第9話 使命のために 

リトル・チーキーのクルーたちは、自分たちが去った後にその場を訪れた人たちに分かるよう、目立つ場所にメッセージと自分たちの行き先を告げる簡単な地図を書き置いて、さらに導線にサインを残しておいた。


そのお陰か、周辺で起き上がった多くの者たちがコズモ船長率いるグループと合流し、現オムニジェネシス内で最大のコミュニティを構築していた。


AIが独自に設計したオムニ・ジェネシス外層は、機械整備のみでオペレートされるようになってからは、実はこれまで誰も入ったことがない。


宇宙が真空で絶対零度の超低温であることを利用し、多く物が貯蔵されていた。燃料となる液体水素、水、食料、その他の冷却が必要な化学物質はすべて外層で保管されていた。


幸いなことに、EMP爆弾を喰らう前にミズナ(人)の判断で、外層の空気圧を高めていたので、リトル・チーキーのクルーが外層に辿り着いた時は、十分に大気が満ちている状態だった。


コミュニティの人間たちは、ベース作りと、水と武器と食料の確保に勤しんだ。

外層には水と食料の多くが保存状態にあり、当面は問題なさそうであったが、いつかはハルモニア内で調達を始めないといけないであろうと推測された。


そして、いつ何かに襲われたり、不足の事態が起きてもおかしくはないこの状況。

このベースは、人類の行末そのものを左右するものかもしれない。


船の最高権力を担っていたここのクルーたちにはそのような考えもあり、普段の何倍も働き、オムニ・ジェネシス内ですでに最大の地下ベースを構築していたのだった。


しかしながら、ゾアンたちはなぜ未だに襲いかかって来ないのだろうか?


未知の生物が入り込んでいるところを見ると、どこかに穴が空いていて、外部からのアクセスがあるのは明白である。すでにビリー将軍の指揮下、フーコや黒豹がこれらを迎え打って、駆逐している。


最悪、と言うべきか、やはり、と言うべきか、ハルモニアから放たれたEMP爆弾は見事に機能を果たしてくれたようで、精密機械関連はことごとく破壊されてしまっていたため、現在船の機能がほぼ99%停止してしまっている。


そんな中、小型バッテリーを電源とする非常用電灯などの類はいくつか無事で、少々暗いながらも懐中電灯をつける必要はなかったのがせめてもの救いだ。



⭐︎⭐︎⭐︎



一日の終わりには、死体を残しておくわけにもいかず火葬されたバリーの遺灰の前でコズモがただ黙って座っている姿がよく見られた。


(船長……)


ステラもまた、そんなコズモを後ろから眺めることが多くなった。


コズモが一国の大統領となる前、この戦争の英雄は、一国を建て直すという大義名分の元に実に多くの悪人を自らの手で裁いた。

その道中で、多くの友も命を落とした。

コズモは十字架を背負った自らの宿命をこのように捉えた。




己は己ではない。

己は使命のためだけに、その存在意義があるのだ。




バリーが死に、コズモの己の使命に対する覚悟を知るのは、オムニ・ジェネシスではもはやステラのみとなった。


コズモはようやく立ち上がると、後ろから見ていたステラに気がつく。


「時というのは恐ろしいな…使命のためならいつでも死ねる、そして、それは誰が死んでも前を向いて進むってことでもあった。でも、特別な人が死んじまうと、こんなに堪えるものなんだな。いつの間にか、生きていることが当たり前になっちまって…」


コズモの覚悟の道に、幸福はない…


「いつまで…そんな生き方をしていくつもりですか?」


「いつまでって…私は、死ぬまで……」


「使命のためだけに生きていく、と言いたいのですか。それで死んでも、何一つ後悔することがない、っと。」


「船長は、私が死んでも、こうして悲しんでいただけますか?」


「な、何を言うんだ。当たり前じゃないか!だって君は…」


ここまで言うと、コズモは口をつぐんだ。


「私は、貴方の、なんでしょうか…」


ステラはうつむきながら聞き返す。


「君の国は、私が、トドメを刺した。私が滅ぼしたようなものだ…だから、私には…君の面倒を見る責任が、ある。」


「…………そう、ですか。そんな、はるか昔の事を…それも、貴方の使とやら、なんですね。」


−貴方は知っているの?貴方がいなくなったら、私は…もう、生きていても……


喉元まで出かかったが、言えなかった。


「…言っておきますが、というよりも、もう随分前にお伝えしていることだと思いますが、私は戦争中のことであなたを責めるつもりはもう一切ありません。むしろ、世の中を良くしようとしている貴方は素晴らしい人だと思います。」


−なんで、言えないの?もう明日には生きているのかさえ分からないっていうのに。それで……それでいいの…私?


気まずい空気でも流れてしまっているような気がして、お互い少し黙ってしまう。


「も、もう少し、じ、自由に、自分勝手に、生きてみたら、どうですか?貴方は、何も、間違ったことを、したわけじゃない…です。」


段々声が小さくなっていく。

ステラにとっては、今はこれを絞り出すのが精一杯であった。

そして、「失礼します」とだけ言って、闇の中に紛れていく。


外層の電灯が立ち尽くすコズモを照らすと、妙に寂しさが際立つように見えたのだった。




第10話「皆んなで聴いてくださいね」へと続く

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