第14話
話も終わり、盗賊達の討伐を夜に控えたアキラ達は各々が準備に取り掛かっていた。
「ったく、ガキ共は何処にいるんだ?隠れるのが上手すぎだろ」
当然、戦闘への参加を禁じられているイブキはそうではなかった。
する事も無かったイブキはメークルに子供達を見ている様に頼まれたのだ。
言われた通りに遊んでいた子供達を見守っていたところ、かくれんぼの鬼を頼まれて今に至る。
「宿舎には居なかったよな?」
イブキはまず、宿舎を探してみたがどうにも子供達が見当たらない。それどころか気配すらない。
少しズルかとも思いはしたが、アキラ達に子供達を見ていないか聞いて回っても誰も見ていない。
「後は………礼拝堂の方か?」
宿舎の隣に聳え立つ礼拝堂にイブキは目を向ける。なんの変哲もなさそうな礼拝堂だ。
ゆっくりと礼拝堂の扉を開けるとそこには一人の少女が誰かを模った像の前で膝を突いて祈りを捧げていた。
メークルだ。そう思ったイブキは邪魔をしても悪い、と入り口から中を確かめる。
既に夕方と言う事もあって、礼拝堂の天使が描かれたステンドグラスから夕日が差し込んでメークルを照らす。
それ以外には特におかしなところはない。長椅子が等間隔で左右に並べられているごく普通の教会だ。
もう出ようと振り返ろうとしたその時だった。
「ん?」
イブキはある違和感に気付く。もう一度、教会の中を見渡していく。
長椅子。像。ステンドグラス。祈りを捧げるシスター姿の少女。
「あ」
ようやく、イブキは違和感の正体を理解した。
駆け足気味にイブキはシスター姿の少女へと近づいていく。
「みーつけた」
そう言ってイブキが少女の肩を軽く叩くと、少女は諦めた様に祈りを止めて振り返る。
オレンジの刺々しい短髪少女。教会に来た時にイブキ達を宿舎に案内した年長であろう少女がそこにいた。
「何でわかったの?」
少女は尋ねる。自信はあった。装いはメークルと同じであり、背丈だってメークルとほとんど変わりわない。
至近距離まで近づいていたならまだしもイブキは入り口で気付いている。
「ん?あー………」
頭を掻いて少女から目を背けるイブキに少女は眉を顰める。
「言えないの?」
「言えないって言うかある意味ズルって言うか………」
言っている意味は少女には分からなかったがズルならば問い正さねば、と、さらに問い詰める。
「ズルしたの?」
「いや、ズルって言うか見えちゃったって言うか………」
「要領が得ないよ。もっとハッキリ言って」
難しい言葉を使う子供だな、なんて思いながらもイブキは何とか説明しようと懸命に口を動かす。
「えーと、まず俺のスキルの話なんだけど自分の生命力を他人に譲渡できるのよ」
「………?」
小首を傾げる少女の様子を見ながらイブキはどう説明すれば良いのかと、脳をフル回転させる。
吃るイブキ。次第にイラついた様子を見せる少女。
「えーと、人には魂があるよな?俺のスキルはそれを炎として見る事ができるんだ」
「それが私がメークルお姉ちゃんのフリをしてるってバレた事と何か関係あるの?」
「いい質問だぞガール。魂の炎は人それぞれで色が違うんだ」
「?????」
もはや言っている事が異次元に飛んでいるとも言いたそうな顔をする少女にイブキはとにかく、と話題を変える。
「俺は君を見つけた。なら君は俺が他の子を見つけるのを手伝って下さいお願いします!」
途中から懇願に変わって行ったことはさて置くとして、自身より一回りも二回りも小さい自分に本気で土下座するイブキを見て信じらんない、と呟く。
「貴方達勇者パーティて皆そんななの?」
少女は勇者パーティのそれぞれを思い出す。
ある者はイブキが描かれた絵を装備の手入れをしながら顔を緩めながら眺め続け、またある者は延々とブッコロスなどと物騒なことを呟きながら据わった目で刀を研ぎ、またある者は夜には戦いに出ると言うのにずっと窓際に座って本を読み耽っている。
全員が全員、とても世界を守る為に活動している勇者パーティのメンバーとは言い難い変人ばかりだ。
「私は運良く見つかったかもだけど他の子は絶対に見つけられない」
少女の握る手に力が籠る。
そんな事にも気付かずにイブキは自信のある少女の言い様に疑問を浮かべる。
「それは………なんで?」
「そうしないと、生き残れなかったから」
そう告げる少女の目にイブキは息を詰まらせた。
とても深い暗闇。少女の目には光が一切ない。
言葉を発さないイブキに呆れた様子の少女はさらに話し続ける。
「貴方達は知らないかもしれないけど、ここに住んでる子達は私を含めて皆故郷の村を魔王に滅ぼされたの」
少女が語るのは、少女自身が思い出したくもない記憶だった。見知った人達の悲鳴や断末魔。燃える家屋の熱に煙や人が燃えた異様な臭い。乾いた様にケタケタと笑う男の声。それをただ身体を震わせて井戸の中で息を逸らしながら感じるしか無かった少女。
「バレたら死ぬ状況で私達は生き残った」
イブキは絶句した。あの洞窟で目覚めた時には想像もできなかっただろうが、絡繰兵の侵攻に鉢合わせた今なら分かる。
命が危険に晒される恐怖も、見知った顔の人間がボロ雑巾になろうとも自分には何もできないと言う悔しさも分かってしまう。
「………ごめん」
自然にそんな言葉が溢れた。
「本当、貴方達がもっと早く魔王を倒してくれていたなら私達みたいな子はもっと少なかったのにね」
今のイブキには自分の行動が遅かったせいで犠牲を増やしたなどと言う実感は湧いていない。
それでもイブキは少女の恨み言を黙って受け入れる。
そんなイブキを見て恨み言を言う気も失せたのか、ため息を吐く。
「村の手伝いがこの後あるか皆を探す事はできないけどヒントならあげる」
「ヒント?」
「そう。目につくところばかり探すんじゃダメ。上と下、普通じゃ考えられない所に皆案外いるものだから」
それじゃ、と少女は教会を出る。
イブキは少女の恨み言とヒントを胸に立ち上がって再びかくれんぼを再開するのだった。
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