第2話 眼鏡と妖精、さらに……触手(その1)

「おい」

 ――どこかで誰かを呼んでいる少女の声が聞こえた。

「おい」

 充駆は青い空を見上げたまま、ぼんやりと聞き流しながら両手で目をこする。

「おい」

 まだ呼んでいる。

 呼ばれているヤツはとっとと答えてやれよ――そんなことを思いながら落とした目線の先にひとりの少女が立っていた。

「さっきから呼んでるのに、どーして無視するっすか」

 眼鏡越しに充駆を睨み付けている様子から、さっきから呼ばれていたのは他ならぬ充駆のことだったらしい。

 しかし、充駆はこの少女に見覚えはない。

 丈の短い上着の下はジャンパースカートだが、ここらにこんな制服を採用している学校はない。

 外はねショートの髪は本来なら大人っぽく見えるのだろうが、低い身長と幼さの残る顔立ちから充駆より年下に見える。

 しかし、その制服に押さえつけられたグラマラスな胸元は立派な大人のそれである。

「誰?」

 充駆が眉をひそめたのと同時に横断歩道の信号が青に変わり、スピーカーがカッコウと啼く。

「うひゃいっ」

 その音に大げさに驚いた少女は飛び上がる。

 しかし、ぽかんと見ている充駆の視線に慌てて平静を装う。

「は、話があるから来るっす」

 そう言って道路脇の公園をびしいと指さす。

 そこへさらに別の声が割って入る。

「もういいよう。いいから帰ろうよう」

「いいわけないっす。がつんと言ってやるっす」

 少女はどこからか聞こえた声に答えながら、充駆を先導して公園へと入る。

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