第9話 ファイナルゲーム(その8)
公園で思念エネルギーの小ビンを差し出した充駆が言う。
「でも、最後にきいてほしいことがある」
涙目で自分を見つめるイートンへ充駆は静かに頭を下げる。
「僕も連れていってほしい」
「……充駆さん。でも、でも」
「よろしいんじゃなくて」
戸惑うイートンの背後でブレザーがつぶやく。
「大会での戦いっぷりを思い出すと、一緒にいたら面白いことになりそうですし」
「オレはセーラーがいいならいいぜ」
「ブレザーの言う通りだな。思念エネルギーによって元の姿に戻ったと思わせておいて……。展開次第じゃ切り札になるかもな」
「……ボクもそう思う」
インのレンズが自身を守らせようと悲鳴を上げる。
「ヒギャクっ。逃げてはいけません。守りなさいっ」
しかし、ヒギャクのレンズは冷たく吐き捨てる。
「女子の攻撃ならいくらでもよろこんで受けるでございますが、男子の攻撃など誰が受けるかでございますよ。うひひ」
ハンマーを支える充駆の非力な両腕を最後まで支えていたスライムが、逃走を決めたヒギャクの意思で離れていく。
あとはそのまま、ただ、そのまま、充駆の握ったハンマーが重力に導かれて振り下ろされる。
インのレンズを目がけて。
その打撃面がレンズに触れる直前、その中で一瞬浮かんだ恐怖にゆがむ顔は祐未に言い寄るエロ槻の面影があるように見えた。
もちろん、充駆はためらわない、同情しない、そして、容赦しない。
そのままインのレンズを叩き砕く。
直後。
制服評議会を構成していたスライムが四散して屋上にその断片を散乱させる。
それらは開放されたスクールセーター、セーラー、ブレザー、ワンピ、ボレロ、そして、十センチのイートンと充駆の見ている前で、打ち上げられた小魚のようにびちびちと跳ねていたが――やがて動きを止めて干からびて、そして、蒸発していった。
跡形もなく。
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