第4話 「君は女の子。良いね?」

 希洋きひろ花威かいに連れられ、基地ベースとやらに連れてこられた琉海るか

 

 ひとまず、濡れたままではマズイだろうと渡された白いセーラー服に着替える。


「ごめんね〜男物しか無くて」


 なんて言われたが、むしろスカートから解放されて嬉しい限りだ。

 

 更衣室に備え付けられた鏡で改めて確認する。

 やはり琉海るかは女の姿になっていた。

 

 ウェーブを描く長い金髪と、青色の目。

 真っ白すべすべの肌。

 

 あまり見すぎるのも悪い気がして、急いで着替える。

 本来の琉海なら与えられた服はジャストサイズだったのだろうが、手足が余ってしまった。

 

「あぁ……これからどうしよ。逃げる?」

 

 説明しても信じてもらえるか分からないし、かと言って誤魔化すにしたって方法は分からない。

 幸い、更衣室は一階に有るし、人が通れるほどの窓も有る。

 

「けど逃げた所でなぁ……」

 

 いつあの魚神ぎょじんに襲われるか分からない。

 このブカブカの格好ではマトモに逃げるのも難しいだろう。

 

「素直に説明して、無理だったらその時考えよう」

 

 うだうだ考えた所で、それよりも良い解決策は浮かびそうに無い。

 知りたい事も多いし、きちんと話すしか無いだろう。

 

 覚悟を決めて更衣室から外へと出た――

 のが、二時間程前。

 

「どうしてこうなった?」

 

 琉海るかは今、広々とした豪華な部屋のソファに腰掛けている。

 当面の生活拠点として使うように与えられた部屋だ。

 

「ん〜、指揮官様は大事にしなきゃだからね」

 

 正面に座り、ニッコニコの笑顔で琉海るかを見つめているのは希洋きひろ


 ほんの二時間前は疑いの目を向けていたのに、この変わりようは何なのか。

 

 きっかけはそう。

 琉海がヤケクソで全て語った事。


――――――――――

 

『信じて貰えるか分からないんだけど、違う世界から来たというか……家に居たら突然家が海になって、溺れてる所を助けられた……んだよ』


 ――琉海るかは客室の、二人がけの黒いソファに座っていた。

 正面には希洋きひろ花威かいが。

 

 下手くそにも程がある説明を聞いて、希洋きひろ花威かいはお互いの顔を見合せた。

 当然だろう。信じ難い話なのだから。


 二人は互いの顔と琉海るかの顔を何度も視線を往復させた。


 そして希洋きひろが声を上げる。

 

「あの時の! アレだ! 人手不足すぎて召喚の儀式やった時の!」

「あっ……! そうだ……そんな事有ったね? 三徹開けの紫縞むらしまさんが爆笑しながらやってたやつ」

 

 希洋の言葉にピンと来る物が有ったのか、花威かいも続く。


 正直な所、絶対に信じてもらえないと思っていた琉海は面食らった。

 そんなに簡単に信じてもらえる物なのだろうか……。


 とはいえ、紫縞むらしまとやらが誰だかは知らないが、恨むべき相手としてその名は琉海るかの頭に刻まれた。

 

「ごめんね〜君が持ってるそのペンダント、俺のとそっくりだったから盗まれたんだと思って……」


「あっそうなんだ……知らない内に盗ってたとかかな……返す?」

「あぁ、大丈夫。君が召喚された指揮官様なら、別物って事になるから」

「……そういう物なんだ?」

 

 希洋きひろが琉海の首にかけられている宝石のペンダントを指さす。

 ダウンロード中にそんなような記述が無かったか思い返すが、特に心当たりは無い。


「ってか、信じてくれるの?」

「うん。疑ってたけど……まぁ、こんな嘘付く人普通居ないし」

「そうなんだ?」

「仮に嘘なら……まぁ、ここに捕まえてる限り大丈夫だし」


 知らない事や分からない事、その他考えるべき事が多すぎて頭が痛む。

 

「まぁ、詳しい事は順を追って話すよ。今日は疲れたんじゃない? ゆっくり休みなよ」

 

 そんな琉海の心情を見越してか、花威かいが優しく人好きのする笑顔で穏やかに提案してくれた。

 

「部屋は……希洋きひろくん、掃除してきてくれる? 僕この子と話したいからさ」

「えぇ……お前ホントに……まあいいや。花威かいに何言われても気にしなくて良いからね!」

 

 呆れたような……ゴミを見るような目で花威を見、希洋が部屋を出ていった。


 希洋が去って行ったのを確認すると、花威かいが密着するように琉海の隣に座る。

 

「……ね♡ 君の事もっと知りたいんだけど、名前教えてくれない?」

 

 自然と琉海の手に手を重ねていて、女慣れしているのが伝わって来た。

 

「……」

 

(女子ってこういう急接近嫌がるもんじゃ無いの? イケメンだから許されてる感じ? 早く男だって言わなきゃ)

 

 希洋きひろに殺されると思った時とは違った種類の冷や汗が伝う。

 長いピンクの髪から、無駄に良い匂いがする。

 妹が好きそうな匂い。つまり女子はこう言うのが好きなのかもしれない匂い。

 

「す、水廻 琉海すもうり るか……! あの、俺男! 気付いたらこうなってたけど男だから!」

 

 重ねられた手を引き抜き、距離を取りつつ答えた。鼻の中に匂いが残っているみたいだ。

 途端、花威かいの表情が凍る。

 

「おと……こ……」

 

 ショックを受けたような顔でしばらく琉海を見ていた花威。

 しかし彼はあろう事か、数回瞬きをしただけで持ち直した。

 

「今その体が女の子ならさ、それはもう女の子じゃん」

「違いますけど?」

 

(なんだコイツ怖)

 

「やだ。女の子。君は女の子。良いね?」

「ヤダ! 俺男!」

「やだ……僕が男の事を口説いたなんて事実は存在しない。お願い女の子になって」

「ヤダはこっちのセリフなんだけど!?」

 

 ――なんて事も有りつつ、掃除を終わらせた希洋きひろに助け出され、今に至る。

 

「どうしてこうなった?」

 

 琉海るかの居る部屋は豪華な広い部屋。

 恐らく、琉海の家のリビングよりも広い。

 

「ん〜、指揮官様は大事にしなきゃだからね」

 

 希洋はニコニコ笑っているし、部屋は豪華だし、ベッドは天蓋の付いたお姫様仕様。

 

「これから俺どうなるの……」

 

 頭を抱える琉海に、希洋はニコニコと笑っていた。


(とにかく今は家に帰る方法を探さないと)


 琉海の目的は定まった。

 ……実現できるかは、まだ分からないが。




 

  ――――check point――――――


 救世主きゅうせいしゅ


 魚神ぎょじんを倒す事のできる存在。

 選ばれた者しかなる事はできず、救世主に選ばれた人は過酷な戦いに身を投じる事となる。


 救世主による攻撃でなければ、例え核を使ったとしても魚神には傷一つ付けることができないのだから。


 ――――――――――――NEXT――



 ―――あとがき――――――――――


 ここまで読んでいただきありがとうございます!

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