第9話 ファイナルゲーム(その4)
イートンは思い出す。深層域であったことと充駆の部屋で聞いたことを。
深層域で制服廃止論者を貫いた制服評議会の欠片である“銃弾”は、ボレロに取り憑いて鍵を追った。
そして、その一部はさらにイートンへと乗り移った。
制服評議会の言葉を反芻する。
イートンへと乗り移ったのは“一部だけ”だった。
それはすなわち“それ以外の断片”が今もまだボレロの中に残っているという意味だった。
戸惑うイートンを置き去りに、スクールセーターがひとりごちる。
「制服廃止論者……お願い」
かすかな声が返す。
「最初ニ
小さな舌打ちのあとで、スクールセーターの口元から覗いた制服廃止論者の断片がするりとボレロの外耳道を経て頭蓋に侵入した。
その不快感にボレロが暴れる。
スクールセーターは自身の身体ごとボレロの全身に触手を回して縛り上げる。
やがて、ボレロの動きが止まる。
「ボレロ……?」
おずおずと声を掛けるイートンにスクールセーターが触手の自縛を解きながら答える。
「ボレロの中で……制服評議会の断片が……全身に転移して……身体を操っていた」
イートンがボレロとスクールセーターの間できょろきょろと視線をさまよわせる。
ボレロは廊下にあおむけのまま動かない。
開いた目は天井を向いているものの、その焦点は合っていない。
赤い目のイートンが必死に言葉を絞り出す。
「ボレロは……まさか……このまま……」
スクールセーターが答える。
「心配ない……。制服評議会の断片が……深層域で鍵を追いながら……ボレロの身体を修復していた。今……ボレロの身体の中で……ボクがお願いして移ってもらった制服廃止論者の断片が……制服評議会の断片を中和消去してる。それが終われば……修復がなされている肉体から……制服評議会の断片がいなくなれば……ボレロの意識が戻る。元のボレロに戻る……はず」
イートンはその場にへたりこむと声を上げて泣いた。
「よかった……よかった」とつぶやきながら。
その声にボレロが目を覚ます。
「ん? ん? ん?」
きょろきょろと周囲を見渡したあとで、となりにぺたりと座って自分を見ているイートンに目を凝らす。
「ん? んん? イートンっすか?」
その口調と表情からボレロの正気が戻ったことは明らかだった。
イートンはボレロへ抱きつく。
驚いた表情を浮かべて固まるボレロにイートンがまたしても泣く。
「ボレロ……よかった……よかった……」
ボレロもまた
「イートンイートンイートン」
いつものように愛しいその名を連呼しながらイートンを抱きしめる。
しかし――ふと顔を上げたボレロの目線が、ぐったりと座り込んで壁にもたれかかっているスクールセーターに留まった。
「お、おおおおおおまえはっ」
イートンが慌てて制する。
「だだだだだ大丈夫だから、ボレロ、聞いて。話を」
「なるほどっ。わかったっす。早く屋上へ行くっす。そして、制服評議会をぶっ倒すっす!」
経緯を聞いたボレロが立ち上がる。
そこへスクールセーターが消えそうな声を掛ける。
「ごめん……ボクはちょっと動けない」
それまで体内に残留していた制服廃止論者の断片をボレロに移したことで、クスリが切れたような状態なのかもしれない。
ボレロが親指を立ててウインクする。
「気にしなくていいっす。休んでから来ればいいっすよ」
そして、イートンを見る。
「じゃあ、行くっす」
イートンが応える。
「うんっ。行こうっ」
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