第11話

「そっちに行ったよ!」

「任せろ!」


 イブキの装備が揃った翌日。朝一から王都を出発したアキラ達は途中で見つけたゴブリンの巣の解体に臨んでいた。

 この世界には二種類のゴブリンがいる。理性を持ち、多種族と共生して街で暮らすゴブリンと、理性が無く、種の存続の為に女と見れば捕まえて嬲る街の外に生息するゴブリンだ。

 アキラ、シシーナ、キャツサの三人がゴブリンの巣に対処している間、イブキは村まで一緒に行く事となったメークルと戦いの様子を遠くから眺めていた。


「すっげぇ………」


 その光景はまさに蹂躙とも呼べる様な一方的な物でアキラやシシーナがゴブリンを斬る度、キャツサが魔法を撃つ度にウィンドウが現れてイブキのレベルが上がった事を伝えてくる。


「俺なんもしてないのにレベルがドンドン上がってくよ」

「王都のとても偉い先生曰く、パーティを組めば経験値が分割して入ってくるみたいですよ?確か、モンスターを倒した本人が半分、残り半分を他のパーティメンバーが均等にだった筈です」

「へー」


 ゴブリンの巣の掃討を終えたのか、後始末としてゴブリンの死体を燃やし始める三人を見てイブキはウィンドウに視線を移す。

 レベルは5になり、スキルポイントは10となっていた。

 イブキが使える魔法を解放する為にはどれもスキルポイントが10必要だ。


「ただいま」


 それらをイブキが確認していると、一足先に後片付けを終えたアキラが馬車に上がる。


「おかえりなさい勇者様」

「ただいま、メークル。何も無かった?」

「はい。皆様のおかげでこちらには何も」


 メークルの報告を聞きながら、アキラはウィンドウと睨めっこしているイブキを見る。


「どうかした?」


 アキラの質問にイブキはウィンドウを目の前の二人に見せる。


「スキル、何が良いかなって」


 やはり、最初は仲間が怪我をしても治せる回復魔法だろうか?それとも戦い易いようにするバフ魔法のどれか?どちらにせよ、雷の属性魔法まだまだ先そうだ、なんて思いながらイブキはアキラの答えを待つ。

 アキラは悩む素ぶりもなくすぐに答える。


「回復魔法かな。イブキが怪我をしても自分で治せるし」

「そ、そうか?」


 選定基準が回復魔法を使うイブキ自身なのに少しだけ疑問を持ったイブキではあったが、構わずに回復魔法を解放する。


「これで俺も皆と一緒に戦えるよな?」


 ゴブリンの巣の掃討にイブキが参加していなかったのには実は理由がある。

 馬車に残ったメークルの護衛もあったのだがそれよりもアキラが頑なにイブキを戦闘に出そうとしなかったのだ。


「駄目だよ。参加はさせられない」


 即答だった。イブキが間髪入れずに問い正そうとして立ち上がると、アキラはゆっくりとイブキの座っていた隣に座る。


「戦いは危ないから。ボクはイブキに危ない事をさせたくない」

「ま、まだ実戦はした事無いけど俺だって戦える!第一、記憶を失う前は一緒に戦ってたんだろ?」

「………そうだね」


 妙な間と共に答えるアキラにイブキは目の前の美少年の事がよく分からなくなる。


「うん。やっぱりイブキを戦いには同行させられない。今のイブキは戦いがどう言う物なのか理解できてない」


 いつにも無く真面目な顔で諭してくるアキラにイブキは押し黙るしか無かった。


「け、ケンカは駄目ですよ?」


 恐る恐る、二人のやりとりをそばで見ていたメークルが涙目で声を上げる。

 そんなメークルを安心させる様にアキラはにっこりと笑いかける。


「大丈夫。喧嘩じゃなくてただのディベートだから。ボクとイブキの間じゃいつもの事だよ」


 記憶の無いイブキにはそんなつもりはないのである。


「後始末、終わったぞ?」

「早く村でシャワー浴びたい………」


 タイミングよく後始末を終えたシシーナとキャツサが馬車へと乗り込む。

 その瞬間、異様な臭いが馬車内を包む。何をしていたのだろう、とイブキがチラッと外を見ると、そこには燃えて炭となったゴブリン達の死体が転がっていた。


「ありがとう。じゃあ出発しようか」


 このパーティでは、アキラが馬車を馬で引く役割になっている。

 アキラが立ち上がったところでイブキも慌てて立ち上がる。


「お、俺も一緒に操縦席座っていい?」

「別に構わないって言うかむしろ嬉しいけど急にどうしたの?」


 言葉が詰まる。流石に頑張っている二人が臭いから、などとイブキが言えるわけもない。


「………シャワー浴びたい」


 全員が席に着いた所で再び馬車が動き出す。馬車がクローズ村に到着したのはそれからしばらくしての事だった。


 

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