第9話
魔術師を蘇生させ絡繰兵の召喚を止めれば、事態の収束は案外あっさりした物であった。
元々そこまで強くない絡繰兵。訓練を積んだ兵士や騎士ならば倒すのは容易だ。
事件が解決した翌日。街では復興の為に人々が忙しなく動き回る。
建物を直す男達。腹を空かした男達の為に大鍋でシチューを作る女と子供達。
一方の勇者パーティの住むアパート風の屋敷ではと言うと───。
「間違いありません!貴方こそが私達の神様です!」
「だーから、違うってば!」
玄関先でイブキが助けたシスターが目をキラキラと輝かせながら言い寄っていた。
「貴方は絡繰兵に襲われ死んだ私を暗い闇の底から一筋の眩い光として引っ張り出してくれた。これを神がもたらした奇跡と言わず何と言うのでしょう!」
「いやいや、この力貰い物だし!スキルだし!大体貴女もう信仰してる神様いるんでしょ!?」
「見えない神より見える神です!」
「えぇ………」
どうしよう、とイブキは助けを求める為にアキラ達に視線を送る。
しかし、三人はテーブルで顔を向かい合わせて事件について話している様で気付くそぶりはない。
「まだ犯人は見つかってないんだよね?」
「殺された魔術師もあまり死ぬ前の事は覚えていないらしい」
「あれだけデロデロにされてたらねぇ」
その犯人(自称)が目の前に居るのだが、なんて思いながら助けは諦めて再びイブキはシスターを見る。
殺された魔術師が死ぬ前の事をあまり覚えていなかった様に、シスターもまた死ぬ前の事をあまり覚えていない様子だった。
「私だけではありません!シシーナ様が魔術師が亡くなってと口にした時は驚きましたがそれも貴方様が解決されました!まさに神の為せる業です!」
「いや、ただのスキルだからね?別に俺が特別って訳じゃないから」
ムムムムム、と唸るシスターは何を思ったか、ポンッと手を叩く。
「そういえば!自己紹介をしていませんでした!」
「本当に今更だな………」
シスターはスカートの両端を摘んでちょこんと頭を下げる。
「私、メークル・ゴートシープです!アケノミョウジョウ教会でシスターをしています!」
珍妙な名前の教会だな、などと思いつつイブキは頭を抱える。
いったい、どう説得すれば彼女は帰ってくれるのだろう。
「あの魔王に部下が居たとも思えないけど………」
「何にせよ、絡繰兵の製造を止めないとマズイのは確かだ」
「じゃあ、どうするの?」
「うーん………」
三人の会話にイブキは聞き耳を立てながら捲し立てて話すメークルに自己紹介を返す。
「俺はシュテン・イブキね。神様じゃなくてごく普通の人間」
「はい!イブキ様!」
「様はいらないんだけどなぁ………」
「実はイブキ様と勇者様にご相談事があるんです!」
イブキは眉を顰める。
「相談事?」
「はい!私が勤める教会のある村に最近盗賊団が現れ始めたんです!国に動いてもらおうと思っていたんですけどこの騒ぎで兵は出せないって………」
事情を聞きながらイブキはアキラ達に判断を仰ぐべきだと振り返る。
「………よし、旅に出よう!」
「旅だと?」
「うん!何が目的で王都を襲ったのかは分からないけど犯人はまだ狙ってると思う。だから国中を旅してこっちから先に仕掛けたい」
「それはいいけどまずは何処に行くつもりなの?」
何やら既に話が纏まりかけているアキラ達。これはイブキとして非常に由々しき事態だ。
一応はパーティのメンバーであるのに話し合いに参加しないのは不味すぎる。
「え、えーと、君の村は何処にあるのかな?」
目的地だけでも会話に参加しようと、メークルに向き直る。
「はい!ここから一番近い村───」
「やっぱりここは一番近い村の───」
「「クローズ村
しばらくの沈黙の後、ようやくその場にいる全員が視線を互いに向け合うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます