第12話
平原を抜けて、森に入って少ししたところにクローズ村は存在していた。
村の門番に街を出る時に発行される通行証を見せて村へと入ったアキラ達は村の中心に見える教会へと向かった。
村の広さ的には並と言った感じで家もイブキが見える範囲でも二十件程存在している。
村の観察をしながら村の奥にある高台に建っている教会の前に辿り着くと、我先にと馬車からメークルが降りてきて教会の扉を開く。
「皆、ただいま」
教会の中にいる誰かに呼びかける様に発されたその言葉を皮切りに、教会から何人もの子供が現れる。
「なんだ?」
「何だか微笑ましいね」
アキラとイブキの目の前に広がるのは、教会から出てきた子供達がメークルを囲んで遊んでいる姿。
「ねぇ、シスター?あの馬車の人達は誰?」
おそらく子供達の中では年長なのだろう。最も背の高い少女がアキラ達の馬車を指差して問い掛ける。
「あの人達はね、勇者様です。この村を助けに来てくれたの」
『勇者』と言う言葉に子供達は一斉に馬車の方を向き、走って馬車に近づいていく。
「お兄ちゃん達勇者様なの?」
「どっちが勇者様?」
「白い方だろ!鎧カッケーし!」
「勇者様はお兄ちゃんなの?お姉ちゃんなの?」
「ねぇねぇ、剣持たせて!」
「馬車くさーい!」
子供と言うのは何と無邪気なものなのだろうか。馬車を囲んだ子供達が口々に喋り出す。
「こ、こら!あまりそんな事を言ってはいけません!」
メークルに叱られている子供達を尻目にチラリとイブキは馬車の中を覗いてみる。
子供達の一人が言った『臭い』が相当心に来たのだろう。シシーナもキャツサも項垂れてボソボソと呟いている。
「おい」
イブキが見ていたのに気付いたのか、シシーナが声を掛ける。
「な、何でしょう?」
「私達は今、臭いか?」
その質問に、イブキは言葉が詰まる。
確かに、イブキからしても今の彼女達はかなり臭い。死体を焼いたのだから当たり前と言えばそうなのだが、騎士とは言え、やはりシシーナも女性なのだ。
女性に臭い等と真正面から言う物ではないことは、記憶がないイブキにだって分かる。
「そ、そんなこと無いですよ!ちょっと鉄と腐乱臭がするだけでヴォエ」
喋っている合間の息継ぎで臭いを嗅いでしまったイブキが嗚咽してしまう。
アキラもあちゃー、と額に掌を当てる。
「………そうか」
「お風呂、入りたいなぁ」
遠い目で空を眺める二人。よくこの中で吸われていたな、とアキラはメークルを見ながら思う。
そんなアキラに気付いたのか、メークルは小首を傾げる。
「どうかされました?」
「ううん。その、お風呂貸して貰ってもいい?」
「大丈夫ですよ。今沸かせてきますね。皆さんはどうぞ宿舎の方でお待ちください」
子供達に四人の案内を任せてメークルは裏庭へと向かっていく。
それを見送ると、先程アキラ達に気付いた年長らしき少女が花を摘みながら近づいて来る。
「それでは皆さん、こちらへどうぞ」
「あ、ちょっと待ってね」
少女の案内に待ったをかけたアキラは馬車から全員が降りたのを確認すると、馬の頭に手を置く。
「ありがとう、スレイプニル。ゆっくり休んでて」
そうアキラが囁くと、スレイプニルと呼ばれた白馬は鳴き声を上げて馬車もろとも虚空へと消えた。
「勇者様スッゲェ!」
「馬は何処だ!?」
「探せ探せ!」
今ので子供達の興味が完全に消えた馬車に移ったのか、馬車を探す為に蜘蛛の子を散らした様に駆け出していく。
一方、この状況を間近で見ていたイブキは開いた口が塞がらなかった。
「あ、ありえねー………。馬が消えた?」
「消えたんじゃなくって元の場所に戻ったんだよ」
アキラの訂正にイブキは首を傾げる。
「ボクのスキルはね、今みたいに軍馬を呼んだり戻したりできるんだ」
「へー………」
「お前も勇者パーティの一員を名乗るのならば味方の能力くらい知っておけ」
私はお前を一員とは認めたくないがな、と最後に悪態を吐きながらシシーナは宿舎の方へと向かう。
「お風呂お風呂お風呂お風呂お風呂お風呂お風呂」
その後ろから、呪いの様に同じ言葉を連呼しながら着いていくキャツサを眺めながら二人の少年は顔を見合わせて肩を窄めた。
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