第5話 殺しあう!(その10)
「さて、待ち伏せているのかしら」
破壊された屋上への扉を前にブレザーが立ち止まる。
「かといってここで立ち止まっていては、考える時間を与えるだけですわね」
思い直して屋上へ出る。
ふっと表情がほころぶ。
いつのまにかすっかり独り言上手になってしまいましたわ。
もちろん理由がありましてよ。
イートンにはボレロがいる。
このふたりはいつも一緒にいる、誰がどう見ても仲のいい親友同士。
セーラーにはワンピがいる。
ワンピはセーラーを競合相手として見ているのか、あるいはあこがれの手本として見ているのかわからないけれど、でも、ふたりはとても仲良し。
常にワンピはセーラーのことを……あら?
もしかして、今回の決勝をイートンに譲ったのって、もしかしたらセーラーがイートンに敗れたことと関係あるのでしょうか。
思考がそれましたわね。
戻しましょうか。
イートンにはボレロ、セーラーにはワンピ。
そして、わたくしにも、相棒がいましてよ。
少し前までずっと一緒にいた親友が。
今はどこでどうしているのやら、ここ数日は会っていませんけれどね。
わたくしがこんなに独り言上手になってしまったのは、ふいに話し相手がいなくなってしまったことが原因なのでしょう。
一体どうしているのでしょう。
わたくしの大切な大切な大切な大切な……。
屋上に出たブレザーは、そんなことを考えながら周囲を見渡す。
出てきた扉の上には給水タンク、そして、巨大な空調設備といかにも後付けの新しいソーラーパネルが並び、けして見通しはよくない。
どこかに隠れているんでしょうね。
警戒しながら周囲を見渡す。
少し離れた所でなにかが落ちる音がした。
反射的に目を向けると屋上縁のフェンスの一部が破られている。
「あの下は中庭……。なるほど。そこから下へ逃げた、あるいはそう見せかけた――のどちらかというわけですのね」
ブレザーは周囲への警戒心を怠ることなく、視野を屋上全体に確保したままフェンスへ向かって後ずさりするように距離を詰めていく。
フェンス際に達した。
身体をひねっておそるおそる中庭を見下ろす。
同時にソーラーパネルの陰から充駆が飛び出す。
右手にハンマーを集束させながら。
「予想通りですわ」
ブレザーが振り返る。
しかし、すぐには撃たない。
外した場合のソーラーパネルをはじめとする屋上施設による跳弾を懸念して。
充駆が目の前に迫る。その手の中でハンマーが形成されていく。
今ですわ。
眼前の充駆が形成を完遂したハンマーを振り上げた瞬間、引き金を引く。
たたたたたんと撃ち出された銃弾が、至近距離の充駆の腹部にぼすぼすと弾痕を穿ち鮮血を迸らせる。
それでも倒れず、立ち止まらす、苦悶の表情を浮かべて迫る充駆はハンマーを放り出すと、両手でブレザーの両腕ごと抱きしめて破れているフェンスの外へと押し倒す。
同体で屋上から飛び出すふたりの少女。
ブレザーは落下しながらも手首を返して充駆の脇腹へ銃口を突きつけて引き金を引く。
銃弾が体内に撃ち込まれるたびに充駆の――正確にはイートンの――華奢な身体が空中でがくがくと痙攣する。
どさり。
十メートル下の地面へ少女たちは重なり合ったまま落下した。
下敷きになっているのはブレザー。
しかし、そこは中庭。
校舎の反対側に位置するアスファルト敷きの駐車場とはちがって、芝生の植えられた土の上。
人間ならともかく、ブレザーにとっては致命傷になるほどの衝撃ではない。
ブレザーは苦痛に顔をゆがめはしたものの口角を上げて、銃創だらけの身体で覆い被さっている血まみれの充駆を押しのける。
そして、目を見張る。
押しのけた充駆のすぐ向こうには、屋上で充駆が放り出したままになっていたハンマーが迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。