第9話 ファイナルゲーム(その3)
イートンとスクールセーターが西階段を駆け上がる。
三階までの西階段とは違って東階段なら一階から屋上までそのまま上がれたのだが、生徒玄関より東側は大型悪魂がセーラーめがけて伸ばしたキノコに遮られていたのでしょうがない。
三階まで上がってそこから廊下を走って東階段へ向かう。
生徒玄関側は教室が並んでいるので廊下から外の様子を把握することはできない。
ただ、相変わらず悪魂のものらしいケモノの咆吼とブレザーの銃声、そして、ワンピの怒声とも哄笑ともつかないものがかすかに漏れ聞こえてくることから、玄関前の死闘が続いているらしいことがわかる。
そして、ブレザーとワンピが無事なことも。
三年一組の教室の前でブレザーと対した時に散布した消火剤は学校施設の復旧作用の範疇らしくきれいさっぱり消えていた。
その先には北校舎への全天開放型連絡通路、さらに向こうには東階段がある。
誰?――イートンは東階段のかたわらに人影を見た。
人影は屋上へ向かう者を警戒しているように、待ち構えているように、そして、迎え撃つように階段を見下ろしている。
その人影が廊下を走ってくるイートンとスクールセーターの気配を感じたらしく顔を向ける。
その姿にイートンが叫ぶ。
「ボレロっ」
確かにそれはボレロだった。
しかし、そのボレロは次の瞬間、右手に集束させた太刀を構えながらイートンへと突進してくる。
そして、その太刀を間合いに入ると同時にためらうことなく振り抜く。
イートンは慌てて集束させたハンマーの柄で刃を受ける。
ボレロが受け止められた刃越しに顔を寄せる。
イートンがその名を連呼する。
「ボレロっ、ボレロボレロボレロ」
それは再会の喜びというよりも、明らかに尋常でない今の様子から正気に戻ることを願うような悲痛な叫び。
しかし、ボレロはそんなイートンの声にも表情にもためらうことなくイートンの顔面へ頭突きを見舞う。
「……ボレロ」
涙目で後ずさりするイートンへボレロが太刀を振り上げる。
そこへイートンの背後からスクールセーターが触手を伸ばす。
スクールセーターは触手をイートンの胴にまとわりつかせると、そのまま、ぐいと引き寄せる。
ボレロがイートン目掛けて振り下ろした太刀が空を切る。
直後、ボレロは間髪入れずさらに一歩踏み込んで逆袈裟切りに太刀を振り上げる。
スクールセーターもさらにイートンの身体を引っ張る。
またしても空を切るボレロの太刀。
同時にスクールセーターの触手を自ら振りほどいたイートンが、がら空きになったボレロの胴にしがみつく。
もしこれがボレロでなかったら容赦なくその無防備な肋骨をハンマーで叩き砕いていただろう。
しかし、イートンにそれはできなかった。
どういう理由かはわからない。
なにがあったのかはわからない。
とにかく、ボレロは戻ってきてくれた。
そんなボレロが、今は明らかに正気を失っている。
振り回している太刀はボレロの意思ではない――と思いたい。
そんなイートンの心中を知る由もないらしいボレロは、振り上げた太刀をくるりと回して逆手に持ち替えると、しがみついたイートンの背中へ突き立て――ようとしたところで、その手首にスクールセーターの触手が絡みついてそれを阻止する。
ならばと、ボレロはしがみついたままのイートンにヒザ蹴りを入れて振り払うと、触手が絡んだ両手首をぐいと引っ張り返す。
スクールセーターがその動きに合わせるようにボレロに飛びかかる。
そして、そのまま全体重を浴びせてボレロを押し倒す。
同体のボレロとスクールセーターをイートンは見下ろすことしかできない。
そのイートンへ、床に押さえつけたボレロの目を覗き込みながらスクールセーターが告げる。
「ボレロの体内に……まだ……制服評議会の断片が……残ってる」
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