第15話 ゾアン棟梁 ラル
ゾアンたちは一般でいうところの国というよりも、むしろ集落単位で生活をしていた。広大な土地を持つハルモニアではあるが、国境という概念はない。
飛べばすぐに互いの領地など渡ることができるし、それを防ぐ手立てもないので、なんとなく曖昧な区切りがあるだけである。
スペッツらが帰還すると、多くのゾアンが出迎えた。
スペッツの家族は17匹。
マンゴーの家族は34匹。
ミドリコニトの家族は6匹。
別に家族の大きさが甲斐性を決めているわけではない。
基本、ゾアンが家族を持つ時は、集落中を飛び回りながら、恋獣との仲をアピールする。そして、結婚指輪などという生やさしいものではなく、オスとメス共に夫婦の刻印を身体に刻む。
ただし、必ず一匹同士、という重苦しいものでもない。
子供が産まれた時の責任の所在や、帰るべき場所として存在するのが家族である。
互いに信頼関係があり、リスペクトがあり、好きなのであれば、他家族員の合意の元、メスもオスも自由に家族を増やすことができるシステムだ。ただし、不協和音を生むであろうメンバーを入れるわけにはいかないので、家族は慎重に選ばれ、それゆえに大きな家族を持たないオスとメスもいる。
恋獣は、オスとメス合わせて2匹~4匹ぐらいまでが一般的で、それ以上になると大きすぎて家族単位で争いが起きたり分裂が生じたりすることも多くなるから自然とそうなるという。
人間社会で言えば、学校の仲良しグループがそのまま家族になるような感覚であろう。
マンゴーは従来フレンドリーでゾアン同士で絡むのが好きで、信頼も厚く、彼自身の人柄も良いので家族になりたいメスやオスも多いため、かなり大きな世帯となっている。
彼の恋獣は合計8匹で、家族にはオス3匹も入っていて、これらの恋獣も混じり合い、さらには子供は14匹いるので合わせると合計35匹で一家族という大所帯となる。
そして実は、ゾアンはメスの方がでかい。力はほぼ五分である。
なので、オスなのはミドリコニトだけで、マンゴーとスペッツはメスであった。
⭐︎⭐︎⭐︎
凱旋帰還をして間も無く、スペッツ、マンゴー、ミドリコニトは、家族との再会を喜ぶのも束の間、棟梁に呼ばれ、謁見に向かった。
棟梁の前で3匹は手をあげて後ろを向き跪く。
人間で言えば警察に捕まる時のポーズだが、ゾアンでは最上級の「お辞儀」とされている。
【うむ、表をあげい。】
棟梁の声に、3匹が振り向くが、手は上げたままだ。ゾアンは手を挙げているだけで疲れはしないので、これが「正しい姿勢」とされる。
【よくぞ無事で帰ってきてくれた!最前線で戦っていたお前たちと連絡が取れなくなった時は、もうみんな諦めていたぞ…一体何があったのだ?】
【我々は、人間…いや、『悪魔の船』に捉えられておりました。】
棟梁とその取り巻きが明らかに大きく動揺した。
【なんと!!『悪魔の船』とは、あの黒い球体を放ってきた、あの船で間違いないのか!?】
スペッツらは手をぐるぐるさせる。「頷き」の合図だ。
【今まで一切が謎とされてきた異星獣の存在だが…これは歴史的所業ぞ!それで、それで、お前たちは『悪魔の船』に捉えられて、どうなったんじゃ!?】
【…はい、あの、『悪魔の船』に乗っている者たちは、自らを『人間』と名乗っておりました。あの船の名前も、『オムニ・ジェネシス』というらしいです。】
ふむ、ふむ、といった様子で棟梁は聞き入っている。
記録係が引っ切り無しにペンのような棒を動かしている。
【ま、待て!なぜそんなことが分かる!?】
棟梁ほどの能力者相手に嘘は通せない。
なので、棟梁はそれが嘘ではないことをよく分かっていた。
【はい、実は、人間の中に、1人だけ、我々の言語を解することができるものがおりました。我々はそこで人間の言語を学びました。】
【な………】
棟梁は言葉を失っていた。
そんなことは古文書にも書いていなかったので、その内容にも驚いたが、この『言語を理解するもの』の話をする時、3人の中に強い忠誠と信頼の感情が読み取れたのにはさらに驚かされた。
ここで、マンゴーが意を決して語り始める。
【ラル様、マンゴーと申します。お一つ、私の話を聞いていただいてもよろしいでしょうか。】
ミドリコニトは少し嫌そうな顔をしたが、マンゴーはそんなことはお構いなしに喋り続けた。
【あの『悪魔』と呼ばれた人間たちは、本当にそのような存在なのかと、疑問に思うところが多々ありました。】
棟梁ラルの雰囲気が明らかに変わる。警戒を持った雰囲気である。
【…続けなさい。】
【はい、ありがとうございます。人間たちは、『先に攻撃されたからやり返した』という事を何度も語っていました。『オムニ・ジェネシス』のリーダーとも会いましたが、彼もあくまでも友好的に解決したいと望んでいるようでした。ご存知の通り、我々の能力を持ってすれば、人間たちは僕らを欺けません。】
(…洗脳か?いや、そのように弄られた形跡もないな。)
【…奴らの一連の行動は、全てこの惑星を侵略せん、という勢いだが。】
【はい、それがそもそもの間違いなのです。あの船は、元々いた星が消えてしまったので彷徨いながら定住地を求めていたらしいのですが、たまたま都合の良い星が見つかった時に我々がいたようです。あわよくば一緒に住ませてくれ、と提案しようとしていたらしいのです。】
ラルは渋い顔を見せる。
【そんな連中が、なんで我々を襲うんだ?】
【これは相手側の認識のようですが、彼らはムールを『ブラックワーム』と呼んでいて、知性を持たない獣の類だと思っていたようで、我々が中に入っていることも、我々を見つけるまで知らなかったようです。】
【ポピンポを奪って我々の生活を脅かそうともしていたが…】
【はい、そこにも大きな勘違いが…人間はポピンポを『ライフ』と呼んでいました。彼らはポピンポがプリヤーナ神が残した遺物で、兵器にも変えられることを知りませんでした。純粋に、船の中で生き残るのに動力が必要だから欲しがっていただけだったのです。】
ラルは徐々に理解しつつあった。そして、なぜこの3匹が『言語を理解するもの』に対してこれほどの忠誠を持つのか、も。
恐らくだが、この『言語を理解するもの』は、献身的に彼女らの面倒を見て、本当に彼女らと仲良くやろうとしたのであろう。
【…お前の言いたいことはわかった。それで、今その『オムニ・ジェネシス』とやらはどうなっている?プリヤーナ神の怒りに触れて、船が落っこっていったように見えたが。】
これにはスペッツが返事をする。
【はい、プリヤーナ神の偉大な力により、我らが惑星を殲滅せんと攻め入っていたオムニ・ジェネシスは沈んでいきました。よりによって、というか、落ちていった先は
『魔霧の大森林』です。】
【むぅぅ、あの場所か。ならば、仮に生き残ったとしても、もう一巻の終わりであろう。プリヤーナ神の僕もいるとされているあの森ではな。しかしお前たち、よく生き残って帰ってきてくれた。歓迎しようぞ。】
ラルが宴の準備をしよう、というようなジェスチャーをした瞬間、マンゴーが大きな声でそれを遮る。
【棟梁!申し訳ございません!わ、私は、少なくともあの船で出会った者たちを、敵とは思えません…『言語を理解するもの』……いや、『グレース』は、私の友人です。】
ラルは圧を高める。
【言葉を慎め。何を言いたいのか知らないが、『悪魔』に加担するつもりか?】
マンゴーはラルの圧の強さに一気に汗が噴き出す。
【…助けろ、とは言いません。ですが、もし、もしですが、人間が、『グレース』が生きているならば、わ、私が連れてきますので、お話だけでも、聞いてもらえませんでしょうか…】
ラルが青筋を立て始めると、周囲の空気が振動し始めたような感覚が場を支配する。
【…無理に決まっておろう。どれだけの同胞が死んだと思っている。】
ラルの身体はますます圧を帯びて、側近たちまでが戦慄を覚え脚が震え始めた。
第16話「祈りを捧ぐ者たち」へと続く
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