第12話 《side來夢》來夢の夢

 昼食を終えた來夢らむは、自室で一枚の紙を見ていた。

 服の代金と共に救世主の花威かいが渡してくれた紙。

 

 それはチラシだ。

 質の良い紙なんて滅多に手に入らないというのに、良質な紙に文字が刻まれている。

 

「Assort基地ベースの求人……」

 

 究聖主連盟きゅうせいしゅれんめいのAssort基地で服を作らないか、という旨の勧誘チラシ。

 

 全基地ベースが人手不足という深刻な問題を抱えている中、新人の育成を目的としているAssortは少しでも芽のある人を勧誘しているとは知っていたが――

 

「私でも勧誘されちゃうんだなぁ」

 

 素直な感想。

 來夢らむは確かに、即席で装備を改造する事ができる。

 実力はおそらく、同世代なら高い方。

 

 とはいえ同世代なら・・・・・の話で、きちんと学んだ人達に並べるほどの実力が有るとは思えない。

 

「……」

 

 チラシを見て、ため息。

 確かに、Assortで訓練を積んで救世主を近くからサポートするのは魅力的な提案だ。

 

 きっと、将来は約束された物になる。

 

 この村よりも基地ベースの方が安全なのは確かだし。

 

(でも、おじいちゃんを置いていけない)

 

 余計な人を置いておく余裕は基地ベースにも無いはず。

 窓の外を見て、花威かいの言葉を思い出す。

 

『いつでも良いよ。気が向いたらおいで。僕の紹介って言ったら受け入れてもらえるから』

 

 ピンクの髪の救世主。

 噂を聞いた事が有る。遊び人に見えるが、実力は確かでAssortの中では一、二を争う実力を有していると。

 

 微笑みながら話をする彼の、水色の瞳はとても優しくて綺麗だった。

 確かに、いきなり話しかけてきた時は噂通りの遊び人だなんて思ったりもしたけれど。

 

(Assortに行けば、役に立てるのかな)

 

 それに、新任の指揮官も良い人そうだった。

 青髪の救世主も、楽しそうだった。

 

「大人になったら……行ってみようかな」

 

 口にはそう出すが、本心では、祖父が死んだ後の事として考えている來夢らむが居る。

 胸がツキりと痛んだ。

 

「……頑張ろう」

 

 受け入れてもらった後で、やっぱり役に立たないなんて思われたら花威かいに申し訳無い。

 何か衣装を作ってみようかな、と材料を取りに立ち上がった時――

 

「魚神が出たぞーッ!」

 

 緊急事態を報せる鐘の音と共に、そんな声が聞こえてきた。

 

 ――――――――――

 

 パチ、パチ……パキッ――

 

 熱い。

 木の燃える音がする。

 体が痛くて動かない。


 意識を失っていたらしい。

 

 瞼が重い。

 

(何が起きたんだっけ……)

 

 來夢らむは必死に、意識を失う前の事を思い出そうとする。

 が、思うように頭が動かない。

 

(確か、魚神が現れて)

 

 気を抜けばすぐに意識を失いそうだ。

 

(燃える魚神が火事を起こして……)

 

 そうだ、思い出してきた。

 

(おじいちゃんと逃げなきゃって――)

 

「おじいちゃん! ゴホッ」

 

 祖父の事を思い出した途端クリアになる思考。

 瞼を開けて、当たりを見渡す。

 

 周囲に祖父の姿は無い。

 そもそもここはどこだ?

 

(あそこにタンスが見える……から、居間かな)


 タンスの傍に見覚えの無い何かが落ちているが、おそらく焼け落ちた家具の一部なのだろう。

 

 だとすると、祖父はあの辺に――

 

 居るはず、と目を凝らした事を、來夢らむは後悔する。

 落ちている見覚えの無いナニカ。

 

 それは、祖父だった。

 

 言葉を失った來夢らむへ見せ付けるように、焼け落ちた天井の一部が祖父の元へ降り注ぐ。

 

 熱い。

 肉の焼ける匂いがする。

 体が痛くて動かない。

 

 瞼が、重い。

 

 炎の勢いは止まらず、來夢らむの事も包み込む。

 

來夢らむは器用だな〜』

 

 亡き父の声が聞こえた。

 

究聖主連盟きゅうせいしゅれんめいにも入れてもらえるんじゃないか?』

 

 祖父の声がする。

 

來夢らむ、おおきくなったらね、きゅーせいしゅさまの服をいっぱい作るの! それでね、パパとおじいちゃんとね、おっきいおうちに住む!』

 

 遠い日の、自分の夢が、聞こえる。

 

 パチ、パチ……パキッ――

 

 ――――――

 

 ――――

 

 ――

 

「お父さん! おじいちゃん! 聞いて! 私ね、Assortに誘われたんだよ!」

 

 來夢らむが報告すると、父と祖父が満面の笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

 

「えへへ、それで……あれ? その人は?」

 

 見覚えの無い女性の姿を見て、首を傾げる。

 が、じっくり観察して分かった。

 

「お母さん?」

 

 祖父たちから聞かされる、母の姿とそっくりだ。

 母は優しく微笑んで、手を広げる。


 恐る恐ると飛び込んだ母の腕の中は、暖かかった。

 

 パチ、パチ……パキッ――

 パチ、パチ……

 

 

 

 

 

  ――――check point――――――


 究聖主連盟きゅうせいしゅれんめい


 救世主や、関係者を集めて管理、適時指示やサポートを行う組織。

 各基地ベース責任者は連盟から選出されている。


 ――――――――――――NEXT――

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