第9話 ファイナルゲーム(その5)

 充駆がブレザーから逃れる時に破壊した屋上への扉は、とっくに復旧されて元の姿を取り戻していた。

 この扉の向こうに制服評議会がいる――イートンが緊張しながらドアノブを握る。

 しかし、それは当然のように施錠されていた。

「鍵、かかってるっすか」

「うん」

 頷いたイートンは充駆がやったようにハンマーを集束させて扉を壊す。

 そして、同様に右手へ太刀を集束させたボレロと一緒に屋上へ出る。

 大きな排気装置やソーラーパネルが配置された屋上の中央付近に六つのレンズを瞬かせてゆらゆらと揺れる四畳半ほどのスライム――制服評議会が浮いていた。

「思ったよりも時間がかかりましたね。でもよかったです。ふたりだけとはいえここまで来てくれて。みんな楽しみに待ってたんですよ」

「おうおう。他のヤツらはなにしてやがんだよ。わざわざ悪魂どもを動員したのも“ズタボロ状態”で憔悴した全員を見たかったからなんだぜ? まさか、やられてねえよなあ? ひゃひゃひゃ」

「じゅるりじゅるり。ああ、もう。想像しただけで想像しただけで、たまらないぺろ」

「すうはあすうはあ。もっと近くへ、もっと近くへ来るくん」

「いやいや、待ちかねてたんでございますよ。うひひ」

「なでなで。ずっと我慢してたんだもみ。この時を待ってたんだもみ」

 浴びせるように次々と掛けてくる声を無視してイートンとボレロが目線を交わす。

 そして、頷き合って制服評議会に飛びかかる。

 イートンがハンマーを振り下ろしてぶったたく。

 ボレロが太刀を振り抜いて斬り裂く。

 手応えはあった。

 しかし、制服評議会はなんの動揺も見せず、何事もないように浮いている。

「終わりでございますか? もっともっと強烈なものを頼みますよ。うひひ」

 笑いを堪えているような制服評議会の声にボレロが返す。

「やせ我慢っすか。だったら根を上げるまで切り刻んでやるっす」

 そして、再度飛びかかる。

 イートンが続く。

 しかし――。

「どうしました。終わりですか?」

「ひゃひゃひゃ」

「ぺろぺろ」

「くんくん」

「なでなで」

「うひひ」

 どれだけ刃を突き立てても、どれだけハンマーをめり込ませても、制服評議会はなんのダメージも見せず、ただ、浮いている。時折、押し殺したような笑い声を漏らしながら。

 その様子にボレロが苛つく。

「なんなんすか、制服評議会こいつらって。もおっ」

 そこへ背後から声が掛かる。

「相変わらずはえーよ。オマエら」

「外の悪魂はすべて返り討ちにしましたわ」

「スクールセーターから聞いた。ボレロ、無事でよかった」

 ワンピとスクールセーターの手を握るブレザー、そして、セーラーがいた。

 ひとりも欠けることなく現れた援軍に安堵の息をつくイートンと「おおっ、おひさしぶりっす」と声を上げて表情を輝かせるボレロだが、制服評議会はそんなふたり以上に楽しげハイテンションな声を上げる。

「おお、おお、やっと来たのでございますね。待ってたのでございますよ。早く、本気の一撃を食らわせてくださいよ。うひひ」

「言われるまでもない」

 セーラーの右手に槍斧が握られる。

 同様にワンピの手に大型手裏剣が、ブレザーの手に短機関銃が、そして、スクールセーターの袖口に触手が顔を覗かせる。

「行くぞ」

 セーラーの号令に合わせて一斉に飛びかかる。

 イートンのハンマーが、ボレロの太刀が、セーラーの槍斧が、ワンピの手裏剣が、ブレザーの短機関銃が、スクールセーターの触手が、制服評議会を叩く、斬る、穿つ、裂く、狙撃する、締め上げる。

 しかし

 しかし

 しかし

 結果は変わらない。

 さっきまでと同じく、制服評議会はなんの変化も見せずただへらへらと浮いている。

 ワンピが切れる。

「オレらがよってたかってご奉仕してやってんのに、なんの反応もなしかよ。××野郎が」

 その言葉にブレザーが。

「ちょ、お下品ですわよっ」

 その時、不意に“ぶつっぶつっ”というノイズが聞こえた。

 反応したのはボレロ。

「なんの音っすか?」

 全員が耳を澄ませる中で屋上片隅のフェンスに据え付けられたスピーカーから校内放送が流れる。

「ぽぽぽぽぽぽ」

「ああ、ちょっとぽぽちゃん。いい子だからおとなしく……。む? 流れておるのか? あー、あー、あー」

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