舐め回すように見つめる。


「…しかしながら、いささか、私の娘を守る男にしては、軟弱に見えますな…」


「もう、パパったら!!」


「うう〜ん、確かに、頭脳派だけど、戦うとかはからっきしダメだよな。」


ダニーは同意する。


「そうデスね…サンティティさん、すぐにテンパっちゃて、変なことばかり言っていマスし、頼りになるかと言われタラ…ちょっと微妙かもデス。」


(ちょ、ちょっと〜〜、みんな、酷くないですか!?)


マリアンヌのダメ出しに、サンティティの首がガクンっと垂れる。



⭐︎⭐︎⭐︎



その後、マリアンヌは恋人であるダーマッサーを探しにさらに船の後尾まで進むと言うので、お別れし、ダニーとサンティティは、ブラストライト家の作ったコミュニティに残る事になった。


このコミュニティで何もしないわけにもいかないので、ダニーは諜報部として、主に情報の伝達係。


サンティティは怪我をしたり体調を崩した人のケアにあたっていた。


聞けば、グレースほどではないがオムニ・ジェネシス内で生まれてから40年も経っていないらしい。この船の中では相当な若さだ。


あの若さで医者の免許を持っていて、しかも脳科学という難関な分野で活躍できるのだから、とても優秀な頭脳を持っているのであろう…しかし、あの軟弱そうな雰囲気、娘に相応しいとは思えん。


しかも彼は第七区出身で、出生も定かでなく、施設育ちで親の顔も知らないというではないか。そんな奴が礼儀作法などわかるものか!第一、伝統を重んじるブラストライト家の血筋への尊敬がない。


認めん、認めんぞ!


ノアは遠目に何度かサンティティの姿を見ながら己の意思を固める。


「パパ、お昼ご飯、サンティティと一緒でもいいでしょう?」


グレースがお昼時に話しかけて来る。


「ん、んん。い、いや、お、親子水入らずっていうのが…」


ノアが言いかけたところで、シャリアが出てきてそれを遮る。


「それは良い考えね!私も、彼のことをよく知りたいわ!是非とも誘ってちょうだい!」


「オッケー!伝えてくるね!」


ノアは口を開けたまま呆けてしまう。


しばらくしてグレースが戻ってくる。


「今、忙しいから、無理だって。」


ノアは顔を顰める。


「誘いを断ったのか?」


そういうと、ノアは無言でサッサと家から出ていく。


(何様のつもりだ!?緊張で俺とは飯が食えないっていうのか?軟弱者め!)


皮肉の一つでも言ってやろうと、ノアはサンティティのいる場所へ出向く。

そこで、ノアは信じられない光景を目にする。


「ガァァァァ!」


患者が、サンティティの腕を引っ掻いている。


「イッ!すみません、もっと強く押さえておいていただいてもよろしいですか!?」


サンティティの腕からは引っ掻き傷で血が流れている。

助手と見られる人物たちが、患者の腕を抑える。


「舌を噛ませないように、これを口に突っ込ませてください!」


ポケットからハンカチを取り出し、助手に手渡す。


サンティティが更にメスを入れると、血が噴き出てサンティティの顔にバッ振りかかる。まるで何事もなかったかのように、サンティティはメスを入れ続け、縫合を続ける。患者の足の拘束が外れ、今度はサンティティの顔面に膝が入る。


一度倒れ込んだが、すぐに起き上がり、「もっと強く抑えて!」と言い放ち、手術を再開する。助手たちを含め、皆が鬼の形相で取り掛かっていた。


周りで見つめる観衆にノアも混じり始めた。


「こ、これは…何が起こったのかね?」


質問を受けた男がそっとノアの耳に顔を近づける。

邪魔をしないように、との配慮であろう。


「ミジーに襲われた人です。身体を複数箇所刺され、危険な状態のようです。先ほどドクターが駆けつけてくれて、手術してくれています。」


ノアは手術中の凄惨さに圧倒されてしまっている。


「麻酔なしなので地獄のような光景ですが、あの助手が変な機械を持ってるでしょ。あれで電気を流して麻酔の代わりに使っているそうです。そうでないとショック死する可能性もあるとかで。メスに電気が流れて少し痺れるらしいですけど、ドクターの腕が良くて、もう何人もこの状態での手術で救っていますよ。本当にすごい医者です。僕らは運が良いです。でも、そろそろ休ませないと、もはや限界じゃないかと…」


ノアは生唾を飲んだ。


それから一時間ほど手術が続き、ようやく終わったようであった。


「ハァ、ハァ、他にはぁ!?」


「この人で緊急で手術が必要な人は最後です。」


「そうか…しんど〜。」


サンティティは大きくため息をつき、現場を離れて休憩所へと向かう。

その途中で、グレースの父親の存在に気づく。


「あ!?お父さん、って、ああ、お父さん、じゃなくて…ノア、さん。さ、誘われたのにすみません、こんな血まみれで行くわけにもいかないので…」


「あ、ああ……い、いや、いいんだ。」


「すみません…」


こういって立ち去りそうになるサンティティに、ノアはつい声をかけた。


「も、もし、時間があるなら、服を洗って、出直しなさい。ひ、昼ご飯はまだだから、ゆ、ゆっくり来るといい。」


「え!?ほ、本当ですか?お、お誘い、ありがとうございます!実は、お腹ぺこぺこでして…」


サンティティはそう言うと、そそっと着替えに行ってしまった。


(ひ、昼ごはんぐらい一緒なら、ま、まあ、いいかな…頑張っている人を労うのも、リーダーの仕事……で、でも、だからって、娘との交際、み、み、認めたわけじゃ、ないからな。)


ノアは挙動不審丸出しのまま、家へと戻っていった。





第20話「呼び出しをくらう」へと続く

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