第3話 あらぬ疑いをかけられる

「えっと……君はもしかして」

 

 青髪の青年、希洋きひろ琉海るかへ何か問いかけようとしたのと同時に、遠く――高台の方から大きな破壊音が聞こえてきた。

 

「あっちって……」

「仲間が戦ってるかも。行こう!」

 

 希洋きひろは先程、高台に誰かが居ると言っていた。

 この音は交戦の音なのだろう。

 

「行こうって、ちょっと!?」

 

 有無を言わさず琉海るかの手を掴み、希洋が走り出す。

 

 振り解こうと試みるも、思ったように力が入らない。

 

(体のせいか? 最悪だ)

 

 走っている間にもワンピースの裂け目は広がっているような気がするし、相変わらずスカートは邪魔。

 髪も風に流されて顔にかかるから邪魔で仕方無い。


 そんな事はお構い無し、と希洋きひろはぐんぐん走っていく。

 一緒に走っていると言うよりは、引っ張られていると言った方が良い。

 

「あっちだ!」

 

 あっという間に高台の上まで登り切った希洋が一点を指さし、声を上げる。


「ど、っち……」

「あれ!」

 

 息を切らせて琉海るかが顔を上げると、ピンクの髪の青年が魚神ぎょじんと戦っていた。

希洋きひろと同じ服を着ている。

 

 胸元のペンダントが光る。

 表示されたステータスウインドウを確認。


 ――status――

 

 日笠 花威ひかさ かい

 スキル:使用不可

 体力:40%

 

 ――――――

 

 三等身のミニキャラも怪我をしているように見える。

 

「どうしたら……」

 

 この画面が表示されるという事は、何とかしろということなのだろう。

 が、何をどうしろと言うのだ。

 

 都合良く投げられるような回復アイテムなんて持っていないし――


 

 ――mission――

 

 回復アイテムを使おう

 

 ――――――――

 

 

 タイミング良く、そんな文字が表示される。

 

 よく見れば、画面左下に宝石のようなアイコンが表示されていて、それをタップしろと言わんばかりにアイコンが点滅していた。

 

「これで良いんだよな?」

 

 アイコンをタップする。

 


 ――status――

 

 日笠 花威ひかさ かい

 スキル:使用不可

 体力:100%

 

 ――――――

 

 

 ――mission clear――

 

 回復アイテムを使おう

 

 ――――――――――

 

 

 上手く行ったらしい。

 

「俺も戦う!」

 

 ミッションをクリアしたからなのか、なんなのか。

 希洋が戦場へ足を踏み入れる。

 

 表示されているマップに、希洋のミニキャラクターが加わった。

 

 希洋が隣に立つと、ピンクの髪の青年――花威かいのミニキャラにオレンジのエフェクトが追加される。


 

  ――status――

 

 日笠 花威ひかさ かい

 スキル:使用不可

 体力:100%

 

 《優等生プライド》

 仲間がそばに居ると花威の全ステータスが上昇する。

 

 ――――――



「めちゃくちゃゲームだな」

 

 知らない世界で絶対絶命かと思ったが、ステータスウインドウやミッション、回復アイテム、スキル、その他諸々。

 スマホでソシャゲをプレイするのと感覚は何も変わらない。

 

「これなら何とかなりそう……」

 

 帰ることができるのか、とか体の事とか、問題は色々と有る。

 が、自分で戦わなくても良くて、指示を出すのもゲーム感覚となれば多少気は楽だ。

 

『決めるね』

 

 ピンクの髪の青年、花威かいのスキルが貯まるのを待っていたが、どうやらスキルを使うまでもなく戦いが終わったらしい。

 

 ウインドウからは魚神の姿が消え、リアルの彼らの足元には死骸が転がっている。

 

「勝ったね。帰ろっか」

 

 花威かいは死骸を一瞥した後、興味無さげに踵を返した。

 恐らくそのまま帰るつもりだったのだろうが、彼の目に琉海るかの姿が映る。

 

「えっ……」

 

 硬直する花威かい

 コンマ数秒間を置いて、何かを探すように自身の身体に触れた。


 探し物は無いと分かると、希洋きひろへ目を向ける。

 

希洋きひろくん、タオルか何か持ってない?」

「持ってないよ。どうして?」

「どうしてじゃないよ。女の子が濡れた服着てるのになんで放置してたの。……よく見たら背中も敗れてるし」

「あー……」

「あーじゃないんだけど?」

 

 二人の会話を聞いて琉海るかは、やはり女になっていると確信する。

 

 今まで女に間違えられた事は無い。

 体格がしっかりしていたので、友達と悪ノリで女装をした時は周りがそれなりに可愛くなっていく中で琉海るか一人だけがネタ感満載の姿になってしまったほどだ。

 

「お姉さん。一旦僕達と一緒に来てくれる? 基地ベースに着替えとか有るはずだからさ」

 

 いつの間にか傍に来ていた花威が問いかける。

 

 優しい微笑みを浮かべている彼は、長いピンクの髪を1部だけ三つ編みにして、希洋きひろと同じマリン帽を被っている。

 水色の目は、意識しなくても見てしまうほど長いまつ毛に縁取られていて、分かりやすく女ウケのするイケメンと言った容貌ようぼうだ。

 

(中身男って言った方が良いのか? これ)

 

 女慣れしてそうなイケメンに、女扱いされるのは妙に腹が立つ。

 が、中身は男だと説明するには説明しないといけない事が多すぎる。

 

(……まぁ、後で考えよう)

 

 色々と起こっていたから気にならなかったが、そろそろ濡れた服のせいで寒くなってきた。

 

「お願いします」

 

 頷いた琉海をエスコートするように花威かいが手を差し出す。

 が、さすがに気まずいので気付かなかったフリをしてスルー。

 

「花威、フラれちゃったね〜」

「うるせぇ」

 

 茶化すように希洋きひろ

 不満気な顔で歩き出す花威の後を追い、琉海るかも歩き始めた。

 

 先程の会話から、二人の仲の良さが伺えた。

微笑ましく見守っていたのも束の間。

 

「あ、基地ベースに着いたら色々話してもらうから。なんで立ち入り禁止区域ここに居たのかとか、そういうの全部」

 

 ふと思い出したように、希洋が告げる。

 

「そのペンダントとか、色々怪しい所満載なんだよね〜」

 

 桃色の目を笑わせる希洋。

 しかし、一目で分かるほど、ゾッとするような作り笑いだ。

 

(正直に説明しても理解してもらえる気がしないんだけど!?)

 

 魚神ぎょじんとか言う、目に見えた脅威は立ち去った。

 しかし、次なるピンチが琉海るかの元に迫っていた。

 

 下手をしたら殺されかねないような、恐ろしい気配を希洋は纏っている。

 

 花威かいは苦笑して見守っているだけ。

 

 琉海るかの背中に、嫌な汗がつたった――。

 

 

 


 ――――character profile――――


 ――はいはい。戦えばいいんでしょ。

 分かってるって。

 ちょっと遊ぶくらい許してよ。

 

 名前:日笠 花威ひかさ かい

 性別:男

 年齢:17

 

 クールで世話好きな遊び人。

 無気力で毒舌だが、女の子にはとことん優しいらしい。


 ――――――――――――NEXT――

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