第2話 謎の生物に襲われる

「何この声! 何、この状況!? どうなってるんだよ〜!」

 

 琉海るかの絶叫が海に響く。

 

 青髪の青年がキョトンとした顔で琉海を見ていた。

 

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないです」

 

 声をかけられ、流れるような否定を返す。

 大丈夫ではないからだ。

 

 どう考えたって肌が柔らかくなっているし、指先まで真っ白な肌が続いているし……。

 

 別人になったような、いやむしろ別人になっていてほしいと思うような、華奢な身体に生まれ変わっている。

 

「まぁ、ここは危ないから一旦――」

 

 青年が言いかけた時、突如として大きな波の音がして、琉海るかたちの頭上に影が落ちた。

 

 影の正体がなんなのか確認する間もなく、青年に手を掴まれる。

 

「逃げるよ!」

 

 立ち上がる時間すら待ってくれず、青年は走り出した。

 

「何!? どういう事!?」

 

 転びそうになりながらも何とか走る琉海。

 青年は何も答えずに走る。

 

 せめて何から逃げているのか知ろうとして振り返り――後悔した。

 

「キモチワルっ!?」

 

 そこに居たのは、巨大な魚だった。

 ドロドロと全身から汚物を垂れ流し、ゴツゴツの手足を生やした魚。

 

 アンバランスな体で、ヌチャヌチャ音を立てながら魚が追いかけて来る。

 

「何? なんなのあれ!」

 

 走る速度を速めながら、琉海は前を走る青年に問いかけた。

 

魚神ぎょじん! 見た事ない?」

「無い! ってか、どういう事? 目が覚めたらゲーム世界だったドッキリとかそう言う――」

 

 言いながら、ピンと来てしまう。

 

(最悪だ……)

 

 これはつまり、異世界転移だか転生だかだ。

 話の流れから察するに琉海るかは先程インストールしたばかりのゲーム、ブルー・ブルー×イロウシェンの世界に居る。


 ……かもしれない。

 

(なんでよりによって知らない作品なんだよ)

 

 琉海はそれなりに、ゲームだとか漫画だとかに詳しい方だ。

 世に言うオタク、と言うほどハマったモノは無いが、オタクではないと言いきれない程度には数多くの作品に触れている。

 

 好きなゲームもそれなりに有るし、異世界転移モノの作品を見ては(自分がこの世界に行ったら……)と考えた事も有る。

 

(なんでよりにもよって! )

 

「とにかく説明は後! 仲間と合流したらすぐ倒すから、今は走って!」

 

 青年の声で、琉海の思考が途切れる。

 

 そうだ。今は余計な事を考えている場合じゃない。

 足を進める。

 

 全力で走る。

 濡れたスカートがペタペタとまとわりついて、ものすごく邪魔だ。

 

 どうしてもスカートに気を取られてしまう。

 

 気を取られている間にも怪物……魚神ぎょじんは迫ってきていて――

 

「危ないっ」

「っ――!?」

 

 青年に強く腕を引かれる。

 一瞬、引っ張られるような感覚がしてワンピースが裂けた。


 背中の真ん中辺りまで避けたらしく、袖がずり落ちて肩が露出する。

 

 裁ち鋏以上の切れ味。

 直接当っていたら、大怪我では済まなかっただろう。

 

「向こうの高台の上まで逃げて! ピンクの髪の子が居るから、その子に助けてもらうように言っ――」

 

 青年が魚神を捕み、叫ぶように指示を飛ばす。

 言われた通りに高台の方へ向かいかけた琉海だが、その行く手にも別の魚神が。


 魚神が大きく手を振り、ヘドロの様な塊を琉海目掛けて投げつける。

 咄嗟に避けると、塊の着弾した砂が煙を上げて溶けた。

 

「何!? 無理! 死ぬってこんなの!」

 

 思わず、琉海の口から言葉が漏れる。

 知らないゲームの中に飛ばされたかと思うと、怪物に挟まれてピンチに。

 

 あまりにも急展開過ぎて脳の処理が追い付かない。

 

「諦めないで! 俺が隙を作るから、そこから逃げるんだ!」

「隙って、隙って何!?」

 

 青年は冷静だが、琉海はパニックだ。

 

 これ幸いと、魚神の手が琉海に迫った。

 

 その時――

 

「眩しっ」

 

 琉海るかの胸元から、真っ青な光が広がる。

 

 よく見れば、宝石のペンダントが首からさげられていた。

 

 光はゲームのステータスウインドウの様な形に収束する。

 

 ウインドウには、三等身にデフォルメされた青年の姿と、二体の魚神の姿が映っていた。

 

「は? え、操作しろってこと?」

 

 タワーディフェンスのような、マスに区切られた画面。

 青年をタップするとステータスが表示される。

 

 ――status――

 

 刺草 希洋いらくさ きひろ

 スキル:準備OK

 

 ――――――

 

 大半のボタン操作は未開放。

 スキルだけが可能となっている。

 

「えーい! よく分からないけど何とかなれ!」

 

 スキルの発動ボタンを押した。

 

 何が起きるのか一切説明が無いので、もし仮にこれが自爆攻撃等だった場合は終わりだ。

 

 ゲーム画面から顔を上げ、本物の青年――希洋きひろを見る。

 

 彼の手には細長い剣が握られていた。

 

『ちょっと痛いかもよ!』

 

 彼が剣を横に薙ぐ。

 射程の範囲外まで、リボンのようなエフェクトが広がり――

 

「グキャッ」

 

 二体の魚神は倒れた。

 

 

 《チュートリアル1クリア》

 

 

 ゲーム画面にはそんな文字が表示されている。

 

「なんとかなった……のか?」

 

 画面と、希洋きひろの顔を交互に確認。

 きょとんとした顔で希洋がこちらを見つめている。

 

「えっと……君はもしかして」

 

 希洋が琉海るかへ何か問いかけようとしたのと同時に、遠く――高台の方から大きな破壊音が聞こえてきた。


「あっちって……」

「仲間が戦ってるかも。行こう!」

 

 希洋きひろは先程、高台に誰かが居ると言っていた。

 この音は交戦の音なのだろう。

 

「行こうって、ちょっと!?」

 

 有無を言わさず琉海るかの手を掴み、希洋は走り出した。

 



 

 ――――check point――――――


 魚神ぎょじん


 突如として現れた怪物。

 人を襲い、野山を荒らす害獣。

 人類の大半は魚神により滅ぼされ、残った人々は少ない土地と資源で何とか生きている。


 ――――――――――――NEXT――



 ―――あとがき――――――――――


 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 頑張って毎日投稿続けていきます。

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