第5話 殺しあう!(その11)

 南北の校舎に挟まれた中庭で、並んで横たわるふたりの制服少女はどちらも死体だった。

 ブレザーの頭部は落ちてきたハンマーに押し潰されて見る陰もない。

 そのとなりで、ハンマーで潰された時に飛散したブレザーの体液や体組織に片方の頬を、そして、わき腹からのえぐるような短機関銃の銃撃で迸らせた血で全身を濡らした充駆は空を見たまま息絶えていた。

 校内放送が告げる。

「じゅるりじゅるり。判定ぺろ」

 少しの間を置いて。

「先に死亡したのはブレザーぺろ。よって勝者はイートンぺろ。女王交代ぺろ。次期制服デザインの主流はブレザーからイートンに移行しますぺろ。じゅるりじゅるり」


 ふたりの横たわる中庭を北校舎の屋上から見下ろしていたボレロがぽかんとつぶやく。

「イートンが……勝ったっす」

 その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。大きな胸を揺らしながら。

「勝ったっす勝ったっす勝ったっす」

 となりでワンピがフェンスにもたれかかりながら。

「判定ってなんだよ、本当にブレザーが先に死んでたのかあ」

 セーラーが答える。

「考えるまでもないだろ」

「あ?」

「屋上に出たイートン――いや、充駆といったか“人間の男”は――ソーラーパネルに身を隠していた。そして、ブレザーが出てくるのを待ってフェンスへとハンマーを投げた。ハンマーはフェンスを破って中庭へ落ちる。その音に反応したブレザーがフェンスに近寄る。そして、中庭を見下ろす。そこへ落ちたハンマーを一旦消した充駆が殴りかかる。振り向いたブレザーが充駆に至近距離で引き金を引く。充駆はハンマーを頭上に放り投げてブレザーと同体で身を投げる。落ちながらブレザーは充駆に銃口を押しつけて引き金を引き続ける」

「で? その時点でブレザーの勝ちじゃね?」

「いや、人体は心臓をぶち抜かれても絶命するまでは十秒ほどの時差ラグがある。十メートルの屋上から地面に激突するまでは一秒と少し。充駆は中庭に落ちてから十秒弱は生きていた。一方のブレザーは即死。直後に落ちてきたハンマーで頭を潰されて」

 そして、考える。

 自分の時も同様に落ちてきたハンマーで頭を割られたが即死までには至らなかったのは、即死したブレザーのケースよりハンマーの落下距離が短かったことで受けた衝撃が軽かったゆえだろう。

 納得したワンピがため息をひとつ。

「よってイートンの勝ちってか」

 改めて中庭を見下ろすワンピとまだぴょんぴょんと飛び跳ねているボレロに背を向けて、セーラーが階下への階段へ足を向ける。

「さて、行こうか。授与式へ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る