第9話 ファイナルゲーム(その7)

 スライム本体が弾けるように拡散する。

 そこから伸びるのは六本の腕。

 それぞれの腕が立ち尽くす六人の制服少女を捕らえ、本体の中へと引きずり込む。


 スクールセーターを取り込んだのはヒギャク。

「その無表情で締め上げてほしいのでございますよ。早く締め上げてくださいませよ。ぎゅうううううって。ぎゅうううううううって。うひひ」


 ワンピを取り込んだのはシギャク。

「おうおう。生意気なメスガキがそそりやがるぜ。泣かせてやるぜ泣かせてやるぜ。ひゃひゃひゃ」


 ボレロを取り込んだのはショク。

「なでなで。この制服に包まれたけしからん身体を触りたいもみ、とにかく触りたいもみ。ああ柔らかいもみ。もみもみ」


 セーラーを取り込んだのはキュウ。

「すうはあすうはあ。黒髪のにおい、黒髪のにおい。甘いシャンプーの匂いは最高だくん。くんくんくんくん」


 ブレザーを取り込んだのはミ。

「じゅるりじゅるり。その澄ました顔はどんな味がするんだぺろ。ゆっくりじっくり味わわせてもらうぺろ。その顔によだれを塗りたくりながらぺろ」


 そして、イートンを取り込んだのはイン。

 ハンマーを振り上げたままの姿勢でスライムにまとわりつかれて全身を固定され、目の前で明滅するインのレンズめがけて振り下ろすことのできないイートンにインがささやく。

「トーナメントを制して前女王のブレザーを打ち破った現女王のイートン。あなたこそわが評議会のセンターであるインの相手に相応しい。現女王という高貴な存在を汚すことこそ至高の瞬間。この私の手によって無垢な少女から汚辱にまみれた女となるのです。そのためにわざわざ思念エネルギーを精製して、元の姿サイズにもどしてあげたのですから」

 その言葉にイートンは知る。

 音楽室でのセーラーと制服評議会の会話で制服評議会が「イートンの身体であれば中身が人間の男であっても問題ない。逆に中身がイートンでも身体が人間の男なら参加させない」と言っていた真意を。

 そうやって制服評議会がイートンの身体“だけ”にこだわった理由を。

 最初からイートンの身体だけが目的だったのだ。

 そして、それぞれのレンズによって囚われたイートンが、ボレロが、セーラーが、ワンピが、ブレザーが、スクールセーターが悟る。もがくほど抵抗するほど悲鳴を上げるほど、それが、ヒギャクとシギャクを喜ばせ、その快楽感情がそれぞれのレンズの――スライム全体の活力源として供給されるということを。

 こんなのに……勝てるわけ、ない。

 六人全員がそうつぶやいた時、スライムの脈動が止まった。

 どうした?

 なにがあった?

 ざわざわとスライムの表面が波打つ。

「こ、これは……まさか」

「おうおう。異物がまじってやがるぞ」

「くんくん。毒だ、毒、毒毒毒毒。すうはあしてる場合じゃない。止めねば息を」

「ダメダメダメダメでございますよ。こればかりは」

「ぺっぺっぺっ。万一舐めたら最悪ぺろ」

「揉んでいる場合じゃないもみ。触れるのも不快もみ。早く離れねば、早く逃げねば」

 スライムが“がばあ”と左右に割れる。

 体内に取り込んでしまった毒塊から逃げるように。

 その中央でパニックに陥ったように激しく明滅しているのはインのレンズ。

 そして、その正面でハンマーを振り上げた姿勢で固まっているのはイートン――ではない。

 六つのレンズが狂ったように明滅を繰り返す。

 男子だ、男子校生がいる。

 毒だ、離れろ。

 身体を固定しているスライムが、潮の引いていくように離れていく感覚に全身を覆われている高見充駆がそこにいた。

 剥き出しになったインのレンズが悲鳴にも似た声を上げる。

「“人間の男”っ。なぜ、ここにっ」

 充駆が叫ぶ。

「あんなことを言われて黙って引っ込むわけねえだろっ」

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